『蒼灰の軌跡』〜届かない光と、全肯定の死神〜   作:こげすずめ

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幸福な日々②

さらに日々は進んでいく。

表と裏、二つの世界を行き来するアルシュの日常は、過酷でありながらも確かな熱を帯びていた。

 

 

休日の昼下がり。

特務支援課ビルの近くの広場で、アルシュはいつものように父・アデルと木剣を交えていた。

 

「はっ!」「よし、いい踏み込みだ」

 

カンッ、と小気味良い音が響く。

 

それはシャーリィのシゴキのような命を削る訓練ではなく、親子の他愛のないコミュニケーションだった。

お互いに剣を振り、受け止め、笑い合いながら最近の出来事を話す。アルシュにとって、この穏やかで温かい時間は何よりも好きなものだった。

 

その様子を、特務支援課ビルの窓から見下ろしている小さな影があった。

 

キーアだ。

彼女は自分の部屋の窓辺に肘をつき、楽しそうに剣を交えるアルシュとアデルの姿を、

まるで自分のことのように嬉しそうに見つめていた。

時折「えへー」とにこやかな笑顔をこぼしながら、その温かい光景に目を細めている。

 

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しかし、裏の世界の教育は容赦なくアルシュを修羅の道へと誘う。

 

「今日から貴様に教えるのは、『赤い星座』の流儀そのものだ」

 

薄暗い地下空間。ガレスは巨大な得物を背負ったまま、冷徹な声で告げた。

 

「勘違いするなよ、小僧。

 これは今、貴様が表で教わっているような『護るため』の剣ではない。

 純度100パーセントの、他者を殺し、完璧に制圧するための技術だ。……それでも学ぶか?」

 

その言葉に、アルシュは木剣を握りしめ、静かに考えた。

 

(……積極的にこの技を振るいたいとは思わない。

 でも、これを身につければ……前にお姉さんが言っていたように、少しだけ早く敵を倒して誰かを守ることできるかもしれない)

 

圧倒的な暴力に直面したとき、それを跳ね除けるための手札。

自分より強大な敵から誰かを護るための『選択肢』を手に入れるため。

 

「……お願いします」

 

アルシュは迷いのない目で、深々と頭を下げた。

 

 

そして、シャーリィの特訓。

今日の彼女は、いつものように猟兵の狂気で一方的にアルシュをボコボコにするような地獄のシゴキは行わなかった。

 

「今日はアタシからはいかないよ。……アンタから打ってきな」

 

木剣をだらりと下げたシャーリィの言葉に、アルシュは果敢に打ち込んだ。

しかし、いくら剣を振るっても、すべて紙一重で躱されるか、軽くあしらわれてしまう。

 

「甘い甘い! アンタはまだ体格も出来上がってないし、筋力もない。

魔獣どころか、大人の悪党相手に正面からまともに打ち合ったって勝てるわけないっしょ」

 

シャーリィは木剣を指先でくるくると回しながら、ニヤリと笑った。

 

「だから、力と技術『以外』の部分で攻撃を通すことを考えな。

 目線、呼吸、フェイント、環境……頭をフル回転させて、相手の虚を突くんだよ」

 

結局、この日は日が暮れるまで打ち込みを続けたが、シャーリィの身体にまともな一撃を当てることはできなかった。

しかし、ただ必死に剣を振るうのではなく『考えながら戦う』という猟兵としての狡猾な思考プロセスを、アルシュは確かにその身に刻み込んだ。

 

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夜。

特務支援課ビルの前で、一人静かに素振りをしていると、ツァイトを連れたキーアがとことこと歩み寄ってきた。

 

最近、こうして夜の素振りの時間に、彼女が隣で見学していることが増えた。

 

「アルシュ、今日ね、ツァイトがね」

 

「ふふ、そうなんだ」

 

星空の下、他愛のない会話を交わしながら、木剣を振るう。

 

キーアがそばにいてくれることで、アルシュの心は温かく高揚していく。

しかし、アルシュはその浮き足立ちそうになる心を、手の中にある剣の『重み』と、

裏の世界で学んだ『思考』で静かに抑え込み、一振り一振りの意味を噛み締めながら素振りを続けた。

 

痛みに耐え、血を吐き、狂気に触れる。

 

それでも、大好きな人たちの笑顔と、彼らとの他愛のない会話がすぐそばにある

 

(……大変だけど、僕の幸せな日々だった)

 

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