『蒼灰の軌跡』〜届かない光と、全肯定の死神〜 作:こげすずめ
夕暮れ時。図書館の重厚な扉を押し開けると、クロスベルの街はすでに柔らかな茜色に染まっていた。
お互いにお勧めし合った本を大事そうに抱え、アルシュとキーアは満足げに外へ出る。
すると、市庁舎の方角を見ていたキーアがパッと顔を輝かせた。
「あっ、エリィだ!」
キーアの視線の先には、マクダエル議長と、彼に付き従うエリィの姿があった。
「アルシュ、行こう!」
キーアはアルシュの手をぐいっと引っ張り、弾かれたように駆け出す。
「わっ、ちょっとキーア!」
「エリィー!」
勢いよく飛び込んできたキーアを、エリィは目を丸くしながらもしっかりと受け止めた。
「キーアちゃん!? ふふ、びっくりしたわ」
遅れて追いついたアルシュも、少し息を切らしながら頭を下げる。「こんにちは、エリィさん」
「こんにちは、アルシュ君。二人で図書館に行っていたの?」
エリィが微笑む傍らで、キーアは隣の初老の男性にも元気よく手を振った。
「マクダエルのおじいちゃんも、こんにちは!」
「やあ、キーア君。今日も元気で何よりだね」
以前からキーアを見知っている議長は、柔和な笑みで応える。その隣で、アルシュは少し緊張しながら居住まいを正した。
「は、初めまして。……アルシュ・グレイウッドと申します」
真っ直ぐに自分を見上げて挨拶をする少年に、議長は少しだけ目を細め、優しく頷いた。
「初めまして、アルシュ君。……うん、とてもいい顔をしているね。キーア君の良きお兄ちゃんといったところかな」
そのひどく穏やかで物腰の柔らかい言葉に、アルシュはホッと肩の力を抜いて「はい!」と返事をした。
ふと、議長は傍らに控える秘書に視線を向けた。
「ところで……この後の予定だが、エリィが同行しなくても問題ない内容だったね?」
「はい、議長。私一人で十分補佐できる案件でございます」
秘書の返答に頷き、議長はエリィに向き直る。
「エリィ、お前はここで上がりなさい。最近は私に同行して働き詰めだったからね。よかったら、彼女たちと一緒に食事でもどうだい」
「えっ……でも、お祖父様」
「議長の仰る通りです、エリィさん」
戸惑うエリィをなだめるように、秘書も同調した。
「少々働きすぎですよ。本日は私がしっかりと補佐を務めますので、どうか休息を」
身内と秘書の両方から気遣われ、エリィは少し困ったように、けれど嬉しそうに微笑んだ。
「……それなら、お言葉に甘えさせてもらうわ」
「アルシュ君、キーア君」
議長は二人の子供たちに向き直り、優しく語りかける。
「エリィは少し疲れているみたいだから、どうか二人で元気づけてやってくれないかい?」
「うんっ、任せて!」
「はい! 議長さんも、お仕事頑張ってください」
アルシュとキーアの元気な声援に、議長は「ありがとう」と心底嬉しそうに目を細めた。
そして、秘書と共に市庁舎の方へとゆっくり歩き去っていく。
夕暮れの街角。
遠ざかる頼もしい祖父の背中を見送りながら、エリィは小さく、温かい声で呟いた。
「ありがとう……お祖父様」