『蒼灰の軌跡』〜届かない光と、全肯定の死神〜   作:こげすずめ

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仮面の彼

残された機械兵器を片付け終え、特務支援課とアガット、ティータの面々は、この場から離脱すべく再び地下路線の薄暗い道を歩き始めていた。

 

戦闘の余韻と、言い知れぬ不気味な違和感が沈黙となって漂う中、ロイドがふと口を開いた。

 

「そういえば、ワジ。さっき彼と戦っていた時……『君の動きの基本が僕らなのか』って言ってなかったか?」

 

その問いかけに、ワジは歩みを止めることなく、肩をすくめてみせた。

 

「おや、聞こえていたのかい? ……ああ、そうだよ。ロイドは気付かなかった?」

 

「気付くって……?」

 

「結構彼なりにアレンジされていたけど、あの体術のベースは多分、僕と一緒だよ。ステップの踏み方や、踏み込む際の呼吸がそっくり似通っていた」

 

「ワジと同じって、それはどういう……」

 

「それにね」ワジはさらに言葉を重ねる。

 

「彼がサブマシンガンを撃つ時の構えや重心の置き方、あれはノエルさんの色がありありと見えたよ」

 

「ノエルまで……!? どういうことなんだ、一体……」

 

ロイドが眉根を寄せて考え込んでいると、今度はエイオンシステムを仕舞い終えたティオが、静かに口を開いた。

 

「……ワジさんの言う通りかもしれません。私がジャミングで彼の遠隔操作に干渉した時……彼が組んでいた並列処理のプログラムの『クセ』のようなものを感じました。あれは、考えてみれば……私自身の情報処理のクセに、ひどく近かったような気がします」

 

「ティオのプログラムまで……!?」

 

ティオの言葉に、ティータが不安そうにアガットの服の裾を掴んだ。

 

「あの、それって……特務支援課の皆さんの技術を、あの仮面の人が全部持ってるってことですか……?」

 

「手品師の種明かしとしては、少々出来すぎているね」

 

ワジが意味深に微笑む。

キーアを助けたという事実、そして特務支援課の戦術を網羅しているという不気味さ。

謎が一気に噴き出し、ロイドは眉間を揉むようにして深く考え込んだ。

 

その時、ずっとロイドの隣を歩いていたキーアが、不自然なほど黙り込んでいることに気がついた。

 

「キーア? 大丈夫か、さっきの戦いで少し疲れちゃったかな」

「あっ……ううん! 全然大丈夫だよ、ロイド!」

 

ロイドの優しい声掛けに、キーアはハッとして、慌てていつものような明るい笑顔を作った。

けれど、彼女の頭の中からは、砕けた仮面の奥から覗いた『彼の瞳』がどうしても離れずにいたのだ。

 

「あのね、ロイド。……ロイドって、誰かに武器の使い方を教えたりしたこと、ある?」

 

「え? いや、警察学校で後輩に基本を見せたことはあるけど、誰かに直接教え込んだなんてことはないよ。……どうしてだい?」

 

ロイドが不思議そうに尋ねると、キーアは少し躊躇いながらも、ポツリポツリと話し始めた。

 

「あのね、オルキスタワーにいた時……彼と、ガルシアが訓練してるのを見たの。その時に彼が最初に見せた警棒の扱いが……ロイドそのままに見えたから」

 

「俺と……? ガルシアも、彼のことを知っているような素振りだったが……」

 

「アハハ、それは面白いね。彼のあの何でも出来る器用さなら、ひょっとするとランディみたいなスタンハルバードの豪快な戦い方もできるかもしれないよ」

 

ワジが冗談めかして笑うが、最後尾を歩いていたアガットは、大剣を肩に担いだまま険しい顔で吐き捨てた。

 

「……笑い事じゃねえぞ」

「アガットさん?」

 

「あいつ、動きを把握されてるどころか……俺の剣の呼吸や手癖まで、完全に読み切ってやがった。」

 

歴戦の遊撃士であるアガットの重い言葉に、全員の顔から余裕が消える。

 

「あんなもん、一度や二度やり合った程度で分かるわけがねぇ。よっぽどの馴染みか、死ぬほど手合わせを重ねた相手じゃねぇと、あんな真似は不可能だ」

 

アガットの推測に、地下道は再び重苦しい沈黙に包まれた。

 

今の統一国の協力者であり、「やるべきことがある」と言った彼。

得体の知れない彼の存在と、自分たちとの奇妙な接点に、ロイドたちは深く考え込みながら足を進めていた。

 

――そして、キーアも。

 

(……そんなわけ、ない)

 

みんなの会話を聞きながら、キーアは胸の奥が張り裂けそうになるのを必死に堪えていた。

 

彼がアルシュだなんて、絶対にあり得ない。

だって、アルシュは十歳で亡くなってしまったのだ。

そして、キーアがその悲しい現実を『やり直し』て、全部を無かったことにして……全部を台無しにしてしまったのだから。

 

あんな大人になった姿で、ロイドたち特務支援課のみんなみたいに戦える未来なんて、どこにもあるはずがない。

 

でも。

でも、もしかして。本当にあの人が、あの優しい瞳をした男の人が、アルシュだったとしたら……。

 

(……みんなには、言えない)

 

言えるはずがない。

だって、アルシュにそんな残酷で酷いことをしたのは、他の誰でもないキーアなのだから。

もし彼がアルシュで、キーアを『敵』だと言い放つのなら。それは、彼を死なせ、世界を歪めてしまったキーアが、絶対に受けなくてはいけない『罰』なのだから。

 

「……えへへ」

 

暗い地下道を進みながら。

キーアは誰にも悟られないように、顔に貼り付けた笑顔のすぐ下で、先ほど見た青年の瞳と、記憶の中にあるアルシュの優しい笑顔を重ね合わせ、ただ一人、静かに胸を痛め続けていた。

 

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