『蒼灰の軌跡』〜届かない光と、全肯定の死神〜   作:こげすずめ

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特務支援課-ランディ・オルランド-Ⅱ③

「でもな」

 

ランディは、優しくキーアの頭を撫でていた手を止め、夕陽を背にして静かに言葉を続けた。

 

「恐怖から目を逸らさずに対峙すること……それを身につけた奴の目の奥には、独特なモンが宿るんだ。

 そのまま恐怖を恐怖として飼い慣らし、自分の力に変えられるようになる頃には、そいつは立派な『戦士のオーラ』を纏うようになる」

 

その言葉を聞いて、アルシュはハッとした。

 

(……キーアが、バスの中で言ってたこと)

 

『アルシュが、どっか行っちゃいそうだから』

『アルシュの目……今はびりーっ! てしてる! なんか、遠くの方を見てるみたいな、怖い目になってるもん!』

 

彼女が感じ取っていた「びりーっ」とした怖い目。それは、ランディが今言った「戦士のオーラ」の萌芽だったのだ。

 

日常の温かい世界から切り離され、

血と死の匂いがする闘争の世界へと足を踏み入れようとしているアルシュの変化を、

キーアは本能で恐れ、行かないでと服の裾を握りしめているのだろうか。

 

ランディは、すやすやと眠るキーアの柔らかな髪を再び撫でながら、ぽつりと呟いた。

 

「キー坊がな、俺に連絡してきたんだよ。

 ……アルシュが嵐の夜からずっと落ち込んでて、やっと元気が出たと思ったら、

 なんだか雰囲気が変わっちゃったって。泣きそうな声で相談に乗ってくれってな」

 

「え……」

 

「そりゃそうだ。アルシュが俺に剣を習ってたこと、あいつは知ってたからな。

 ……で、俺はセルゲイのおっさんに頼んで、大聖堂のシスターに連絡を取ってもらい、あの夜、お前の身に何があったのかを聞かせてもらった」

 

ランディの言葉に、アルシュの心臓が冷たく縮み上がった。

 

「シスター・マーブルもひどく後悔してたぜ。

 自分がアルシュの心を癒してやれなかった、助けられなかったって、何度も謝ってた」

 

あの夜。リリちゃんを背中にして、足がすくみ、魔獣の牙から逃げ出してしまった無様な自分。

その恥ずべきトラウマを、憧れの兄貴分であるランディにすべて知られていた。

アルシュは思わず、ランディの真っ直ぐな視線から顔を背け、ぎゅっと目を逸らしてしまった。

 

「……怖かったか?」

 

ランディの声は、咎めるでもなく、ただ静かに、アルシュの心の奥底に問いかけるように響いた。

 

「…………はい」

 

震える声で、アルシュは答えた。

 

「秘密の特訓も……そのトラウマを乗り越えるため、だろ?」

 

「…………うん」

 

アルシュは俯いたまま、小さく頷いた。

嘘はつけなかった。あの地獄のシゴキも、シャーリィの手を取ったことも、すべてはあの夜の絶望を二度と味わわないためなのだから。

 

夕暮れの風が、二人の間をゆっくりと吹き抜けていく。

 

ランディは無理に顔を上げさせようとはせず、ただアルシュの隣で、長い時間をかけて言葉を紡ぐのを待っていた。

 

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