【幕間連載中】『蒼灰の軌跡』〜届かない光と、全肯定の死神〜 作:こげすずめ
迎撃しやすい、と。
言われて初めて、自分の射撃を客観的に自覚した。
狙いなど、ほとんど無意識だった。致命的になる一点を、考えるまでもなく選び取っていた。
おそらくは、ほぼ完璧な精度で。
――だが。
ライフル弾の弾速で。しかも、この距離で。
それをああも容易く撃ち落としてみせるというのか。
おそらく、俺の腕の動き。トリガーにかかる指の挙動。
そのすべてから着弾点を予測して――
「……は、はは」
思わず、笑いが口からこぼれ落ちた。
嬉しかった。
子供の頃に戦い方を教わった師。もう二度と叶うはずのなかった再会。
その相手と、今こうして本気で刃を交えているという事実が。
そして何より――あの人が、こんなにも途方もない化け物であってくれたことが。
腕に、足に、力が宿る。情けない姿など、見せられるものか。
魂に火が灯る感覚。俺は無意識のうちに、獰猛な笑みを口元に浮かべていた。
迫り来る巨大な人形兵器。
俺は手にしたライフルを振るうようにして、再び大剣へと変形させ、同時に床を蹴って前へ駆け出した。
下段に構えた刃を、強く振りかぶる。先ほどまでのような、迎撃のための一撃ではない。
相手を正面から叩き伏せるための、純然たる破壊の一振り。
二刀では受けきれないと判断したのだろう。
人形兵器は四本すべての腕を動かし、四つの刃を束ねるようにして、こちらの一撃へとぶつけてきた。
ガキィィィンッ!!
鼓膜を叩き割るような轟音が、広間に響き渡る。
両腕を駆け抜ける重い衝撃。だが、そんなものは意に介さない。
俺は全力で、その大剣を振り抜いた。
四刀をもってしても受けきれなかったのだろう。
鋼の巨体は、衝撃を逃がすようにして、僅かに後方へと跳び退いた。
(――今だ)
腰のポーチからスモークグレネードを引き抜き、ピンを弾いて空中へと高く放り投げる。
そして、同じく人形兵器と斬り結んでいる相棒へと、声を張り上げた。
「セドリック!」
彼はこちらを一瞥し、次いで空中で今にも弾けようとしているグレネードを見て、即座にその意図を察した。
パンッ、と乾いた破裂音。
視界を白く塗り潰していく煙幕を尻目に、俺はセドリックの方へと全力で走り抜ける。
手にしていた大剣を折り畳み、腰部のマウントへと収めながら。
煙の中、すれ違いざまに交わす、一瞬の目配せ。それだけで十分だった。
セドリックは振り返ることなく、先ほどまで俺が相手取っていた人形兵器へと、その刃を向けていた。
巨大な人形兵器。こいつら相手に、煙幕などほとんど意味を成さない。
人間を感知するためのセンサーは別途搭載されているだろうし、戦闘行動そのものに支障など出ないはずだ。
だが、それでいい。
この煙が晴れるまでの、ほんの僅かな時間。
その間だけガレスさんの狙撃の手が止まってくれれば。
そのうちに、こいつへ致命的な一撃を叩き込めれば――それで十分だ。
それに、セドリックとわざわざ入れ替わった甲斐もある。
視覚センサーが封じられ、感知センサーのみで判断している今、こいつの精度は確実に落ちているはずだった。
ヴゥンッ、と駆動音が唸る。
接近する俺に対し、人形兵器は左側の二刀を大きく振るってきた。
煙が充満しているせいで、こちらの視界も最悪だ。
――だが、関係ない。
(でかすぎるんだよ、お前は)
白煙の向こうに浮かぶ、そのシルエット。それだけで、動きの軌道は十分に読み取れる。
振るわれた二刀を流すようにいなしながら、俺は手甲でその刃を受け止めた。
そして、その瞬間。
『負荷(ロード)3』。
受け止めた刀身ごと、莫大な衝撃をゼロ距離で叩き込む。
ドンッ!!
弾かれた刀が、腕ごと大きく上方へと跳ね上げられた。衝撃の余波を殺しきれず、巨体が僅かにバランスを崩す。そして、その崩れた体勢のせいで――構えていたはずの右側の二刀を振り下ろすタイミングが、決定的にずれた。
生まれた、一瞬の空白。
俺は腰のポーチへと手を伸ばし、手元に残っていたハンドグレネード三発をすべて掴み取ると、ピンを弾き、鋼の腹部へと直接叩きつけた。
自爆と見紛うほどの、超接近状態での一撃。
炸裂する、まさにその刹那。俺は逆側の腕を前面へと突き出し、『負荷5』の衝撃波を解き放った。
――こちら側へ向かってくる爆風を、その力場の壁で正面から受け止める。
逃げ場を失い、行き場を塞がれた爆圧は、通常を遥かに上回る破壊力へと変わった。
ドゴォォォォンッ!!!
爆炎が広間を赤く染め上げ、人形兵器の腹部から左半身にかけてを、根こそぎ吹き飛ばした。
(……ほんと、馬鹿の戦術だな)
爆風の名残に目を細めながら、内心で自嘲する。
これは、先日のオレドで考えたことだった。
手配魔獣を相手に、手元にまともな有効打が何一つなかった、あの状況。
あの時はグレネードなど持ち合わせていなかったが――それでも何とか対処する方法を必死に考えた、その中のひとつだった。
ズズ、と。
煙と爆炎の向こうで、鋼が軋む音がする。
左半身を大きく抉り取られ、火花を散らしながらも、その巨体は、まだ完全には沈黙していなかった。