『蒼灰の軌跡』〜届かない光と、全肯定の死神〜 作:こげすずめ
日曜学校の終わりの鐘が鳴り、子供たちは連れ立ってクロスベル市街へと続く道を下っていく。
「ばいばーい、コリン! また来週ね!」
「おう、またなキーア! アルシュもな!」
中央広場でコリンたち他の子供たちと手を振って別れると、残ったのはアルシュとキーアの二人だけになった。
アルシュの家であるアパートは、西通りにある特務支援課のビルからほど近い場所にある。
そのため、放課後に特別な用事がない限り、こうしてキーアを支援課ビルまで送り届けるのが彼にとっての恒例行事となっていた。
以前はただ「帰り道が同じだから」という理由だったが、昨日の今日である。
アルシュは少しだけ胸を張り、彼女の隣を歩く自分の足取りがいつもより力強いのを感じていた。
(僕が、キーアちゃんを家までしっかり護衛するんだ)
そんな決意を胸に秘めながら歩幅を合わせていると、西通りに入り、見慣れた赤レンガのビルが見えてきた。
「あ……」
現在の特務支援課は、実質的な開店休業状態だ。
ロイドも、エリィも、ランディも、それぞれ別の場所で任務やリハビリに励んでおり、
ビルには誰もいない日が多い。
しかし今日は、ビルの1階の窓から温かい明かりが漏れていた。
「ああっ! ティオだー!!」
明かりの中に、水色の髪と特徴的な猫耳型センサーのシルエットを見つけた瞬間、キーアはパッと顔を輝かせて駆け出した。
「ティオーーっ!」
「わっ……と」
勢いよくビルのドアを開けて飛び込んできたキーアを、
小柄な少女――ティオ・プラトーがしっかりと受け止める。
エプスタイン財団の用事で一時的に街を離れていたはずの彼女だが、今日はたまたまクロスベルに戻ってきていたらしい。
「ただいま、ティオ! おかえりなさい!!」
「……はい、ただいま戻りました。キーアも、日曜学校お疲れ様です。相変わらず元気ですね」
淡々とした口調の中にも、隠しきれない優しさと安堵を滲ませて、
ティオはキーアの翡翠色の髪をそっと撫でた。
そして、開いたドアの前に少し緊張した面持ちで立っているアルシュに気づき、静かにぺこりと頭を下げる。
「アルシュ君。今日もキーアをここまで送ってくれたんですね。いつもありがとうございます」
「あ、いえ! ティオさん、お久しぶりです。僕も家が近いから、ついでみたいなものですし……!」
支援課の大人たちの中でも、ティオは特に賢く、
どこか底知れない雰囲気を持っている。アルシュは少し居住まいを正して挨拶を返した。
『ウォフッ』
その時、部屋の奥から低く、けれど穏やかな鳴き声が響いた。
のっそりと姿を現したのは、真っ白な毛並みを持つ巨大な狼――警察犬として支援課に身を置いているツァイトだった。
ツァイトはキーアの足元にすり寄った後、アルシュの方をじっと見つめ、
労うように『オンッ』と短く鳴いて尻尾を揺らした。
「あ、ツァイト。ただいま」
アルシュは少し頬を緩め、ツァイトの立派な鼻先をそっと撫でた。
初めてこのビルでツァイトを見た時は、そのあまりの大きさと野生の獣のような鋭い眼光に腰を抜かしそうになったものだ。
しかし、彼がキーアや支援課の面々を静かに見守り、時には身を挺して戦う姿を知ってからは、恐怖心はすっかり消え去っていた。
むしろ今のアルシュにとって、ツァイトは「強くて、何も言わずに大切な人を守る」最高にかっこいい存在として、密かな憧れの対象ですらある。
「ツァイトも、キーアのお迎えをご苦労様と言っていますよ。
……外は冷えますし、アルシュ君も少し休んでいきませんか? 温かいみっしぃ茶を淹れますから」
ティオがそう言って、わずかに口角を上げてみせた。
大好きな友達と、憧れの大人(と一匹)がいる温かい空間。
アルシュの顔に、今日一番の嬉しそうな笑顔が浮かんだ。
「はいっ! お邪魔します!」