『蒼灰の軌跡』〜届かない光と、全肯定の死神〜   作:こげすずめ

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幕間 結社編
そしてそれから


あのバベル事変から、三ヶ月ほどの月日が流れた。

 

あの時、姉さんに話していた通り、俺は今、秘密結社《身喰らう蛇》に身を置いている。

ノバルティス博士が用意してくれたこの新しいシミュラクラの身体は、相変わらずあのマッドサイエンティストによる定期的なメンテナンスを必要としている。

言うなれば、見えない首輪をつけられているようなものだ。

もっとも、無茶さえしなければ、以前のように頻繁に調整槽に入る必要はなくなり、月に一回程度のメンテナンスで済むようになった。博士の言葉を借りれば、「シミュラクラとしての技術が完全に安定したため、細かく管理する必要がなくなった」とのことらしい。

 

この三ヶ月、平穏な時間の中で自分の内面と向き合い、顧みて気づいたことがある。

それは、あの激動の最中にずっと抱えていた、胸を焦がすような正体不明の焦燥感についてだ。

思えばあの時は、10歳の怯えた子供の心と、20歳の青年の心が無理やり混じり合っていたせいで、状況に応じてどちらかの意識が強く表に出てしまい、精神的に酷く不安定だったのだろう。

 

けれど、あの電子の海の中で、姉さんに思い切り抱きしめられ、子供のように泣きじゃくって看取ってもらったあの瞬間。

あの日を境になんとなくだけれど、「少年」としての自分の意思は、薄い靄のように静かに溶けていったように感じる。

 

姉さんにその話をしたら、「アンタがガキっぽかったのは元々の性格でしょ」と大笑いされてしまったけれど。

まあ……自分で言うのも少し気恥ずかしいが、要するに「大人になった」ということなのかもしれない。

 

過去の喪失も、帰ることの出来なかった未来も、すべてを過去として消化して。

今ここにある自分……『二十一歳のアルシュ・グレイウッド』として、ようやく地に足をつけて立てている実感があった。

 

そして、これから語るのは、俺が『次の大きな事件』に巻き込まれるまでの幕間の物語だ。

歴史の裏側に消え、二度と表舞台に出るつもりなどなかったはずの俺が、ある理由から再び世界の表側へと出向くことになるまで……結社で何をしていたかという、少しばかりの思い出話である。

 

***

 

結社の施設内にある、巨大な地下演習場。

無機質な金属の壁に囲まれたその広大な空間に、姉さんと俺、そしてセドリックの三人が立っていた。

 

「……それじゃあ、本気でやるってことでいいんだな?」

「ええ、お願いします。アルシュ」

 

俺の確認に、セドリックは静かに、しかし確かな闘志を宿した瞳で頷いた。

かつて皇太子として纏っていた豪奢な衣装ではなく、動きやすさを重視した結社の戦闘服に身を包んだ彼は、スッと手にした得物を構える。

 

「あー、ちょっとちょっと。始める前に言っとくけどさ」

 

演習場の壁に背中をもたせかけ、腕を組みながらこちらを見物している姉さん――シャーリィが、退屈そうに口を挟んだ。

 

「降参するか、気を失うか。……最悪死んじゃったりしたら後の片付けがめんどくさいから、あんたたち、適当なところでやんなよ?」

 

「「…………」」

 

まったく冗談に聞こえない物騒なエール(?)に、俺とセドリックは顔を見合わせ、二人して思わず引きつった苦笑を浮かべてしまった。

立会人が一番物騒というのは、どういう冗談なのだろうか。

 

事の経緯は、数日前に遡る。

 

あの研究所で再び目覚めた日から、俺とセドリックは妙に気が合った。

結社において俺はあくまで「お手伝い」という中途半端な立場だったが、彼もまた執行者《No.XIX》としてナンバーを与えられたばかりの身。

俺が彼の任務のサポートに付き合ったりと、共に行動する時間が増える中で、自然とお互いに気を許す仲になっていた。

 

そしてある夜、お互いのこれまでの歩みを静かに語り合う機会があったのだ。

彼が、かのエレボニア帝国の元・皇太子であり、世界を巻き込んだ大戦を引き起こした側の一人であること。そして、自らの意思で王族という身分を捨て、出奔してきたという事実。

その壮絶な過去に絶句する俺に対し、俺の抱える複雑極まりない事情――エリュシオンという万能の演算器において演算された未来から生まれたや、バベル事変の真実を聞いた彼もまた、たいへん驚いていた。

 

特に、彼が深く反応したのは、俺の口から『ルーファス・アルバレア』という名前と、イシュメルガに囚われたもう一人の『リィン・シュバルツァー』の顛末が出た時だった。

鉄血の子供たちの筆頭であった男と、帝国の英雄。

かつての彼にとって因縁深い二人のなれの果ての話を聞き、セドリックはどこか沈痛な、複雑な表情を浮かべていた。

 

『……僕は、呪いに背中を押されていたとはいえ、自分自身の弱さからあの大戦を引き起こす一端を担ってしまった。洗脳されていたと言い訳するのは簡単ですが、結局は僕自身の行動の結果です』

 

『セドリック……』

『けれど……そんな甘ったれた自分を、シャーリィさんが叩き直してくれましたからね』

 

自嘲気味に、それでも前を向こうとする強さを孕んだ笑顔で、彼はそう語っていた。

 

(……危険人物揃いの結社にいるにしては、本当にずいぶんとまともな奴なんだよな)

 

素直に己の罪を認め、前に進もうと足掻く彼を見て、俺は純粋にそう思ったのを覚えている。

 

そして、お互いの腹を割って話し終えた後。

セドリックから、真剣な眼差しで一つの頼み事をされたのだ。

 

『一度、本気で戦ってもらえませんか』と。

 

『執行者になったとはいえ、僕はまだまだ未熟です。お互いにシャーリィさんに鍛えられた身の上……よかったら、お願いできませんか?』

 

まっすぐなその言葉に、どこか気恥ずかしくなってお互いに笑ってしまい……俺は二つ返事でその勝負を受け入れた。

どこから聞きつけたのか、「面白そうだからアタシが立会人やってあげる!」と乱入してきた姉さんの存在には、二人で呆れて笑うしかなかったけれど。

 

「……ふぅっ」

 

セドリックが小さく息を吐き、足幅を広げて重心を落とす。

迷いのない、洗練された構え。彼がこの数ヶ月、姉さんの理不尽なまでの『しごき』にどれほど食らいついてきたかが、その立ち姿だけで伝わってきた。

 

静まり返った地下演習場に、二つの闘気が静かに、そして熱く交錯し始めた。

 




黎2で何をやらせるか決まったので第三章開幕です。
多分本気の蛇足。あそこで終わっていたほうがいいまであるかも

入院中暇でめっちゃ書いてたのが、退院して仕事も再開するのでペースはかなり落ちると思います。
数日に一話投稿の感じで・・やれたら・・。
読み味もちょっと変わってくるかもしれませんが、よろしければお付き合いお願いします。

感想評価もまたよろしければお願いします

キーア出せないから、ヒロイン誰にするかな―とずっと考えてる
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