【完結】兄貴が異世界に行きやがったらしわ寄せは全部俺に来た ~背の低い不良男子高校生が、背の高い年上幼馴染の彼女ともう一度繋がるまで~   作:八月森

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9話 こういう時ぐらい格好つけさせろよ

 あれは確か、中学一年の頃。

 既に授業についていけず、テストに不安を覚えたオレは、兄貴に勉強の仕方を聞いてみたことがあったのだが……

 

 

「? テストなんて普通に授業聞いてれば点取れるだろ?」

 

 

 五日ほど、ぶん殴ってやろうかという衝動を我慢した記憶がある。

 

 やれば大抵のことはできてしまうあのクソ兄貴は、できない奴の苦労を基本的に理解できないのだ。それと比べられるこっちの身にもなれと何度思ったことか。

 

 

(……また余計なこと思い出しちまった)

 

 

 先日、期末テストの出題範囲が張り出され、クラスがにわかにテスト勉強の空気に包まれていたせいだろうか。なんにしても気が滅入る。

 

 そんな俺の心情を代弁するかのように、帰りの空模様は雨だった。土砂降りというほどではないが、結構な勢いで雨粒が地面に叩きつけられている。

 

 幸い、傘は持参してある。下駄箱で靴を履き替え、傘立てから自分のを抜き取り、玄関に出たところで――

 

 

「……」

 

 

 玄関口で立ち尽くす、見覚えのある後ろ姿を見つける。

 

 

(……小春(こはる)?)

 

 

 170の長身に、ふわふわとした茶色のショートボブ。間違いなく小春だ。彼女は時折空を見上げては、迷うようにまた視線を落とすのを繰り返している。

 

 察するに傘を忘れたのだろう。今は周囲に人も少ない。これはチャンスだ。少し緊張しながら、意を決して声を掛ける。

 

 

「小春」

 

「え? あ、晴人(はると)くん? 晴人くんも、今帰り?」

 

「ああ。……傘、忘れたのか?」

 

「うん、そうなの。だからどうしようかと思ってて……」

 

「なら――」

 

 

 俺は自分の傘を開き、普段より腕を高く上げながら、小春を中に入れてやる。

 

 

「俺のでよけりゃ、送ってってやるよ」

 

 

 言いながら、俺は赤くなった顔を見られないよう顔を逸らした。なんだこれ。このシチュエーションに持ち込んだだけで、いやに照れる。なんだこれ。

 

 

「……いいの? ありがとう、晴人くん。それじゃあ――」

 

 

 礼を言うと、小春は傘を握っていた俺の手をそっと解き、自分で傘を持ち始めた。は?

 

 

「持つのは代わりにわたしがするね」

 

「なんでだよ!」

 

「だって、わたしのほうが大きいせいで、晴人くんずっと手を高く上げなきゃいけないでしょ? それは申し訳ないから」

 

「こういう時ぐらい格好つけさせろよ!」

 

「ダメです。返しません。ほら、早く帰ろ」

 

 

 小春はこちらを見下ろして微笑み、ギュっと持ち手を握った傘を差し出してくる。

 

 こういう時の――他人のために行動する時の小春は頑固だ。意地でも渡さないつもりだろう。

 

 無理やり奪い取ることもできたが……それで傘を壊したり、小春に怪我をさせたりしたら本末転倒だ。

 

 

「~~……分かったよ。それでいいから、もう行こうぜ」

 

「うん」

 

 

 俺たちは(いびつ)な相合い傘に入りながら、校舎の外へ歩き出した。

 

 雨は降り続いている。道端の紫陽花の花に雫を落とし、花弁を濡らし、照らしている。

 

 しばらくそうした雨の風景を眺めながら取り留めのない世間話を続けていたが、不意に小春は、俺があまり聞きたくない話題を口にしてきた。

 

 

「そういえば、そろそろ期末テストだね。晴人くんは勉強してる?」

 

「……してねぇ」

 

 

 俺は正直に答えた。よくある「してないフリして実は勉強してる」ではなく、本当にしていない。

 

 

「もう。ちゃんとしたほうがいいよ?」

 

「まだ一年の一学期だぜ? そこまで気にしなくてもいいだろ。親父も母さんもうるさく言ってこないしな」

 

 

 うちは基本放任主義なので、テストの点で叱られた憶えはない。二年、三年と進級し、進路が差し迫ってくれば、さすがに口を出してくるかもしれないが。

 

 

「でも、晴人くん前から勉強苦手だったでしょ? もし留年するようなことがあったら、わたしともっと学年差ついちゃうよ……?」

 

「ぐ」

 

 

 クソ、痛いとこ突いてきやがる。

 ただでさえ二年も歳が違うのだ。これ以上離されるのはできれば避けたい。

 

 

「分かったよ。やりゃあいいんだろ。……つってもな」

 

 

 正直どこで(つまづ)いてるのか分からないレベルなので、どこから手をつければいいのか途方に暮れる。

 

 そんな俺を見て、小春はしばし何かを考えるような仕草を見せた後、こんなことを言い出した。

 

 

「ね。良かったら、わたしが勉強教えてもいいかな?」

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