『蒼灰の軌跡』〜届かない光と、全肯定の死神〜 作:こげすずめ
残り二分。
視界の端で、黄金の命の粒子が激しく舞い散るのが見える。
僕は持てる限りのすべてを使い、彼らの前に立ちはだかった。
姉さんやガレスさんと別れてから、強くなるために覚えたすべて。
特務支援課のみんな、アガットさん、エステルさん、ヨシュアさん、レンさん……。
この街で、あの旅先で、僕が学んだ数え切れないほどの大切な欠片を、今ここで形にするんだ!
そのすべてを、今ここで、彼ら自身にぶつけるために!
「おおおおおッッ!!」
黄金の霊子を噴き上げながら、僕は戦場を縦横無尽に駆け抜けた。
人数差は絶望的だ。ロイドさんたちの卓越した連携に一瞬でも隙を見せれば、蜘蛛の巣に絡め取られるように一気に追い込まれるだろう。
だから、僕は止まらない。一瞬たりとも、同じ場所に留まることは許されない。
機械の体と『ブーストアップ』の恩恵か。
人並み外れた脚力と膂力を得たこの身体は、脳内でシミュレートした「理想の動き」を、寸分の狂いもなく現実へと出力してくれている。
僕は大地を強く蹴り、弾丸のような速さで宙を駆けた。
「ティータさん、悪いっ!」
「わわっ!? オーバルギアのセンサーが追いつきませ――っ!」
大地を爆ぜるような力で蹴り、大きく宙を駆ける。
僕はティータさんの操るオーバルギアの頭上を取り、ハルバードを全力で叩きつけた。
凄まじい火花と共に、ギアの右腕部がひしゃげ、火を吹く。
「……甘いわねっ!」
その直後、死角からレンさんの大鎌が死神の如く迫る。
僕は着地の勢いを殺さず、右手のスタンハルバードを一閃させた。ブーストによって片手でも岩を砕くほどの膂力を得た一振りが、レンさんの鎌を真正面から叩き落とし、その華奢な身体を後退させる。
「あはっ、本当に無茶苦茶ね……!」
レンさんの驚愕の声を背に、僕はオーバルギアを蹴って後ろへと飛び退く。
空中で身体を捻りながら、左手で導力銃を抜く。
狙うのは、エリィさんとノエルさんだ。
「――っ!?」
「速すぎる……っ!」
二人が放とうとした銃弾よりコンマ数秒早く、僕の弾丸が彼女たちの得体の銃口を弾く。
銃を撃つ際の姿勢、呼吸、指の動き。僕はあなた達をずっと見て、学んできたんだ。だから、次にどこを狙うかなんて、手に取るようにわかる。
「捉えた!」
「逃がしません!」
着地と同時に、左右からヨシュアさんとリーシャさんが「影」となって肉薄してくる。
双剣と斬馬刀。暗殺術を極めた二人の同時攻撃。
僕は右手で持ったスタンハルバードを、力任せに石畳の地面へ突き刺した。
そして、地に降りることなく、ハルバードを軸にして独楽のように身体を捻る。
遠心力を乗せた両足の旋回蹴りが、周囲を薙ぎ払うように円を描いた。
「なに……っ!?」
「くっ……!」
空中で軸を作って回転するという、人間には不可能な、そしてあまりに型破りな動き。
完全に虚を突かれた二人は、回避が間に合わず、その鋭い蹴りを武器で受けて後退を余儀なくされた。
「ハァ……ハァ……!」
肺機能も機械のはずなのに、激しく酸素を求めるように胸が上下する。
ここまでは、完全に僕の独壇場。
相手側の虚を突き、多人数を一人で翻弄し続ける、かつての僕には到底不可能だった「戦い」がそこにあった。
「残り、1分……!」
極限までクリアになった脳内で、僕はふと考えていた。
なぜ僕は、これほどまでになりふり構わず、必死になって彼らの前に立ちふさがっているんだろうか。
キーアの後悔を晴らすため?
……違う。それは僕がここに存在する大前提だけど、今この瞬間の衝動は、それだけじゃない。
リィンを一人、あの暗闇に残してすべてを投げ出すわけにいかないから?
……それも違う。もしそれだけが目的なら、もっと他にやりようはあったはずだ。
今の僕は、ただ、エリュシオンが計算した「敵役」を演じているだけじゃない。
僕が、僕自身の意志で、ここに立ち続けている理由は……。
「ああああああああッ!!!」
咆哮と共に地を蹴り、弾丸のような速さでランディさんに肉薄する。スタンハルバードをこれ以上ないほどの重圧を乗せて叩きつけた。
「ぐっ……おおおおおッ!?」
ランディさんが歯を食いしばり、必死にそれを武器で受け止める。
僕は受け止められたハルバードを強引に、かつ流麗な旋回で振り抜いた。
その軌道、その力の乗せ方は――かつてランディさんが戦場で見せていた『クリムゾンゲイル』そのもの。
「警備隊流……!? それだけじゃない、ランディさんの技まで!?」
ノエルさんが驚愕に目を見開く。
「おいおいおい……冗談じゃねぇぞ、ありゃあ俺の……!」
ランディさんの驚嘆の声が耳に届く。
ああ、そうだ。
僕は……俺は、彼らに示したかったんだ。
あなたたちに学び、あなたたちの背中を追い、これだけ強くなったんだと。
僕が、俺が……ずっと憧れて、憧れて、憧れて!
いつかあなたたちみたいになりたいと、心の底から願っていたんだ!
いつかあなた達以上に強くなって、胸を張って「キーアの隣にいてもいい」と言える自分になりたくて。
覚悟を決めて、血反吐を吐く思いで「強くなりたい」と姉さんに願った、あの地獄のような時間。
たとえそれが、今の歴史のどこにも存在しない、僕の頭の中にしかないものだったとしても!
今、心にあるこの熱量だけは、僕を動かす唯一の本物なんだ!
かつても今も、変わらず憧れ続けているあなた達に、ただ刻んでほしいんだ……僕という存在が、ここにいたということを。
「はは……ッ」
思わず、乾いた笑いが漏れる。
クロスベルの一大事に、自分勝手なエゴで彼らの邪魔をしている。
統一国がどうとか、そんなものはただの口実だ。
僕はただ、この場所を利用して、僕という人間を彼らにぶつけているだけ。
本当に……自分でも、ろくでもない人間だと思う。
でも、それでも!
この一撃だけは、どうしても届けなきゃいけないんだ!
「ロイド! ロイド・バニングスッ!!」
裂ぱくの気合と共に、僕は地面を爆ぜるように駆け抜けた。
標的はただ一人。どんな高い壁も、絶望も、その不屈の意志で打ち破ってきた支援課のリーダー。
大きく振りかぶったハルバードを、一切の容赦なくロイドさんへと叩きつける。
「……こいッ、グレイ!!」
ロイドさんがトンファーを十字に構え、防御の姿勢をとる。その瞳には、僕を「敵」として、そして「一人の男」として真っ向から受け止める強い意志が宿っていた。
「――うおおおおおおおおおっ!!!」
僕は、彼にすべてを刻み込むように、渾身の力でハルバードを叩きつけた。
激しい火花と衝撃波が行政区の空気を震わせ、僕と彼の力が、正面から、無慈悲に、そして熱く激突した。