【幕間連載中】『蒼灰の軌跡』〜届かない光と、全肯定の死神〜   作:こげすずめ

182 / 182
赤い要塞④

迎撃しやすい、と。

 

言われて初めて、自分の射撃を客観的に自覚した。

狙いなど、ほとんど無意識だった。致命的になる一点を、考えるまでもなく選び取っていた。

おそらくは、ほぼ完璧な精度で。

 

――だが。

 

ライフル弾の弾速で。しかも、この距離で。

それをああも容易く撃ち落としてみせるというのか。

 

おそらく、俺の腕の動き。トリガーにかかる指の挙動。

そのすべてから着弾点を予測して――

 

「……は、はは」

 

思わず、笑いが口からこぼれ落ちた。

 

嬉しかった。

子供の頃に戦い方を教わった師。もう二度と叶うはずのなかった再会。

その相手と、今こうして本気で刃を交えているという事実が。

 

そして何より――あの人が、こんなにも途方もない化け物であってくれたことが。

 

腕に、足に、力が宿る。情けない姿など、見せられるものか。

魂に火が灯る感覚。俺は無意識のうちに、獰猛な笑みを口元に浮かべていた。

 

迫り来る巨大な人形兵器。

俺は手にしたライフルを振るうようにして、再び大剣へと変形させ、同時に床を蹴って前へ駆け出した。

 

下段に構えた刃を、強く振りかぶる。先ほどまでのような、迎撃のための一撃ではない。

相手を正面から叩き伏せるための、純然たる破壊の一振り。

 

二刀では受けきれないと判断したのだろう。

人形兵器は四本すべての腕を動かし、四つの刃を束ねるようにして、こちらの一撃へとぶつけてきた。

 

ガキィィィンッ!!

 

鼓膜を叩き割るような轟音が、広間に響き渡る。

両腕を駆け抜ける重い衝撃。だが、そんなものは意に介さない。

俺は全力で、その大剣を振り抜いた。

 

四刀をもってしても受けきれなかったのだろう。

鋼の巨体は、衝撃を逃がすようにして、僅かに後方へと跳び退いた。

 

(――今だ)

 

腰のポーチからスモークグレネードを引き抜き、ピンを弾いて空中へと高く放り投げる。

そして、同じく人形兵器と斬り結んでいる相棒へと、声を張り上げた。

 

「セドリック!」

 

彼はこちらを一瞥し、次いで空中で今にも弾けようとしているグレネードを見て、即座にその意図を察した。

 

パンッ、と乾いた破裂音。

 

視界を白く塗り潰していく煙幕を尻目に、俺はセドリックの方へと全力で走り抜ける。

手にしていた大剣を折り畳み、腰部のマウントへと収めながら。

 

煙の中、すれ違いざまに交わす、一瞬の目配せ。それだけで十分だった。

セドリックは振り返ることなく、先ほどまで俺が相手取っていた人形兵器へと、その刃を向けていた。

 

巨大な人形兵器。こいつら相手に、煙幕などほとんど意味を成さない。

人間を感知するためのセンサーは別途搭載されているだろうし、戦闘行動そのものに支障など出ないはずだ。

 

だが、それでいい。

 

この煙が晴れるまでの、ほんの僅かな時間。

その間だけガレスさんの狙撃の手が止まってくれれば。

そのうちに、こいつへ致命的な一撃を叩き込めれば――それで十分だ。

 

それに、セドリックとわざわざ入れ替わった甲斐もある。

視覚センサーが封じられ、感知センサーのみで判断している今、こいつの精度は確実に落ちているはずだった。

 

ヴゥンッ、と駆動音が唸る。

 

接近する俺に対し、人形兵器は左側の二刀を大きく振るってきた。

煙が充満しているせいで、こちらの視界も最悪だ。

 

――だが、関係ない。

 

(でかすぎるんだよ、お前は)

 

白煙の向こうに浮かぶ、そのシルエット。それだけで、動きの軌道は十分に読み取れる。

振るわれた二刀を流すようにいなしながら、俺は手甲でその刃を受け止めた。

 

そして、その瞬間。

 

『負荷(ロード)3』。

 

受け止めた刀身ごと、莫大な衝撃をゼロ距離で叩き込む。

 

ドンッ!!

 

弾かれた刀が、腕ごと大きく上方へと跳ね上げられた。衝撃の余波を殺しきれず、巨体が僅かにバランスを崩す。そして、その崩れた体勢のせいで――構えていたはずの右側の二刀を振り下ろすタイミングが、決定的にずれた。

 

生まれた、一瞬の空白。

 

俺は腰のポーチへと手を伸ばし、手元に残っていたハンドグレネード三発をすべて掴み取ると、ピンを弾き、鋼の腹部へと直接叩きつけた。

 

自爆と見紛うほどの、超接近状態での一撃。

 

炸裂する、まさにその刹那。俺は逆側の腕を前面へと突き出し、『負荷5』の衝撃波を解き放った。

 

――こちら側へ向かってくる爆風を、その力場の壁で正面から受け止める。

 

逃げ場を失い、行き場を塞がれた爆圧は、通常を遥かに上回る破壊力へと変わった。

 

ドゴォォォォンッ!!!

 

爆炎が広間を赤く染め上げ、人形兵器の腹部から左半身にかけてを、根こそぎ吹き飛ばした。

 

(……ほんと、馬鹿の戦術だな)

 

爆風の名残に目を細めながら、内心で自嘲する。

 

これは、先日のオレドで考えたことだった。

手配魔獣を相手に、手元にまともな有効打が何一つなかった、あの状況。

あの時はグレネードなど持ち合わせていなかったが――それでも何とか対処する方法を必死に考えた、その中のひとつだった。

 

ズズ、と。

 

煙と爆炎の向こうで、鋼が軋む音がする。

左半身を大きく抉り取られ、火花を散らしながらも、その巨体は、まだ完全には沈黙していなかった。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
点
一言
0文字 一言(任意:500文字まで)
※評価値0,10は一言の入力が必須です。参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。


  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

読者層が似ている作品 総合 二次 オリ

俺の上司共が色んな意味でブラックすぎる件(作者:ギルバート)(原作:英雄伝説)

 物理的にも、精神的にもブラック極まりない悪の組織の構成員に転生してしまったオリ主が、クソの役にも立たない原作知識片手に、上司共に呪われたり、粛清されないよう必死に生き抜いていく話。▼過去改変?より良き未来に?無茶言うな


総合評価:5933/評価:8.77/連載:31話/更新日時:2026年08月10日(月) 00:00 小説情報

槍の聖女の軌跡を超えて(作者:アマシロ)(原作:英雄伝説)

鋼の聖女、アリアンロード。彼女が探していた相手を見つけた時、運命が動き出す。槍の聖女の子として生まれ変わった転生者は、どん詰まりの世界で生き抜く術を見つけるための『足掻き』として。あるいは己の求める欲望のため、トールズ士官学院に入学する。なお本人は両親に気づいていない模様。


総合評価:3799/評価:8.96/連載:27話/更新日時:2026年09月23日(水) 19:03 小説情報

転生少女の受難(作者:フッ軽布教女サッチ)(原作:英雄伝説)

トールズ士官学院、旧校舎。▼10人の少年少女に特化クラスⅦ組への参加意思を問う問答の中。▼ひとり、大きなメイスを抱えた少女が震える声で意思を主張した。▼「辞退、します」▼────これは、計算外の蝶の羽ばたきに苦悩する一人の転生者の物語。▼【挿絵表示】▼


総合評価:1276/評価:8.84/短編:2話/更新日時:2026年07月13日(月) 12:56 小説情報

閃の軌跡Ⅲ ―偽りの仮面―(作者:アルカンシェル)(原作:英雄伝説)

七耀歴1206年。▼トールズ士官学院・第二分校に訳アリの生徒達が集う。▼その中には一人の少年がいた。▼かつて《超帝国人》と呼ばれた少年と同じ顔、同じ名を名乗る少年が《第Ⅱ》の新一年生として新たな始まりを歩む。▼多くの者達から注目を集めることになる少年は黄昏が迫る世界で何を成すのか。▼*この作品は▼《閃の軌跡0》https://syosetu.org/nove…


総合評価:3383/評価:9.01/連載:115話/更新日時:2026年06月29日(月) 23:40 小説情報

迷宮を目指した俺は、世界を間違えた(作者:アルマトラン)(原作:無職転生)

二十一歳で死んだ大学生は、異世界で二度目の人生を始めた。▼魔法がある。▼魔物がいる。▼迷宮がある。▼大好きだった『マギ』の世界だと思った。▼……ところが。▼ジンがいない。▼金属器もない。▼ーーどうやら俺は、世界を間違えたらしい。▼これは、勘違いから始まる二度目の異世界人生。


総合評価:2064/評価:8.13/連載:22話/更新日時:2026年10月02日(金) 05:16 小説情報


小説検索で他の候補を表示>>