『蒼灰の軌跡』〜届かない光と、全肯定の死神〜   作:こげすずめ

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残された日々に

「……一週間、ですか?」

 

薄暗い地下の訓練場。

アルシュは木剣を構え、荒い息を吐きながら目の前の赤い髪の少女を見据えていた。

 

ここ最近の訓練メニューは、決まっていた。

まずはガレスから教わる赤い星座の流儀の武器術と、銃器の構造や対処法の反復訓練。

その後、シャーリィに対してひたすら打ち込みを行い、最後に彼女が振るう木剣の攻撃に対処するという流れだ。

恐怖で目を逸らすことこそ減ったものの、彼女の振るう剣の軌道を正確に追うことは未だに難しかった。

時折鋭い一撃を見失っては、脇腹や肩に重い痛みを喰らい、床に蹲って胃の中のものを吐き出す毎日だった。

 

「そ。それを過ぎると、アタシたちも色々と忙しくなるからねー。

 こんな風に、毎日みっちり特訓に付き合ってあげる時間はなくなっちゃうわけ」

 

ヒュンッ! カァンッ!

 

アルシュの渾身の打ち込みを、シャーリィは欠伸でも出そうなほど難なく、

片手で持った木剣で弾きながら答えた。

 

その言葉を聞いて、アルシュは無意識のうちに、ほんの少しだけ俯いた。

身体中が痛くて、毎日吐くほど苦しい地獄のような時間。

それでも、この強くて恐ろしくて、けれどどこか優しい兄と姉のような猟兵たちと過ごす時間がなくなることに、どうしようもない喪失感を覚えていたのだ。

 

アルシュのそんな顔を見て、シャーリィは木剣をピタリと止めた。

 

「……なに、さみしい?」

 

覗き込むような、からかうような声。

 

アルシュは誤魔化すことも、隠すこともせず、正面から彼女の目を見つめ返した。

 

「……はい。さみしいです」

 

嘘偽りのない真っ直ぐな言葉に、シャーリィは少しだけ目を丸くし

――やがて、くすっと楽しそうに笑い声を漏らした。

 

彼女はアルシュの次の打ち込みを半歩前に出て受け止めると、

そのまま木剣を下ろし、ぽすん、とアルシュの小さな身体を抱きしめた。

 

「おわっ!?」

 

「あはは、可愛いヤツ。……ま、時間が空いたら、たまには遊んであげるからさ」

 

まるで手のかかる弟を愛でるように、シャーリィはアルシュの頭をガシガシと撫で回した。汗と泥にまみれた身体が、彼女の華奢な体温と重なる。

 

「っと、そうだね」

 

シャーリィはアルシュからパッと身を離すと、武器が立てかけられている壁際へと歩み寄った。

今まで使っていた木剣を無造作に放り投げ、代わりに手にしたのは――鈍い光を放つ、金属製の剣だった。

 

「今の木剣での攻撃に、もうちょっとマトモに対処できるようになったら……アンタの『最終試験』は、これだよ」

 

言うが早いか、シャーリィの腕がブレた。

 

ヒュオッ――!!

 

空気を切り裂く鋭利な風切り音と共に、重い金属の塊がアルシュの眼前、

ほんの数ミリのところでピタリと止まった。

唐突な殺気と、肌を粟立たせる刃の重み。アルシュは思わず「ひっ」と喉を鳴らし、

ギュッと強く目を瞑ってしまった。

 

「あははっ! まだまだビビッてるねー」

 

目を開けると、刃を潰した『真剣』を構えたシャーリィが、意地悪な笑みを浮かべていた。

 

「最終日は、この剣の攻撃に対処できるようになりな。

 ……ただし、拳や木剣と違って、これは一歩間違えたら本当に骨折くらいはするよ? 痛いじゃ済まないかもね」

 

シャーリィは剣の腹を指先で弾きながら、試すような視線をアルシュに向ける。

 

「坊やが怖いっていうなら、これくらいで勘弁してあげ――」

 

「――やりますっ!」

 

シャーリィの言葉を食い気味に遮り、アルシュは力強く叫んでいた。

 

震える足を地面に踏み締め、握りしめた木剣を再び正面へと構え直す。

その瞳には、恐怖をねじ伏せる確かな『戦士の意志』が宿っていた。

 

「……あはっ、いい返事!」

 

シャーリィは本当に心の底から楽しそうな、満面の笑顔を浮かべた。

 

「じゃあ、もしその最終試験を最後までやり切れたら……ご褒美に、アタシがなんでも一つお願いを聞いてあげるよ!」

 

「えっ……お、お願い?」

 

「そうそう! どんなことでもいいよー。たとえば……別に、『エッチな感じ』のお願いでもいいし?」

 

「えっ!? ぇ、ええええっ!?」

 

唐突に放たれた爆弾発言と、シャーリィの挑発的なウインクに、アルシュの顔は一瞬にして茹でダコのように真っ赤に染まった。

 

「そ、そんなこと、べ、別に……っ!!」

 

「あーはっはっは!! 顔真っ赤! ウケるーっ!!」

 

腹を抱えてケラケラと笑い転げるシャーリィと、木剣を握ったままパニックになって慌てふためくアルシュ。

少し離れた壁際で腕を組んでいたガレスは、その様子を見て、やれやれとばかりに呆れたような、ひどく疲れたようなため息を一つだけ吐き出したのだった。

 

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