『蒼灰の軌跡』〜届かない光と、全肯定の死神〜 作:こげすずめ
その頃、クロスベル市内の高級ホテルの一室。
『赤い星座』が拠点として押さえているその部屋で、部隊長であるガレスは、
一人の一般団員からの報告を静かに受けていた。
「――以上です。我々の監視網が完全に敷かれる直前、ジオフロントに潜伏していたマフィアの残党の一部が、地上へと這い出た形跡がありました」
「……チッ。ネズミどもめ」
ガレスは腕を組み、忌々しげに舌打ちをした。
現在、『赤い星座』はエレボニア帝国との契約満了に伴う次なる大規模契約の詰めを、IBC(クロスベル国際銀行)ビルにて行っている最中だった。
それに加え、壊滅したルバーチェ商会の跡地や利権絡みの処理も控えている。
下手にマフィアの残党が街で騒ぎを起こし、警察や遊撃士の目を引きつけたり、契約に横槍が入るような事態になれば非常に厄介だ。
だからこそ、今朝クロスベル入りした時点で直ちに団員たちに裏通りの監視を命じていたのだが……
彼らの目が行き届くよりほんの少し早く、窮地に陥った残党の一部が暴走を始めてしまったらしい。
「加えて、連中が使用したと見られる大型トラックが、暴走とも言えるような速度で市街地を抜け、東クロスベル街道方面へと向かっていったという情報も入っております」
団員からの報告を聞き終えたガレスが眉間を揉みほぐしていると、
ソファで退屈そうに寝転がっていたシャーリィが、ひょいっと身を乗り出してきた。
「あーあ、面倒くさい連中。……どう? ガレスのオッサン。アタシがパパッと出向いて、ミンチにしてきてやろっか?」
悪戯っぽく、しかし本物の殺気を滲ませて物騒な提案をするシャーリィ。
しかし、ガレスはゆっくりと首を横に振った。
「いや、よしておけ。今はIBCでの契約の大詰めだ。
先方の要求次第では、『闘神』の身内としてお嬢に顔出しをしてもらわなければならない可能性もある。……ここはおとなしく控えていてくれ」
「えーっ。アタシ、そういうお堅い話し合いとか一番嫌いなんだけど」
「我慢しろ。……一応、俺が直接出向いて、ネズミどもの動向を確認してくる。何かあれば連絡する」
ガレスはそう言うと、手早く自身の装備と外套を身につけ、足早にホテルの部屋から出ていった。
バタン、と重いドアが閉まる音が響く。
「あーあ……行っちゃった。つまんないのー」
部屋に一人残されたシャーリィは、ふてくされたように大きなベッドへとダイブし、ゴロゴロと寝返りを打った。
どうせこんなホテルで、いつ呼ばれるかもわからない退屈な待機をさせられるくらいなら。
「……これなら、もうちょっとだけ、アタシの可愛い『弟分』をからかって遊んでてやればよかったなー……」
シャーリィはホテルの天井を見上げながら、
昨日、限界まで顔を真っ赤にして自分を「お姉ちゃん」と呼んだ、
健気で不器用な少年の顔を思い浮かべ、暇そうにふうっとため息を吐いたのだった。