『蒼灰の軌跡』〜届かない光と、全肯定の死神〜   作:こげすずめ

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特務支援課-エリィ・マクダエル-

特務支援課ビルの1階。

 

キッチンからは、食欲をそそる温かな香りと、小気味良い包丁の音、そして楽しげな話し声が漂ってきていた。

 

キーアが夕飯を作り、エリィがそれを優しく手伝う。

その間、アルシュはロビーの隅で、定位置でくつろぐツァイトのフサフサとした毛並みを撫でながら、静かにその完成を待っていた。

 

(……なんだか、すごく平和だな)

 

ツァイトが心地よさそうに目を細めるのを見ながら、アルシュはふとそんなことを思う。

 

やがて。

 

「みんなー! できたよー!」

 

エプロン姿のキーアが、満面の笑みで大皿を抱えてダイニングへやってきた。

 

「おお、こいつは美味そうじゃないか」

 

自室から降りてきたセルゲイ課長も、テーブルに並べられた彩り豊かな料理を見て目を細める。

 

「さあ、冷めないうちにいただきましょうか」

 

エリィの合図で、賑やかで温かい夕食の時間が始まった。

 

「んっ! すっごく美味しいよ、キーア!」

 

「えへへー、おかわりいーっぱいあるからね!」

 

アルシュが頬張って目を輝かせると、キーアは得意げに胸を張った。

 

 

食事が少し落ち着いた頃、コーヒーを片手にしたセルゲイがエリィへと視線を向けた。

 

「……で、そっちの状況はどうだ? エリィ」

 

「はい。相変わらず忙しいですが……目標だった『西ゼムリア通商会議』へ向けた法案や根回しの筋道は、無事に立ちました。

 お祖父様からも、そろそろこちら(支援課)へ戻るようにと勧められていますので……もうしばらくすれば、正式に復帰できそうです」

 

「ほんと!? エリィ、帰ってくるの!?」

 

キーアが身を乗り出して喜ぶと、セルゲイは「ああ」と頷き、さらに言葉を続けた。

 

「それに、レミフェリアに行っているティオからも連絡があってな。あっちでのテストが一段落して、そろそろクロスベルに戻れるそうだ」

 

「ティオも! わぁ……っ!」

 

「さらに言えば、ロイドのヤツも一課での『仕上げ』が終われば、こちらに合流できるはずだ」

 

支援課のメンバーが、ついに全員帰ってくる。

その事実に、キーアはもちろん、アルシュもパァッと顔を輝かせた。

彼にとって特務支援課の面々は、街を救った憧れのヒーローそのものだ。

それが再びこのビルに集結するというだけで、胸が高鳴った。

 

だが、ロイドの『仕上げ』が何を意味しているのか――それを知っているエリィだけは、少しだけ心配そうに眉をひそめ、セルゲイを見つめた。

 

「……課長。ロイドの件ですが……」

 

「気にするな」

 

セルゲイはエリィの不安を先回りするように、短く、力強く言い切った。

 

「遊撃士協会のアリオスや、一課のダドリーも動く予定になっている。……お前が心配するようなことにはならんさ。安心しろ」

 

「……はいっ」

 

『風の剣聖』アリオスと、一課のエースであるダドリー。

その絶対的な名前に、エリィはホッと安堵の息を吐き、いつもの柔らかな笑顔を取り戻した。

 

「アルシュ君」

 

エリィは、隣で嬉しそうに食事をしているアルシュへと優しく語りかけた。

 

「みんながここに帰ってくるまで、あと少しだけ時間がかかるわ。

 ……だからそれまでは、アルシュ君にキーアちゃんのことをお願いしてもいいかしら?」

 

「えっ……僕で、いいんですか?」

 

突然の指名にアルシュが瞬きをすると、エリィはふふっと悪戯っぽく微笑んだ。

 

「ええ。さっきビルの前で、真っ先にキーアちゃんを庇って前に出てくれたじゃない? あの姿を見て、アルシュ君なら安心して任せられるって思ったのよ」

 

「あ、う……っ」

 

さっきのワジとの一件――ただの早とちりで勝手に一人で警戒してしまった恥ずかしい記憶が蘇り、アルシュはボンッ! と音を立てて顔を赤くした。

 

「あ、あれは、その……僕の勘違いで、すごく恥ずかしいところを見せちゃったというか……っ」

 

「そんなことないわ。女の子を守ろうとする、立派な『騎士(ナイト)』だったもの」

 

「そうだよ!」

 

エリィの優しい言葉に、キーアも元気よく同調する。

 

「アルシュ、夜の星空の下で、キーアのこと絶対守るって約束してくれたもんね! キーア、すっごく嬉しかったんだから!」

 

「き、キーアまで……っ!」

 

完全に逃げ場を失い、耳の先まで真っ赤に茹で上がったアルシュ。

しかし、大好きな支援課の『お姉さん』と、自分が守ると決めた『女の子』からの絶対的な信頼の言葉に、彼の心の中には温かくて強い力が満ちていた。

 

「……はいっ。僕、頑張ります……!」

 

照れ隠しのように俯きながらも、力強く頷いたアルシュ。

その初々しくも頼もしい決意に、エリィとキーアは顔を見合わせてクスクスと笑い合い、セルゲイも満足げに鼻を鳴らした。

 

ツァイトが「ふぉう」と優しく相槌を打つ中、賑やかで温かい夕食の時間は、穏やかに過ぎていった――。

 

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