『蒼灰の軌跡』〜届かない光と、全肯定の死神〜   作:こげすずめ

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再びオレドで

オレド州――マルドゥック綜合警備保障本社ビル、地下テストエリア。

 

静寂に包まれた広大な空間に、鼓膜を劈くような打撃音が連続して響き渡っていた。

 

「ふっ……!」

 

鋭い呼気と共に、巨大なダミーの的へ拳を打ち込む。

ただの打撃ではない。全力の拳の振りに、両腕の『パルスストライカー』から放たれる『負荷(ロード)3』の衝撃波を、ドンピシャのタイミングで乗せた一撃だ。

 

ズドォォォンッ!と、重低音がテストエリアを揺らす。

この試作兵装を預けられてから、実戦を含めて可能な限り使い込んできた。

その甲斐あって、今では自分でも驚くほど手足のように使い熟せるようになっている。

最大のネックである『反動』も、負荷3程度なら衝撃をほぼ無視してスムーズに次の動作へ移れるまでになっていた。

 

とはいえ、根本的な問題が解決したわけではない。

あくまで「軽度の利用であれば」という前提つきだ。

 

「よし……次は」

 

小さく息を吸い込み、強く拳を握り込む。

今度は『負荷6』の出力で全力で殴りつけた。

 

ガガァァァァンッ!!

 

耳障りな金属の悲鳴と共に、凄まじい衝撃波が爆発する。

分厚い鋼鉄の的が僅かにひしげ、表面に亀裂が走った。

だが――同時に、撃ち出した腕の内側にも、骨が軋むほどの巨大な反動が返ってくる。

 

「っ……、くぅ……」

 

腕全体を駆け抜ける痺れと痛み。

威力だけを見れば必殺の一撃になり得るが、これだけ自分の体に負荷がかかるようでは、実戦の最中に何度も常用できる代物ではなかった。

俺はビリビリと痺れる腕を振り、大きく息を吐きながら振り返った。

 

「おつかれさーん!」

 

パチパチと軽い拍手を鳴らしながら――ミラベル・アールトンSCが近寄ってきた。

 

「いやー、アルくん。きっちり限界まで使ってくれて助かるわぁ。フィードバックのお蔭でストライカーの方はある程度改善が進んでるし、開発部もホンマに助かってるねんで?」

 

「そいつはどうも」

 

相変わらず飄々とした訛りで笑う彼女に、俺は軽く肩をすくめて応じた。

 

「まだまだ問題点はありますけど、かなり助かってますよ。

負荷の出力を絞って使えば、今でも十分実戦の役に立ってますしね」

 

イーディスでの半グレ連中との戦いでも、このフェイントと制圧力には随分と助けられた。

 

「ただ、問題は……こっちですね」

 

俺はそう言って自分の脚部に視線を落とした。両脚に装着したもう一つの試作兵装――『パルスグリーブ』を指し示す。

 

「……こっちの使い勝手が、すこぶる悪いんです」

「あー……やっぱりアカンかった?」

「ええ。控えめに言っても、まともに使えてるとは言い難いですね」

 

理由は単純かつ致命的だった。

防御用のバリアとして展開する場合、指向性はあっても脚部という位置のせいで射程や展開位置が微妙すぎる。

腕のように瞬時に狙った場所へ盾を張れない。

何より、打撃に用いた場合。蹴りに合わせて衝撃波を撃ち出すと、その凄まじい反動が蹴り込む方向とは逆に返ってくる。

結果、空中でも地上でも、反動に負けて体勢が完全に崩れてしまうのだ。

 

「威力は申し分ないんですが、一撃放つたびにバランスを崩して隙だらけになるんじゃ、実戦じゃとてもじゃないが使えませんよ」

 

俺の率直なレビューを聞いて、ミラベルさんは「うーん」と腕を組み、タブレットにデータを打ち込み始めた。

 

(実際、拠点の訓練場で試した時は……)

 

脳裏に蘇るのは、負荷3程度の出力を蹴りに乗せた瞬間、空中で見事にバランスを崩し、無様に床へ転がった記憶だ。

それを見ていた姉さんに、腹を抱えて大笑いされる羽目になった。あんな隙だらけの動きを実戦でやれば命取りになる。

 

「まあ、以前リゼットさんにも通信で伝えていた通りですが」

 

俺は脳内の恥ずかしい記憶を振り払い、真面目なトーンで提案を続けた。

 

「まともに実戦で使うなら、衝撃の出力先を弄ってもらった方がいいですね。レガースの形状だから機構的にできるかは知りませんが……現状のスネの位置くらいからの出力じゃ、どうやってもバランスを取るのは難しい。つま先とか足裏とか、そのへんから出力の向きをコントロールできるなら、もう少し使い道を考えられそうです」

 

「うーん、なるほどなぁ」

 

俺の要望を聞きながら、ミラベルさんは「そうやねんなー……」と唸りつつ、タブレットに素早く書き留めていく。

 

 

俺は今、ここオレド州の地を踏んでいた。

試作兵装の調整とデータ収集のため、マルドゥック社から呼び出しを受けていたのだ。

出立前に姉さんにも声をかけたが、「今回は別件の用事があるからパス」とのことだった。……ただし別れ際、「帰ってきたら『アレ』やるから、しっかり準備しときなよ?」と獰猛な笑顔で宣言されたことには、正直今でも少しビビっていた。

 

オレドに到着するなり出迎えてくれたのは、このミラベルさんだった。

担当のリゼットさんは別の用事が入っているらしく、「この後すぐに合流するから気にせんといてな」と言われ、先に本社地下の実験場へ通されたのだ。

ちなみに、あの胡散臭い笑みを浮かべるGMは今回も姿を見せていない。

聞けば、出張で共和国の方へ向かっているらしい。

 

代わりにというわけではないだろうが、実験場の隅では浅黒い肌の偉丈夫が壁に背を預け、腕を組んでこちらを静かに眺めている。

《灼飆》の異名を持つ最強の猟兵、警備主任のカシム・アルファイドだ。彼に見られながらのテストは、なんとも言えないプレッシャーがあった。

 

そうしてミラベルさんと仕様変更について話し合っていると。

プシュッ、と静かな稼働音を立てて、地下実験場の重厚な扉が開いた。

 

「――お待たせいたしました」

 

澄んだ、耳障りの良い声。

現れたのは、淡い緑色の髪を整えた、メイド服のような特注の制服に身を包む美しい女性だった。

これまで通信越しに何度もやり取りをし、武装のサポートをしてくれていた彼女――リゼット・トワイニングSC。

 

凛とした足取りで近づいてくると、ふわりと綺麗な所作で一礼をした。

 

「こうしてお会いするのは、初めてになりますね。アル様」

 

優しく完璧な笑みを浮かべて挨拶をしてくれるリゼットさん。

 

「ああ。……よろしく、リゼットさん」

 

俺も自然と口角を上げ、初めて対面する専属のサポートコンシェルジュへと言葉を返した。

 

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