『蒼灰の軌跡』〜届かない光と、全肯定の死神〜 作:こげすずめ
気を失い、糸の切れた操り人形のように倒れ込むアルシュ。
その小さな身体が冷たい床に激突するより早く、
シャーリィのしなやかな腕が彼をふわりと抱きとめた。
「……よく頑張ったじゃん、アルシュ」
血と硝煙の匂いが染み付いた手で、アルシュの汗ばんだ頭をぽんぽんと優しく撫でる。
そのままひょいっと、まるでお姫様抱っこのようにアルシュの身体を軽々と持ち上げると、
彼女は地下室の隅に敷かれた簡素なシーツの上に、壊れ物を扱うように静かに寝かせた。
「……正直、驚いたな」
少し離れた位置でその狂気の特訓を見届けていたガレスが、
静かな足音を立てて近づいてきた。
彼の視線は、気絶しながらも微かに荒い息を繰り返している少年に向けられている。
「一発目の本気の拳をもらった時点で、泣き叫んでギブアップすると思っていた。
どれだけ覚悟を口にしようが、あの痛みと、
お嬢が放つ純粋な『死の恐怖』を凌駕するなど、生半可な精神力でできることではない。
……それも、手加減していたとはいえ、ああも何度もお嬢の打撃を食らって立ち上がるとは」
歴戦の猟兵であるガレスの言葉には、紛れもない感嘆が混じっていた。
十歳の、それも平和なクロスベルで育った子供が耐えられる限界を、この少年は自らの意志で超えてみせたのだ。
シャーリィは、自慢の弟を褒められた姉のように、ニシシッと嬉しそうに笑う。
「言ったでしょ? この子、すっごく面白いって。
心根は表の世界のいい子ちゃんなんだろうけどさ……
土壇場で恐怖を喰いちぎるあのメンタル、案外アタシたちに近い精神性してるかもよ?」
「……違いない」
「じゃ、約束だからね、ガレス」
シャーリィは悪戯っぽく片目を瞑り、傍らの巨漢を見上げた。
「事前に言ってた銃の手ほどきだけじゃなくてさ。
……『赤い星座』の流儀。武器の扱い方の基礎、この子にも軽く仕込んでやってよ」
それは、ただの護身術を教えるという枠を超え、
猟兵としての殺しの技術の入り口に立たせるという要求だった。
しかし、ガレスはもはや「子供の遊びに付き合わされている」というような渋面は作らなかった。
「……承知した。これだけの根性を見せたのだ。
俺も彼をただの子供としてではなく、一人の『戦士』に近い形で扱おう」
強さを渇望し、狂気の中で前に踏み出した少年に対する、歴戦の猟兵からの最大級の敬意。
ガレスのその静かな宣言と、シャーリィの満足げな笑顔を、気を失っているアルシュは知る由もない。
自分が裏の世界の住人たちからどれほどの評価と期待を向けられ、
愛され始めているかなど、この時の少年は全く知らなかったのだ。
――チュン、チュン……。
翌朝。
小鳥のさえずりと、窓から差し込む朝日に照らされてアルシュが目を覚ました時。
彼はなぜか、自分の家の見慣れたベッドの上で、温かい毛布にくるまって寝ていたのだった。
正直、シャーリィかいてるのめっちゃ楽しい(