『蒼灰の軌跡』〜届かない光と、全肯定の死神〜   作:こげすずめ

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解放の日④

残り二分。

 

視界の端で、黄金の命の粒子が激しく舞い散るのが見える。

僕は持てる限りのすべてを使い、彼らの前に立ちはだかった。

姉さんやガレスさんと別れてから、強くなるために覚えたすべて。

特務支援課のみんな、アガットさん、エステルさん、ヨシュアさん、レンさん……。

この街で、あの旅先で、僕が学んだ数え切れないほどの大切な欠片を、今ここで形にするんだ!

 

そのすべてを、今ここで、彼ら自身にぶつけるために!

 

「おおおおおッッ!!」

 

黄金の霊子を噴き上げながら、僕は戦場を縦横無尽に駆け抜けた。

人数差は絶望的だ。ロイドさんたちの卓越した連携に一瞬でも隙を見せれば、蜘蛛の巣に絡め取られるように一気に追い込まれるだろう。

だから、僕は止まらない。一瞬たりとも、同じ場所に留まることは許されない。

機械の体と『ブーストアップ』の恩恵か。

人並み外れた脚力と膂力を得たこの身体は、脳内でシミュレートした「理想の動き」を、寸分の狂いもなく現実へと出力してくれている。

 

僕は大地を強く蹴り、弾丸のような速さで宙を駆けた。

 

「ティータさん、悪いっ!」

「わわっ!? オーバルギアのセンサーが追いつきませ――っ!」

 

大地を爆ぜるような力で蹴り、大きく宙を駆ける。

僕はティータさんの操るオーバルギアの頭上を取り、ハルバードを全力で叩きつけた。

凄まじい火花と共に、ギアの右腕部がひしゃげ、火を吹く。

 

「……甘いわねっ!」

その直後、死角からレンさんの大鎌が死神の如く迫る。

僕は着地の勢いを殺さず、右手のスタンハルバードを一閃させた。ブーストによって片手でも岩を砕くほどの膂力を得た一振りが、レンさんの鎌を真正面から叩き落とし、その華奢な身体を後退させる。

 

「あはっ、本当に無茶苦茶ね……!」

 

レンさんの驚愕の声を背に、僕はオーバルギアを蹴って後ろへと飛び退く。

空中で身体を捻りながら、左手で導力銃を抜く。

狙うのは、エリィさんとノエルさんだ。

 

「――っ!?」

「速すぎる……っ!」

 

二人が放とうとした銃弾よりコンマ数秒早く、僕の弾丸が彼女たちの得体の銃口を弾く。

銃を撃つ際の姿勢、呼吸、指の動き。僕はあなた達をずっと見て、学んできたんだ。だから、次にどこを狙うかなんて、手に取るようにわかる。

 

「捉えた!」

「逃がしません!」

 

着地と同時に、左右からヨシュアさんとリーシャさんが「影」となって肉薄してくる。

双剣と斬馬刀。暗殺術を極めた二人の同時攻撃。

 

僕は右手で持ったスタンハルバードを、力任せに石畳の地面へ突き刺した。

そして、地に降りることなく、ハルバードを軸にして独楽のように身体を捻る。

遠心力を乗せた両足の旋回蹴りが、周囲を薙ぎ払うように円を描いた。

 

「なに……っ!?」

「くっ……!」

 

空中で軸を作って回転するという、人間には不可能な、そしてあまりに型破りな動き。

完全に虚を突かれた二人は、回避が間に合わず、その鋭い蹴りを武器で受けて後退を余儀なくされた。

 

「ハァ……ハァ……!」

肺機能も機械のはずなのに、激しく酸素を求めるように胸が上下する。

 

ここまでは、完全に僕の独壇場。

相手側の虚を突き、多人数を一人で翻弄し続ける、かつての僕には到底不可能だった「戦い」がそこにあった。

 

 

「残り、1分……!」

 

極限までクリアになった脳内で、僕はふと考えていた。

なぜ僕は、これほどまでになりふり構わず、必死になって彼らの前に立ちふさがっているんだろうか。

 

キーアの後悔を晴らすため?

……違う。それは僕がここに存在する大前提だけど、今この瞬間の衝動は、それだけじゃない。

 

リィンを一人、あの暗闇に残してすべてを投げ出すわけにいかないから?

……それも違う。もしそれだけが目的なら、もっと他にやりようはあったはずだ。

 

今の僕は、ただ、エリュシオンが計算した「敵役」を演じているだけじゃない。

僕が、僕自身の意志で、ここに立ち続けている理由は……。

 

「ああああああああッ!!!」

 

咆哮と共に地を蹴り、弾丸のような速さでランディさんに肉薄する。スタンハルバードをこれ以上ないほどの重圧を乗せて叩きつけた。

 

「ぐっ……おおおおおッ!?」

 

ランディさんが歯を食いしばり、必死にそれを武器で受け止める。

僕は受け止められたハルバードを強引に、かつ流麗な旋回で振り抜いた。

その軌道、その力の乗せ方は――かつてランディさんが戦場で見せていた『クリムゾンゲイル』そのもの。

 

「警備隊流……!? それだけじゃない、ランディさんの技まで!?」

 

ノエルさんが驚愕に目を見開く。

 

「おいおいおい……冗談じゃねぇぞ、ありゃあ俺の……!」

 

ランディさんの驚嘆の声が耳に届く。

 

ああ、そうだ。

僕は……俺は、彼らに示したかったんだ。

 

あなたたちに学び、あなたたちの背中を追い、これだけ強くなったんだと。

僕が、俺が……ずっと憧れて、憧れて、憧れて!

いつかあなたたちみたいになりたいと、心の底から願っていたんだ!

 

いつかあなた達以上に強くなって、胸を張って「キーアの隣にいてもいい」と言える自分になりたくて。

覚悟を決めて、血反吐を吐く思いで「強くなりたい」と姉さんに願った、あの地獄のような時間。

 

たとえそれが、今の歴史のどこにも存在しない、僕の頭の中にしかないものだったとしても!

今、心にあるこの熱量だけは、僕を動かす唯一の本物なんだ!

かつても今も、変わらず憧れ続けているあなた達に、ただ刻んでほしいんだ……僕という存在が、ここにいたということを。

 

「はは……ッ」

 

思わず、乾いた笑いが漏れる。

クロスベルの一大事に、自分勝手なエゴで彼らの邪魔をしている。

統一国がどうとか、そんなものはただの口実だ。

僕はただ、この場所を利用して、僕という人間を彼らにぶつけているだけ。

本当に……自分でも、ろくでもない人間だと思う。

 

でも、それでも!

この一撃だけは、どうしても届けなきゃいけないんだ!

 

「ロイド! ロイド・バニングスッ!!」

 

裂ぱくの気合と共に、僕は地面を爆ぜるように駆け抜けた。

標的はただ一人。どんな高い壁も、絶望も、その不屈の意志で打ち破ってきた支援課のリーダー。

 

大きく振りかぶったハルバードを、一切の容赦なくロイドさんへと叩きつける。

 

「……こいッ、グレイ!!」

 

ロイドさんがトンファーを十字に構え、防御の姿勢をとる。その瞳には、僕を「敵」として、そして「一人の男」として真っ向から受け止める強い意志が宿っていた。

 

「――うおおおおおおおおおっ!!!」

 

僕は、彼にすべてを刻み込むように、渾身の力でハルバードを叩きつけた。

激しい火花と衝撃波が行政区の空気を震わせ、僕と彼の力が、正面から、無慈悲に、そして熱く激突した。

 

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