『蒼灰の軌跡』〜届かない光と、全肯定の死神〜   作:こげすずめ

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アカイデアイ②

「ねえ、ボク。よかったらお姉さんが剣を教えてあげようか?」

 

その甘く、ひどく無邪気な誘いに、アルシュの心臓は早鐘のように打った。

 

全身の産毛が総毛立つような、本能的な『死』の気配。

目の前の赤髪の女性は、絶対に近づいてはいけない類の人間だ。

警備隊の父や、ランディが持つ強さとは根本的に違う、濃密な血の匂い。

 

だというのに――強さを渇望するアルシュの心の奥底が、その圧倒的な存在感にどうしようもなく惹きつけられていた。

 

迷いと躊躇に足が縫い止められ、微かに喉を震わせたその時。

唐突に、女性の背後に控えていた大柄な男が低く重い声を発した。

 

「――お嬢。そろそろ時間だ。これ以上は『団長』に示しがつかん」

 

「えーっ? せっかく面白いオモチャ……じゃなくて、ランディ兄の可愛い弟子を見つけたのにぃ」

 

男――ガレスの言葉に、女性はあからさまに不満そうな声を上げて唇を尖らせた。

しかし、その『団長』という言葉には逆らえないのか、「仕方ないか」とあっさりと踵を返す。

 

だが、暗がりへ歩き出す直前。彼女はヒラリと振り返り、アルシュの胸元へ一枚の紙切れを差し出した。

 

「しばらくこの街のホテルに泊まってるからさ。もし『本当に』強くなりたいなら、いつでもおいで」

 

それは、高級ホテルの名前と部屋番号が記されたカードだった。

アルシュが震える手でそれを受け取った瞬間、女性の瞳が三日月のように細められる。

 

「――ああ、それとね」

 

ゾワッ、と。

路地裏の冷たい風が、一瞬にして凍りついたかのように錯覚した。

 

アルシュの全身を、巨大な獣に喉笛を噛み砕かれるような、圧倒的で濃密な殺気が包み込む。

膝がガクガクと震え、文字通り失禁してしまいそうなほどの根源的な恐怖。

息すらまともに吸えないアルシュに向かって、彼女はクスリと笑って囁いた。

 

「アタシのこと、ランディ兄には絶対内緒だよ? ……約束、破ったら殺しちゃうからね」

 

パチン、と茶目っ気たっぷりのウインクを残し。

赤髪の女性と大柄な男は、夜の闇に溶けるようにして路地裏から姿を消した。

 

「はぁっ……! はぁっ……!」

 

二人の気配が完全に消え去って、ようやくアルシュは自分が息を止めていたことに気がついた。

その場にへたり込みそうになるのを必死に堪えながら、手の中のカードを強く握りしめる。

 

恐怖。圧倒的な暴力の気配。

 

決して近づいてはいけないと理性が警鐘を鳴らしているのに。

あの赤髪の彼女が放っていた、目を奪われるほど鮮烈な『強さ』の印象は、

アルシュの網膜と脳裏に深く、強烈に焼き付いてしまっていた。

 

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