『蒼灰の軌跡』〜届かない光と、全肯定の死神〜   作:こげすずめ

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僕の将来

翌日。

薄暗い地下空間には、今日も冷徹な教えと荒々しい息遣いが響いていた。

 

「……姿勢がブレている。銃の反動を殺すには、足の裏全体で地面を掴め」

 

ガレスによる手ほどきは、ますます実戦的かつ容赦のないものになっていた。

まずは拳銃を真っ直ぐに撃つための姿勢制御、そして銃器の細かな構造の解説。

さらに彼が重点的に叩き込んだのは、『自身が銃口を向けられた時の対処法』だった。

 

「銃口を向けられたからといって、恐怖に足を取られるな。

相手の目線、射線、そして『引き金を引く指の筋肉の動き』を読め。

タイミングさえ見切れれば、銃弾が放たれる前に回避することは十分に可能だ」

 

「……はいっ!」

 

次に、武器の扱い。

アルシュが普段使っている木剣を用いて、ランディから教わっていた『護るための剣』の基礎に、『赤い星座』特有の『他者を制圧するための鋭い術理』を上乗せしていく。

 

「だが、貴様のその子供の体格と筋力では、大型の武器や力任せの剣術で大人を制圧するのは不可能に近い。……ゆえに、これを覚えろ」

 

そう言ってガレスが手渡したのは、一振りの模擬ナイフだった。

 

「子供である貴様を見て、大人の悪党は必ず油断する。その隙を突き、死角に潜り込み……ここを一突きにして無力化しろ」

 

ガレスが教えるナイフ術は、人体のどこをどう狙えば効率よく相手を昏倒、あるいは行動不能にできるかという、純度100パーセントの人体破壊・制圧術だった。

およそ真っ当な武術の道場では絶対に教えられない、暗殺術にも等しい異常な技術体系。

 

しかし、アルシュは震える手でナイフを握り込み、それを真剣に、一生懸命に学んでいた。

 

(……あと数日もすれば、この人たちから教わる時間は終わってしまう。その後は、僕一人でやっていかなきゃならないんだ)

 

ならば、今教わっているこの技術を、一つ残らず身体の髄まで染み込ませるしかない。

アルシュは必死にガレスの動きを目に焼き付け、反復した。

 

そして、ガレスの技術指導が終わり、シャーリィとの実戦訓練に移るまでの短い休憩時間。

冷たい床にへたり込み、肩で息をするアルシュの顔を覗き込みながら、シャーリィがふと、思いついたように尋ねてきた。

 

「ねえねえ、アルシュ。アンタさ、将来なにになりたいとか、考えてるわけ?」

 

「えっ……将来、ですか?」

 

唐突な質問に、アルシュは目をパチクリとさせた。

将来の夢。そんなこと、この数ヶ月は考えたこともなかった。

ただ目の前の理不尽な暴力から大切な人を守れるだけの『強さ』が欲しくて、必死にもがいていただけだからだ。

 

(将来……)

 

真っ先に思い浮かぶのは、クロスベル警察であり、特務支援課の存在だ。

ロイドやランディのような、誰かを助けるために壁を乗り越えていく、あんなかっこいい大人になりたい。

けれど、同時に。アルシュの心の奥底には、今こうして自分を鍛え上げてくれているシャーリィやガレスのような、理不尽を暴力でねじ伏せる『圧倒的な強さ』に対する強烈な憧れも、確かに芽生えていた。

 

「僕、は……警察や、支援課のロイドさんたちみたいになりたいです。

でも……お姉さんや、ガレスさんみたいな強さにも、すごく憧れてて……」

 

ポツリとこぼしたその本音に。

壁際で腕を組んでいたガレスは、すべてを見透かしたように、短く、しかし強い語気で言い放った。

 

「……猟兵を志すのだけはやめておけ、小僧。貴様には向いていない」

 

その言葉に、シャーリィもケラケラと笑いながら同意した。

 

「あははっ、ガレスのオッサンの言う通り!

 アンタ、根っこが優しすぎるからさー、猟兵(ウチら)みたいな血生臭い世界は多分あんまり向いてないんじゃない?

民間人を守ることを最優先にする、『遊撃士(ブレイサー)』なんかいいんじゃないの?」

 

「遊撃士……」

 

その言葉を聞いて、アルシュの脳裏に一人の男の姿が浮かび上がった。

クロスベルの守護神。特務支援課の目標でもあり、圧倒的な強さで市民を護る『風の剣聖』アリオス・マクレインの背中。

 

「遊撃士かぁ……」

 

アルシュがその響きを噛み締めるように呟くと、

シャーリィはニシシと、悪戯を思いついた子供のように目を輝かせた。

 

「そうそう! それにさ、遊撃士ってのはアタシたち猟兵の『商売敵』になることも多いわけ!

だから、もしアルシュが将来遊撃士になったら……戦場でアタシたちとカチ合うことになるかもね!」

 

「えっ……!?」

 

「あははっ! もしそうなったら、手加減なしで思いーっきりボコボコにしてあげるから、覚悟しときなよ!」

 

まるで「そうなってほしい」と心の底から楽しみにしているような、猟兵の純粋な狂気と愛情の入り混じった笑顔。

その言葉にアルシュが呆気に取られていると、シャーリィは弾かれたように立ち上がり、無造作に木剣を拾い上げた。

 

「はい、休憩終わりー! それじゃあ今日も、みっちりボコボコにしてあげるよ!」

 

「うわっ、待っ、まだ息が――!」

 

「死ぬ気で躱しな!!」

 

ヒュンッ!! と空気を裂く容赦のない一撃。

 

アルシュの抗議も虚しく、その日もアルシュは地下室の床を転げ回りながら、

シャーリィによって徹底的にボコボコにされたのであった。

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