『蒼灰の軌跡』〜届かない光と、全肯定の死神〜 作:こげすずめ
凄まじい火花と黒煙を噴き上げながら、エクスキャリバーの内部で次々と誘爆の爆炎が連鎖していく。
意思を持たぬはずの冷徹な機械兵器が、その致命的なダメージに耐えかね、まるで断末魔の絶叫を上げているかのように機体を激しく震わせた。
(……っはは、なんだよこれ!)
信じられないことに。
僕が突き立てているこのチェーンソー――ノバルティス博士が組み込んだテスタ=ロッサの刃は、これほど無茶で規格外の対象を削り続けているにも関わらず、一切の刃毀れを起こすことなく、僕の気迫に応えるようにギャリギャリと恐ろしい回転を維持し続けていた。
僕は暴れるテスタ=ロッサを全身の力で抑え込みながら、さらにグリップの引き金を引き絞る。
ズダァァンッ!!
チェーンソーの刃がエクスキャリバーの装甲とフレームを無茶苦茶に切り裂き、完全に剥き出しになった機体の最深部――その内部構造のど真ん中へ向けて、至近距離からライフルの徹甲弾を次々と撃ち込んでいく。
『ピガ……ガガガガガッ!!』
致命的なエラー音を響かせ、エクスキャリバーが僕を強引に引き剥がそうと、その巨大な左腕をこちらへ向けて力任せに振りかぶってきた。
「させないッ!!」
だが、その腕が僕に届くよりも早く、上空へ跳躍していたエステルさんが長棍を渾身の力で上から下へと振り下ろした。
さらに、エステルさん一人の力では止めきれないその絶大な出力に対し、完璧にタイミングを合わせるように逆側からアガットさんが重剣を叩きつける。
「落ちろォッ!!」
ドンッ!という凄まじい衝撃音と共に、未来の機体の巨大な腕部は完全に床へと叩き伏せられ、ピクリとも動かなくなった。
「遅れてすまん! ここは俺たちが抑える!」
「アルシュは目の前のことに集中して! 周りのことは気にせず、そのまま続けなさいッ!!」
彼らの力強い声が、僕の背中をさらに強く押してくれた。
「――はいッ!!」
僕はその言葉に頷き、周囲のすべてへの意識を絶ち、ただ目の前の『破壊すべき標的』一点のみに全神経と魂を集中させた。
霊子の燃焼がピークに達し、僕の身体そのものが黄金の光となってボロボロに崩れ始めていく。
それでも、構うものか。
視界の端で明滅する、非情な赤いアラート。
――残り『5秒』。
エクスキャリバーは、もはや己ごとすべてを焼き尽くす覚悟を決めたのか。
機体の胸部装甲を再び大きく展開させ、先ほど僕たちを吹き飛ばしたあの『黄金の光弾』を、至近距離で発動させようと臨界点までエネルギーをチャージし始めた。
だが。
「――邪魔はさせませんっ!!」
ティータさんの放ったオーバルカノンの砲弾が、展開された胸部装甲に正確に着弾し、凄まじい爆発を起こす。
「いっけえええっ!」
「ハァァァッ!」
「そこだッ!」
その爆発の隙を突くように、空からラピスが巨大な斧を叩きつけ、地上からヨシュアさんとスウェンが神速の斬撃で胸部の機構を次々と切り裂いていく。
仲間たちの決死の連携により、黄金の光弾の発動は完全に食い止められた。
(いける……ッ!)
僕はすべての魂を込めるが如く、エクスキャリバーの心臓部へさらに深くチェーンソーを押し込んだ。
――その時だった。
視界の端のアラートが、残り時間『4秒』を表示した瞬間。
ついに、シミュラクラとしての僕の肉体の構成が絶対的な限界を迎えたのだ。
パラリ、と。
まるで砂の城が崩れるように、僕の右手が手首から先ごと黄金の霊子となって解け、ぽろりと崩れ落ちたのだ。
「っ……!」
支えを失い、一瞬だけ大きくバランスが崩れそうになる。
その光景に、幼い頃の記憶がフラッシュバックした。
あの時、ルバーチェの凶悪なマフィアとの戦いで、キーアを庇って右腕を切り落とされた時の記憶が。
(……けれど、それがなんだ)
心の中で、僕は獰猛に笑った。
残り数秒で消えゆく命だ。片手が無くなろうが、両足が吹き飛ぼうが関係ない。
完全に動かなくなる最後のコンマ一秒まで、俺のすべてをこの一撃に賭けてやる。
「おおおおおおおッ!!」
俺は手首から先が消え失せた右腕を無理やり折り曲げ、その切断面をテスタ=ロッサの重い銃床に力任せに押し付けて固定した。
そして残った左手でしっかりとグリップを握り込み、チェーンソーの刃をさらに深く押し付けながら、ライフルの引き金を何度も、何度も連続で引き絞った。
ズダァァァンッ! ズダダダダダダッ!!
銃弾と刃が、未来の機体の心臓部を粉々に粉砕していく。
視界の端。
遠くから、涙で顔をぐしゃぐしゃにしながらも、両手を握りしめて必死にこちらを見つめるキーアの姿が見えた。
(キーア……!)
最後の気合が、丹田から炎のように燃え上がる。
俺は、唯一残された左手で握る凶悪な武器に向けて、心の中で強く祈りを捧げた。
(頼む……姉さん。少しだけでいいから、俺に力を貸してくれッ!!)
握りしめる凶悪な得物に、かつて憧れた赤髪の猟兵への祈りを込める。
自らの魂のすべてを、生命の灯火のすべてを吐き出すように。
僕は絶叫と共に、最後の一撃を未来の厄災へと突き立て続けた。
『3』
『2』
『1』
『0』
――そして。
視界の端で明滅していた数字がゼロになった瞬間。
プツン、と。
僕の身体から、すべての感覚と力が完全に抜け落ちた。
「…………ぁ」
エクスキャリバーの肩に乗り上げるようにして突き立てていた身体が支えを失い、僕はふらりと、空中に投げ出されるようにゆっくりと倒れていった。
落ちていく、スローモーションのような時間の中で。
薄れゆく視界の先に、限界を迎えたエクスキャリバーの白銀の巨体が、内側から激しい爆炎を吹き上げながら、ゆっくりと崩れ落ちていく姿がはっきりと見えた。
俺の存在が引き起こした、最悪のバグ。
そのケジメを、俺はちゃんとつけることができたんだ。
遠くから、キーアやみんなの悲鳴のような叫び声が聞こえた気がした。
やり切った。もう、何も思い残すことはない。
温かい達成感と満足感に包まれながら、僕の意識は、深い深い暗闇の中へと静かに溶けていった。