【完結】兄貴が異世界に行きやがったらしわ寄せは全部俺に来た ~背の低い不良男子高校生が、背の高い年上幼馴染の彼女ともう一度繋がるまで~   作:八月森

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13話 大した見返りも返せねぇぞ

「ん……」

 

 

 目を覚ますと、夕焼け色に染まった教室に出迎えられた。

 

 しばらく寝ぼけまなこで前方をぼーっと見つめる。窓側から差し込む夕陽の赤が寝起きの目には眩しい。その光景に、大体の時間を察する。

 

 

(今は……もう放課後もだいぶ過ぎた頃か。五、六時限目あたりからずっと寝てたみてぇだな)

 

 

 視界内に他の生徒の姿は見当たらない。もう全員下校したようだ。皆、学年一の不良と関わり合いになりたくないからか、寝てる俺を放って掃除等を済ませたのだろう。そう考えたところで。

 

 

「――やあ。目が覚めたかい、晴人(はると)くん」

 

 

 死角になっていた真横の席から、唐突に声を掛けられる。

 

 

秋月(あきづき)……」

 

 

 右隣に座る黒髪サイドテールの少女、秋月(ねい)が、本を片手にこちらに視線を向けていた。

 

 

「お前、まだ残ってたのか」

 

「読書中だったからね。生徒もみんな帰ったし、静かで落ち着いて読めたものだから、つい熱中してしまったよ」

 

 

 そう言う秋月が手にしていた文庫サイズの本のタイトルは……『ソー○・ワールド2.0ルールブックⅢ』……

 

 

 キャラメイクでもしてたのか? そしてなんで最新の2.5じゃないんだ? ……相変わらずよく分からない女だ。

 

 

「君こそ、こんな時間まで教室で眠っているなんて珍しいね。いつもなら授業が終わる頃には起きるだろうに」

 

「……最近、ちょいと寝不足でな」

 

 

 先日の、小春(こはる)とのデートでの自身の醜態が頭から離れず、夜一人ベッドで悶える日々が続き、あまり眠れていなかった。

 

 

「ふぅん? 小春さんと何かあったのかい?」

 

 

 なんで分かるんだこの野郎(野郎ではないが)。

 

 

「まぁ、言いたくないならいいさ。ちなみに眠れない時は一般的に、日光を浴びたり、運動をしたり、睡眠前に入浴したりして自律神経を整えるといいと言われているね」

 

「いや、そんな一般的なアドバイスが聞きたいわけじゃ――」

 

 

 と、ここで、ポケットに入れていたスマホが震え始める。

 すぐに開いてみると、着信がある。電話だ。相手は……。……? なんで、俺に……?

 疑問に思いながらも、電話に出る。

 

 

「もしもし。――あぁ、うん。はい。どうも。――いや、今日は会ってねぇけど……。――帰ってきてない? ――……分かった。じゃあ、俺のほうでも捜してみる――みます。はい。それじゃ」

 

 

 俺はしばらくスマホの着信履歴を見つめていた。久しぶりの会話だったのでぎこちなくなっちまったがそれはともかく、問題はその内容だった。

 

 

「誰からだい?」

 

「……小春んちの、おばさんから……小春がまだ帰ってねぇらしい」

 

「……ふむ、なるほど。それは親御さんは心配になるだろうね。しかし高校生ともなれば、少しぐらい帰りが遅くなることもあるんじゃないのかい?」

 

「確かにそうだが……小春はあまり寄り道はしないほうだし、遅くなる時には律義に連絡するやつだ。それが、こんな時間までなんの音沙汰もないってのは……」

 

 

 嫌な予感がする。

 すぐにスマホを操作し、小春の番号にかけてみるが……

 

 

「……。……。……クソ、繋がらねぇ……!」

 

 

 考えてみれば当たり前だ。小春と連絡がつかなかったからこそ、おばさんはわざわざ俺に電話してきたのだろうから。

 

 

(どうする……? とりあえずは校内から闇雲に捜すか? けど……)

 

 

 あてもなく学校内を捜し回るだけでおそらく日は暮れるだろう。しかもそれで見つからなければ、さらに広い外を夜の闇の中で探索しなければならない。もしなんらかのトラブルに巻き込まれてるのなら、その時間は命取りになる――

 

 その時、教室の扉が勢いよく開かれる。

 

 

一ノ瀬(いちのせ)晴人! まだ残っておりますかしら!?」

 

 

 聞き覚えのあるお嬢様の声。俺はさらなる面倒ごとの予感に頭を抱えクシャクシャと掻いた。

 

 そのお嬢様――天王寺(てんのうじ)光姫(みつき)は、俺たちの他に人がいないと分かるや、堂々と教室に入ってこちらに近づいてきた。陰にはいつものように藤木戸(ふじきど)(けい)も控えている。

 

 

「一ノ瀬晴人。一ノ瀬章人(あきと)の現状について、何か進展はありましたかしら?」

 

「……悪ぃが、今はそれどころじゃねぇ。あんたの相手をしてる暇は――……」

 

 

 …………いや……待てよ? このお嬢様と兄貴の件で、何か大事なことを思い出しそうな気が……

 

 

(この前会った時、この女は兄貴が自宅にいないのをどうやって確かめたと言っていた……? 確か、天王寺家の情報網と、もう一つ――。……!)

 

 

「――天王寺光姫!」

 

「ひっ!? なな、なんですの!?」

 

 

 突然名を呼ばれてビビるお嬢様に、俺は(すが)るように詰め寄った。

 

 

「あんた前に、兄貴のスマホに位置情報アプリを仕込んだとか言ってたよな!」

 

「え、あぁ~……その件でしたら、あのあと蛍にこってり絞られて反省しましたので、追及はしないでいただけると――」

 

「それ、小春のスマホにも仕込めないか!?」

 

「…………はい?」

 

 

   ――――

 

 

「なるほど……古城(こじょう)小春の行方を知りたいと」

 

 

 簡潔に現状を伝えると、天王寺光姫は顎に手をやり思案げな顔を見せる。

 

 

「ああ。連絡もなく寄り道するやつじゃねぇし、さっき通話を試した時も全く繋がらなかった」

 

「確かに、彼女の性格を思えば今の状況は不自然ですわね」

 

 

 普段から小春と親交があるからだろう。彼女は俺の言葉に素直に頷いてみせた。

 

 

「これがただの杞憂ならそれでいい。俺が心配しすぎってことで笑い話にでもすりゃいい。だが、もし何かの揉め事に巻き込まれてるんだとしたら、急いで見つけねぇと手遅れになるかもしれねぇ。だから――」

 

 

 俺は、お嬢様に深く頭を下げた。傍では秋月や藤木戸蛍も見ていたが構わない。

 

 

「――だから、頼む! 小春を捜すために、力を貸してくれ!」

 

 

 沈黙は、短かった。

 

 

「分かりましたわ。早速、天王寺家の情報部門に打診してみましょう」

 

「え、あ……その、いいのか? そんな簡単に決めて。俺は大した見返りも返せねぇぞ?」

 

 

 あまりにスムーズに了承されたので逆に不安になって聞き返すと、彼女は優雅に笑みを浮かべてみせる。

 

 

「構いませんわ。あなたは、必要な場面で迷いなく頭を下げてみせた。その意気に応えなくては、天王寺家の名が廃るというものですわ。それに見返りならば、このあと一ノ瀬章人の情報を聞かせてくれるだけで十分――」

 

「――お嬢様?」

 

「――もとい! これまで迷惑をかけてきたのはわたくしたちのほうですから。今回のことはその借りを返すという形でどうか一つ」

 

 

 使用人にたしなめられてビビるあたり、相変わらず締まらないお嬢様だが……

 

 

「分かった。恩に着る」

 

 

 俺の謝意に笑顔で応えると、天王寺光姫はスマホを操作し、連絡を取り始める。

 

 

「――もしもし? わたくしですわ。大至急お願いしたいことがあります。わたくしの友人、古城小春のスマートフォンの位置情報を調べていただきたいのです。――え? 違います、今回は人助けですわ! ――ええ。はい。判明し次第、わたくしの端末に転送して――」

 

 

 そして、いやに長く感じた数分の待ち時間の後に……

 

 

「出ましたわ!」

 

 

 その報せと同時に、この場にいた全員がお嬢様のスマホを食い入るように覗き見る。

 

 

「地図上では、位置はこの学校……ですわね。もう少し拡大して……。これは……旧校舎棟の……屋上? どうしてこんな場所に……」

 

 

 屋上は、生徒会室などがある旧校舎棟五階の先にある。新校舎棟四階にあるこの教室からなら、渡り廊下を通って旧校舎に向かい、階段を上がればすぐに辿り着ける。俺は即座に駆け出そうとし――

 

 

「待った、晴人くん」

 

 

 秋月に肩を掴まれ、引き留められる。

 

 

「邪魔すんな秋月! すぐに向かわねぇと……!」

 

「そこに小春さんがいる保証はないのに? スマホだけが屋上に放置されていて、本人は別の場所に連れていかれていたらどうするんだい?」

 

「う……」

 

 

 確かに、その可能性もある。若干頭が冷えた。

 

 

「だから、ぼくも行くよ、親友。捜すなら、人手が多いほうがいいだろう?」

 

「秋月……」

 

「そういうことなら、わたくしたちも行きますわ。いいですわよね、蛍?」

 

「はい。もとより協力するつもりでしたし、彼女の言う通り人手があるに越したことはないでしょうから」

 

「……助かる」

 

 

 短く礼を言ってから、気合を入れる。

 

 

「……っし! それじゃ、行くぞ!」

 

 

 女子三人を連れて教室を出た俺は、旧校舎棟への渡り廊下を駆け抜けていく。

 

 渡り廊下の突き当りはT字路になっており、左右に廊下が伸びた先にはどちらも階段がある。ただし、左の階段は五階まで。屋上まで続くのは右の階段だけになる。

 だから俺たちはT字路を右へ曲がろうとし……

 

 

「――お。ほんとに来やがったぜ」

 

 

 左右の廊下を塞ぐように待ち構えていた十人ほどの不良たちに、行く手を阻まれた。

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