『蒼灰の軌跡』〜届かない光と、全肯定の死神〜   作:こげすずめ

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特務支援課-ランディ・オルランド-Ⅱ①

ベルガード門の停留所にバスが到着し、アルシュとキーアは降り立った。

 

重厚な石造りの砦の入り口をくぐると、すぐに見慣れた赤い髪の青年の姿があった。

特務支援課のメンバーであり、今はここベルガード門に詰めている警備隊員、ランディ・オルランドだ。

彼は通路の端で、厳しい表情の女性士官――ミレイユ准尉と何やら話し込んでいるようだった。

 

「らーんでぃーっ!!」

 

ランディの姿を見つけるや否や、キーアは元気いっぱいに駆け出し、

そのまま彼の長い足に「どかーん!」と勢いよくぶつかって抱きついた。

 

「おわっ!? っと、なんだ、キー坊じゃねえか!」

 

ランディは突然の突撃に驚きつつも、すぐに破顔して足元にひっつくキーアの頭をガシガシと撫でた。

 

「こんにちは、ランディさん、ミレイユ准尉!」

 

少し遅れて駆け寄ったアルシュも、二人の大人に向けて元気よく挨拶をした。

 

「こんにちは、キーアちゃん、アルシュ君」

 

ミレイユ准尉も厳しい表情を崩し、優しく微笑みかけてくれる。

 

「よぉ、坊主。……なんだ、キー坊も一緒か?」

 

「はい! 僕がランディさんのところに行くって言ったら、キーアがどうしてもついていきたいって言って……」

 

「そうかそうか。キー坊も俺に会いたかったかー! よしよし!」

 

ランディは上機嫌でキーアを抱き上げ、頬ずりしようとしてキーアに「くすぐったーい!」と身をよじられて笑っている。

 

いつも通りの、平和で温かいやり取り。

 

しかし、アルシュと視線を交わした瞬間。

 

ランディの笑みが、ほんのわずかだけ――本当にコンマ数秒、ピクリと引き締まった。

 

(……ふむ)

 

ランディはアルシュの目つき、あるいは無意識の立ち位置や足の運び方に、何か『異質なもの』を感じ取ったようだった。

だが、彼はそれ以上深く追求するような素振りは見せず、すぐにいつもの飄々とした笑顔に戻った。

 

ただ、その一瞬の空気の変化を、隣にいたミレイユ准尉だけは見逃さなかった。

彼女はアルシュの顔を不思議そうに見つめ、それからハッとしてランディの方を振り向いた。

 

「……ねえ、ランディ。あの子の目、なんだか……」

 

ミレイユ准尉が何かを言いかけようとしたのを、ランディは片手でスッと制した。

 

「男子三日会わざれば刮目して見よ、ってやつですよ、准尉」

 

「……それでも、あれはただの子供の顔じゃ……」

 

「大丈夫ッス。……俺に任せてください」

 

ランディはミレイユ准尉に向けて、安心させるような、しかしどこか強い意志を込めた仕草を見せた。

その真剣な横顔に、ミレイユ准尉は小さく息を吐き、「……分かったわ」と苦笑して引き下がった。

 

――そして、ベルガード門の屋上。

 

冷たい風が吹き抜ける広い訓練スペースで、アルシュは鞄から使い込まれた木剣を取り出し、準備運動を始めていた。

 

その少し離れた壁際では、キーアがちょこんと体育座りをして、アルシュの様子をじっと見つめている。

 

「……ねえ、キーア。本当にいいの? 僕が素振りしてるの見てても、多分全然面白くないよ?」

 

「いいの! キーア、アルシュのこと、ずっと見ててあげるから!」

 

キーアは両手で膝を抱えながら、ニコニコと、けれど絶対に目を逸らさないという強い意志で首を横に振った。

 

その様子を見ていたランディが、「はははっ、愛されてんなぁ、坊主!」と笑い飛ばす。

 

「そんじゃアルシュ。まずはいつも通り、俺と親父さんが教えた『型』で素振りをやってみろ。俺とキー坊が特等席で見ててやるからよ」

 

「はいっ!」

 

アルシュは深く息を吸い込み、木剣を正眼に構えた。

 

そして、ゆっくりと、しかし力強く剣を振り下ろす。

 

『恐怖への対峙』『選択肢』――シャーリィから叩き込まれたあの地獄の記憶。

 

そして、『表の世界の基礎』――父やランディが教えてくれた、誰かを護るための真っ当な剣の重み。

 

アルシュは今、その両方の意味を噛み締めながら、一振り一振りにすべての思考と重心を乗せて素振りを繰り返した。

 

ヒュッ、ヒュッ……。

 

屋上に、木剣が風を切る鋭い音だけが響く。

 

ランディは腕を組み、キーアは体育座りのまま、静かにその姿を見つめ続けていた。

十分ほど、無心で素振りを続けていた時だった。

 

「……よし」

 

おもむろに、ランディが壁から背中を離して立ち上がった。

 

彼は訓練用の木箱から予備の木剣を一本無造作に引き抜くと、

真っ直ぐにアルシュの正面へと歩み寄り――スッと、その長身から見下ろすように剣を構えた。

 

「そんじゃ、次はお兄さんが直々に付き合ってやるか」

 

「ランディ、さん……?」

 

「親父さんと俺が教えた通り、俺の剣をしっかり『受け止め』てみせろ。……行くぜ!」

 

言うが早いか、ランディの腕がブレた。

 

それは、昨日シャーリィが見せたような『殺すための速さ』ではない。

 

純粋な『重さ』と『技術』に裏打ちされた、表の警備隊員としての重厚な一撃が、アルシュの木剣に向かって叩き落とされた。

 

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