『蒼灰の軌跡』〜届かない光と、全肯定の死神〜   作:こげすずめ

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大立ち回り

一気呵成に――。

大地を強く蹴り飛ばし、俺は最も手前の男の懐へ瞬時に潜り込んだ。

昨日は素人相手に手加減して気絶させる程度で済ませていた。

だが、どうやらそれが甘かったらしい。

 

(こういう手合いは、徹底的にやって気力ごと叩き潰しておかないとダメだな)

 

頭の芯はひどく冷静だった。

 

「今日は気絶程度で終わると思うなよ。しばらく病院から出てこれなくなるくらいは覚悟しとけ……!」

 

「あ……?」

 

男が間抜けな声を漏らした瞬間、俺の拳がジャブのような速度で男の鼻先を捉えた。

 

『負荷(ロード)3』――。

 

コンパクトで最速の軌道。

軽く鼻先に触れたかどうかのその一撃から、莫大な【衝撃波】が指向性を持って叩き出された。

 

「がっ、あ……!?」

 

顔の骨が軋む嫌な音と共に、男は顔面をグシャグシャに歪ませ、天を仰ぐような姿勢のまま後方へと吹き飛んだ。

傍から見れば拳の軽さと破壊力が全く釣り合っていないように見えるだろうが、これはパルスストライカーの機能だ。

指向性の衝撃波は、俺が放つ拳の物理的な威力に左右されない。だからこそ、こういうフェイントじみた使い方もできる。

 

「なっ!? なんだ今の……!」

「ひるむな! やっちまえ!!」

 

仲間の異常な吹き飛び方への恐怖を怒りで誤魔化すように、二人が左右から同時に突っ込んでくる。

俺は『負荷1』に落とした衝撃波を二人の顔面へ向けて放った。

この距離ではせいぜい目眩まし程度の効果しかない。だが、それで十分だ。

 

「うおッ!? 風が――」

「目が……!?」

 

思わず目を瞑って足が止まった隙に、一歩で二人の間に踏み込む。

今度はパルスも衝撃波も一切抜きにして、純粋な本気の拳をそれぞれの胸板へとぶち当てた。

シミュラクラとしての身体スペックを全開にした、ただの物理打撃。

ただのチンピラの骨など、枯れ枝より容易い。

 

「ゴハッ……!?」

「ァ…………」

 

複数の肋骨が同時に叩き折れる鈍い感触。

二人は掠れた悲鳴を漏らしながら、白目を剥いて崩れ落ちた。

 

「ヒッ……!」

「バケモノかよコイツ……!」

 

数秒で三人が完膚なきまでに沈められたのを見て、残りの連中の足が完全に止まる。

その様子を視界の端に収めながら、俺は横目でヴァンを窺った。

 

「オラァッ!!」

「ぐべぇッ!?」

 

鈍い打撃音と共に、半グレの一人が路地をバウンドして転がっていく。

ヴァンは撃剣を器用に振り回しているが、その動きの根底にあるのは剣術ではなく格闘術だった。

荒削りな部分はあるものの、腰の落とし方、踏み込みの鋭さ、打撃への体重の乗せ方――どれをとっても、基礎を徹底的に叩き込まれた者の動きだ。

 

(東方の格闘術がベースか……?)

 

しかも相手が街のダニだからか、容赦のない重い一撃を次々と急所に叩き込んでいる。

スタン機能による強烈な電撃も相まって、ヴァンに殴り飛ばされた者たちは文字通り泡を吹いて沈んでいく。

 

「よし……掃除を続けるか」

 

俺は軽く拳を鳴らし、絶望的な顔を浮かべる残りの連中へ向けて再び地を蹴った。

そこからは、戦いと呼ぶのもおこがましい一方的な蹂躙劇だった。

 

「ひ、ひぃぃっ! ば、化け物……!」

 

半狂乱で鉄パイプを振り下ろしてくる男の腕を弾き飛ばし、ガラ空きになった鳩尾へ拳を沈める。

肺の空気を強制的に吐き出させ、男は白目を剥き、糸の切れた操り人形のように崩れ落ちた。

 

「逃がすかよっ!」

 

背を向けた者には、ヴァンの撃剣が容赦なく襲いかかる。

 

「がっ……!?」

 

青白いスパークを放つ刃が背中を強打し、痙攣させながら地面へ這いつくばらせた。

俺が圧倒的なスペックとパルスで叩き潰し、ヴァンが格闘術と撃剣のスタン機能で刈り取っていく。

息を合わせたわけでもないのに動きが不思議と噛み合い、路地裏に追い込んだ連中を逃さず確実に病院送りへと変えていった。

だが、一方的に相手をボコりながらも、俺の意識の一部はヴァンの動きを冷静に観察していた。

 

(……不思議な戦い方だ)

 

東方由来の格闘術がベース。

だが、それに固執しているわけではない。

相手のナイフを撃剣で弾いた直後、彼は左手の指先で何かを弾き飛ばした。

 

――チャキッ。

 

弾き出されたミラ硬貨が半グレの額に直撃する。

 

「あでっ!?」

 

思わぬ痛撃で一瞬怯んだその虚を、ヴァンの強烈な回し蹴りが刈り取った。

 

(……なんか、戦いの組み立て方が俺に似てるんだよな)

 

格闘術、剣術、小道具を使った目眩まし。

いい意味で型に嵌っていない。

相手の動きに合わせながら、どんな手段を使ってでも相手のバランスを崩し、最終的には強引に自分のペースを押し通す。

その柔軟すぎる戦術の哲学に、俺はどこか自分と似た匂いを感じ取っていた。

 

そして、もう一つ。

立ち回りの中で翻る撃剣を視界の端に捉えた時、俺はあることに気がついた。

 

(……マジかよ)

 

柄から刃へと繋がる機工部分。

刃の腹に刻印された、見覚えのある企業ロゴ。

それを見た瞬間、俺は戦闘中だというのに思わず吹き出した。

 

「ふっ……くくっ、はははっ!」

「あ……?」

 

最後の一人を撃剣の最大出力で壁に叩きつけ全滅させたヴァンが、肩で息をしながら振り向いた。

完全に伸びきった連中の只中で腹を抱えて笑っている俺を見て、怪訝そうに眉をひそめる。

 

「……どうした? 急に笑い出して。どっか頭でも打ったか?」

「いや……打ってない。ただ、世間ってのは本当に狭いもんだなと思ってさ」

 

笑いを収めきれないまま、俺は無言でコートの袖をまくり上げた。

両腕に装着したパルスストライカーの表面――ヴァンから見える位置にしっかりと描かれた『マルドゥック』の企業ロゴを、静かに提示する。

 

「……な、は?」

 

それを見た瞬間、ヴァンの動きが時が止まったかのように完全にフリーズした。瞬きひとつせず、俺の腕のロゴと自分の剣のロゴを交互に見比べる。

 

「あ、アンタ……それ……」

 

「はははっ。イーディスの裏解決屋の武装が、まさか俺の得物と同じ出所のモンだとはね」

 

十秒近い沈黙の後。

 

「…………くっ、はははっ! マジかよ!!」

 

堪えきれないといった様子で、ヴァンが腹を抱えて爆笑し始めた。

俺もつられて再び笑い声を上げる。

 

「ハハハハハッ! マジかよ、ふざけんな! アンタも『あの会社』と繋がりがあんのかよ!」

 

「俺も同じ気持ちだよ。裏解決屋が、まさかあの胡散臭い会社と繋がりがあるとはさ」

 

路地裏に倒伏する連中を他所に、俺たちは腹を抱えて笑い合った。

脳裏をよぎるのは、常に余裕めいた薄笑いを浮かべ、飄々としていて……それでいてとてつもなく食えない、あのGMの顔だ。

 

「いや、まさか護衛の依頼主が同業みたいなモンだったとはな。……なんか一気に親近感湧いてきたぜ、アル」

 

涙を拭いながら、ヴァンが初めて俺の名前を呼んだ。

裏解決屋と依頼主という関係から、同じ裏の空気を吸い、同じ胡散臭い連中と関わる「同類」として認めた瞬間だった。

 




アルシュの格闘術はワジがベースだけどワジがそんなにクロスベルにいたわけではないので、かなりアレンジはいってる。
なんでアルシュの格闘術は拳法とかじゃなくて、だいたいボクシングとかキックボクシング
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