【完結】兄貴が異世界に行きやがったらしわ寄せは全部俺に来た ~背の低い不良男子高校生が、背の高い年上幼馴染の彼女ともう一度繋がるまで~   作:八月森

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~その頃の兄⑪~ 新しい技を覚えて試す時が一番ワクワクするからな

「それじゃ、検証を始める」

 

「おし、来い!」

 

 

 陽が傾き、その日の野営地を定めてから。

 

 オレは距離を取って向かい合うトリーシャの掛け声に気合を入れて応じ、聖剣に白い炎を灯した。脇では姫さんが少し心配そうに、エレナは面白いものを見るように、それぞれ観戦する構えでいる。

 

 先日の魔族との戦闘で、この剣の能力が『封印』であることはなんとなく掴めた。今日はさらに理解を深めるため、何ができて何ができないかを検証することになったのだ。能力を把握することは、今後の生存率にも直結するからだ。

 

 そこで最初に手を挙げたのがトリーシャだ。魔術師として、知識の探究者の側面に火が付いたのかもしれない。彼女の提案で、まずは放たれた魔術に対処できるかどうかを調べる運びとなった。彼女の唇から詠唱が紡がれる。

 

 

「《我が手に集え水の精。天の雫。地の水脈。留まり、ねじれ、球を成し、眼前の敵を打ち据えん》」

 

 

 以前の模擬戦の時とは違い、掲げる杖の先一か所だけに水が集まり、ボウリング球ほどの水の弾が生成される。そして――

 

 

「《水弾、ウォーターストライク》」

 

 

 詠唱の結尾と共に、こちらに勢いよく射出される。

 

 前回もそうだが、彼女が水の魔術を選択したのは、直撃した場合の怪我を抑えるためだろう。ただこれも前回と同様、あの勢いで飛んでくる水の塊に当たればそれだけで痛いのも間違いない。なのでオレは――

 

 

(あの魔術を、封じる……!)

 

 

 それを意識しながら、迫る水の砲弾を聖剣で迎撃する。

 剣の切っ先、それが纏う炎が対象に触れた瞬間――

 

 ボゥ――!

 

 と、炎が水弾の勢いを殺し、包み込むように燃え広がる。通常の火ではないからか、水と衝突したのに蒸発する様子もない。

 

 水弾を丸ごと呑み込むと、炎は次第に圧縮されていき、小さな火の玉のようになってその場に浮かび上がった。

 

 

「成功した……みたいだな」

 

 

 ホっと息をつく。そこへトリーシャが近づき、火の玉とその中身を興味深そうに眺める。

 

 

「魔術を打ち消すのではなく、封じてその場に留めてる。しかも体積も縮めて……面白い現象。……解除はできる?」

 

「ああ、やってみる。危ないかもしれないから、ちょっと下がっててくれ」

 

 

 そう言ってオレ自身も火の玉から離れ、胸中で封印を解くよう念じてみると……

 

 バシャっ!

 

 水はその場で破裂するように四散し、地面の土を濡らした。

 

 

「魔術の制御から離れて、推進力は失ったみたいね。飛び散ったのは、圧縮されていたものが元の大きさに戻った反動? なるほど……。それじゃ、次に行く。《……四方に集え水の――》」

 

 

 トリーシャは興味深そうに頷いた後、再び詠唱して魔術を発動させる。今度は、以前の模擬戦の際に使った、複数の小さな水を撃ち出す魔術だ。水たちは主の命令を待つように空中に浮遊している。

 

 

「この無数の水を、どれぐらい封印できる?」

 

「こないだの魔術か……よし、やってみるか」

 

 

 と、意気込み、聖剣の炎に当てていくつか封印できたはいいものの……

 

 

「ぐぼぉ!?」

 

 

解眼(かいがん)〉を併用し、道筋を見出し身体能力を解放しても、さすがに全ての水弾を封印することはできず、全身に何発もの水の塊を喰らって悶絶した。

 

 

「封印できるのは炎が当たった箇所のみ。物量で攻められると対処できない、と」

 

「れ、冷静にコメントしてないでもうちょっと労わってくれ……」

 

「それじゃ、次の検証」

 

 

 オレの抗議は華麗にスルーされた。

 

 

「アキトはこの前、魔族の『再生能力』を封じた。それに、聖剣が自分で鞘に封印されていたのかもしれないと推測も立てた。それが正しければ、その能力はかなり応用が効く可能性がある。他のもの……例えば、生物が相手だった場合は? 何をどこまで封じられる?」

 

「生物……動物とか魔物とかか? でも今は近くにいないんじゃないか?」

 

「いる。ここに四人も」

 

「四人……って、オレたちの身体で試すのか!?」

 

 

 トリーシャがコクリと頷く。

 

 

「別に斬られるわけじゃない。封印する力はその白い炎によるものなのだから、炎にさえ触れていれば検証はできる。それにさっき封じた水のように、元に戻すのもアキトの意のままのはず」

 

「いや、でも……普通とは色が違うとはいえ、火だぜ? 火傷するんじゃないか?」

 

「仮に火傷を負うとしても、治癒すれば済む話。それに、そもそも――」

 

「そういうことでしたら」

 

 

 ここで、唐突に姫さんが会話に混ざってくる。

 

 

「私がその炎に触れてみます」

 

「ひ、姫さん?」

 

「白い炎は聖なる炎。法術の《火の章》と同じで、私たちを傷つけるものではないはずです。それに、もし違っていてもトリーシャが言う通り、私が自分で治癒すればいいのですしね」

 

 

 あぁ、そういえばこないだの戦いで法術の白い炎に包まれても、火傷一つ負わなかったな。

 

 

「や、でも姫さん」

 

 

 本当に同じものとは限らないんじゃ……

 

 

「……私は、アキト様の稽古は、いつもエレナとトリーシャに任せきりでした」

 

 

 それが歯がゆかったのだと、彼女は目を伏せて主張する。

 

 

「ですから、こんな時くらい、私も何かアキト様のお役に立ちたいのです」

 

 

 今までずっと姫として護られてきた彼女は、他の二人に引け目を感じていたのかもしれない。稽古の後に毎回治癒してもらってるし、戦闘でも助けてもらっているのだから、そんなに気にすることはないと思うんだが……彼女のほうに引く気はなさそうだ。

 

 

「……分かったよ。姫さんにも検証に付き合ってもらう」

 

「……! はい!」

 

「ただし――……先にオレが触って、安全を確かめてからだ」

 

 

 言葉と共に、オレは聖剣から放たれる白い炎におそるおそる触れてみる。すぐに手を引っ込める準備もしていたが……

 

 

(……熱くない、な)

 

 

 炎はオレの手を燃やすことなく、聖剣の刀身を覆うように揺らめき続けている。触れた箇所からほんのりと暖かさを感じた。不思議な感覚だ。これならまあ、姫さんが触っても大丈夫か。オレは刀身を姫さんに差し出した。

 

 

「触っても、大丈夫だと思う。それじゃあ……姫さん、いいか?」

 

「はい」

 

 

 姫さんも若干緊張しているのか、おずおずと白い炎に手を伸ばす。事前に確かめた通り、やはり彼女の手を焼くような様子はない。内心で安堵していたそのタイミングで、トリーシャがオレに近づき、小声で耳打ちしてきた。

 

 

(姫様の『聴覚』を封印してみて)

 

(……分かった)

 

 

 言われた通りに能力を発揮できるよう、オレは意識を集中させ、少ししてから彼女に声を掛ける。

 

 

「姫さん、聞こえるか? 何を言ってるか分かるか?」

 

 

 反応はない。しかしオレが目の前で口をパクパク動かしているにも関わらず、なんの声も聞こえないこと――そして周囲の音の一切が消えたことに、彼女も気づいたのだろう。見るからに慌てふためき取り乱し、焦りを帯びた声を上げる。

 

 

「ア、アキト様!? いったい、何が……!?」

 

 

 オレはそこで封印を解いた。

 

 

「姫さん、落ち着いて。オレの声が聞こえるか?」

 

「……! アキト様……はい……今は、聞こえます……」

 

 

 不安を抑え込むように、そして一転安心したように大きく息を吐く姫さん。人間いきなり何も聞こえなくなるとパニックを起こすもんなんだな……ちょっと悪いことした気がしてきた。

 

 

「申し訳ありません、姫様。咄嗟の反応を見るために、内容を伏せさせていただきました。お叱りは如何様にも」

 

「トリーシャ……いえ、協力を申し出たのは私です。貴女を叱る(いわ)れなどありませんよ」

 

「……ありがとうございます」

 

 

 そう言って、(うやうや)しく頭を下げるトリーシャ。彼女は代々王家に仕える使用人一族の出身らしいので、姫さんに対する敬意も人一倍なのかもしれない。

 

 

「それよりも、人体の感覚も封じられるということは、本当に広く応用が効く証拠でしょう。私も引き続き協力しますから、検証を続けましょうか」

 

 

 その姫さんの言葉に頷き、顔を上げると、トリーシャはオレが持つ聖剣に手を伸ばし、白い炎に触れる。

 

 

「それじゃ、早速次の検証に移る。さっき、放った後の魔術は封じることができた。でも、そもそも私の身体に直接触れた状態なら、もしかしたら『魔術の行使』自体を封じられるかもしれない」

 

「あっ、それならあたしもやりたい! あたしの『動き』を封じるとかできるかな!?」

 

 

 エレナの言葉にも頷き、トリーシャが眼鏡の奥の瞳を輝かせる。

 

 

「順番にやってみる。もしできるようならその次は、同時に二つ以上の物事を封じられるかも検証して――……」

 

 

 そうして彼女の知識欲を満たすかのように、検証は次々と進められた。急がなきゃならない状況で不謹慎かもしれないが、できることが少しずつ判明していくこの状況に、オレは心が躍っていることも否定できなかった。RPGとかプレイしてる時も、新しい技を覚えて試す時が一番ワクワクするからな。何より……

 

 

(これが、ザッハークに通用すれば……)

 

 

 少しでも、その助けになるのなら。この時間も、必要不可欠なものであるはずだ。陽が完全に落ちて夕食の時間になるまで、オレたちは思いつく限りに検証を続けたのだった。

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