『蒼灰の軌跡』〜届かない光と、全肯定の死神〜   作:こげすずめ

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ラピス②

名前を告げた後、どうしたものかと口を噤む。

自己紹介とは言ったものの、僕のこの七面倒臭い状況と来歴を、果たしてどこまで彼らに話すべきか……。

 

「とりあえず、細かい説明は置いておく」

 

少しの逡巡の後、僕は端的に事実だけを口にした。

 

「俺は、あの偽物と同じく……エリュシオンの演算によって生み出された『再現体』だ」

 

すると、その言葉を聞いたラピスが、「えっへん!」とばかりにドヤ顔で胸を張った。

 

「そうよ! だって、私が作ったんだから!」

「……いや、どういうことだ?」

 

突然の『創造主』宣言に、僕はすっかり呆気にとられるしかなかった。

話の腰が折れそうになったところに、ルーファスが呆れたように苦笑しながら助け舟を入れてくれる。

 

「君が知っているかは分からないが……彼女は本来、エリュシオンの『管理人格』にあたる存在なのだよ」

 

「管理人格……!?」

 

その言葉に、僕は先日の地下室でのリィン・シュバルツァーとの会話を思い出した。

『演算の果てにイシュメルガに辿り着き、彼の人格がエリュシオンを乗っ取ってしまった』という、あの異常事態の元凶。

僕の驚きに応えるように、ラピスの姿を見ると、先ほどの無邪気さは消え、真剣な表情を浮かべていた。

 

「ええ。今は『あれ』に奪われてしまったけれど……まだ私が管理人格であった頃、一番最初に生み出した存在が、あなたなの」

 

僕は自分の両手と、目の前の彼女を交互に見つめた。

一番最初に生み出された存在。

初めて目覚めた時、ノバルティス博士や偽物のルーファスが僕に向けて放った言葉が脳裏に蘇る。

 

――『バグ』『規格外』『用途違い』。

 

「……なんで、だ」

 

気がつけば、僕はひどく低く、震える声で問い詰めていた。

 

「あの娘の後悔から俺という存在を生み出して……一体、何がしたかったんだ!」

 

つい声を荒げてしまう。

自分という存在の根幹を揺るがす事実への恐怖と、怒りにも似た感情だった。

しかし、彼女は僕の剣幕に怯むこともなく、真っ直ぐに僕を見据えて言った。

 

「違うわ。……後悔だけじゃない」

 

凛とした、嘘偽りのない声が響く。

 

「私が私である以前、エリュシオンが生まれる原初。……大きな力(零の力)が七曜脈に溶け飛んだ時に、同時に、とても大きな『願い』と『後悔』が、一番最初に観測されたの」

 

「願いと……後悔……」

 

「それは、あなたが死んでしまったこと。自分がその運命を変えようとして、全部を台無しにしてしまったことへの深い後悔。……そして、『ずっと一緒にいたかった』『もう一度会いたい』という、悲しいくらい純粋な願いだったわ」

 

――ドクン、と。

 

胸の奥で、何かが弾けた。

僕は言葉を失い、ただ目を見開いて彼女を見つめることしかできなかった。

ルーファスたちも、風の剣聖も、レンさんも。

周りにいる誰もが、どこか神妙で優しい表情を浮かべ、彼女の言葉に静かに耳を傾けていた。

 

「だから、私が私になる中で……」

 

ラピスは一歩、僕へと近づいた。

 

「ゆっくりと、その願いの意味と後悔の形を理解して、私に形作られたその『原初の願い』の演算を始めたの」

 

誰かの、もう一度会って謝りたいという後悔。

 

「ううん。ただ、『会いたい』って願いを叶えるために。……そのために、私はあなたを形作ったのよ」

 

ポタッ……と。

地面に、暗い染みができた。

知らず知らずのうちに、僕の目から大粒の涙が零れ落ちていた。

 

僕は、ずっと自分を『ただの後悔の産物』だと思っていた。

バグで生まれただけの紛い物。

だからこそ、あの娘の抱える後悔を晴らすためだけに、身を削って生きようと割り切っていたのだ。

 

なのに……それは。

僕という存在の始まりは、ただ純粋に、僕を求めてくれた彼女の『愛』だったなんて。

 

「……っ、あ……」

 

声にならない嗚咽を漏らし、顔を覆う僕。

そんな僕の身体を、母と名乗るラピスという少女は、小さな両腕で正面からしっかりと抱きしめてくれた。

 

「よしよし。もう、泣かなくていいのよ」

 

優しく、僕の後頭部を撫でる小さな手。

それは、偽物や幻なんかじゃない――確かに、僕をこの世に生み出してくれた『母』の、絶対的な温かさだった。

 

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