『蒼灰の軌跡』〜届かない光と、全肯定の死神〜 作:こげすずめ
仰向けに倒れた僕の胸にすがりつき、ボロボロと大粒の涙をこぼしながら、キーアちゃんが何度も何度も僕の名前を呼んでいる。
(あぁ……キーアちゃん、泣かせちゃったな……)
霞んでいく視界の中で、その泣き顔を見つめながら思う。
やっぱり、僕はダメだな。約束、破っちゃった。
『ずっと一緒にいる』って約束したのに。本当はこれからも、キーアちゃんの隣にずっと……いたかったのにな。
ティオさんに『僕がしっかりキーアちゃんを守りますから!』って、あんなに胸を張って言ったのに。結局、こんなに怖い思いをさせちゃった。
エリィさん。『立派な騎士(ナイト)ね』って優しく頭を撫でてくれたけど……僕は、できそこないだったみたいです。
ロイドさん。僕も、ロイドさんみたいにもっとかっこよく誰かを守れたらよかった。せっかく僕を信じて任せてくれたのに、こんなぼろぼろのやり方しかできなかった。ごめんなさい。
ランディさん。……ごめんなさい。男同士の約束だったのに、守れなくて。キーアちゃん、こんなに泣かせちゃった。
でも、いいか……。
明日かあさってになったら、ロイドさんたちがクロスベルに帰ってくるって言ってたから。
僕みたいな子供と違って、強くて優しい特務支援課のみんなだったら……これから先、絶対にキーアちゃんのこと、ちゃんと守ってくれるから。
だから、そんなに泣かないで。キーアちゃん。
ああ。でも、やだなあ。
やっぱり、ロイドさんたちじゃなくて。僕が……僕がずっと、キーアちゃんの隣で、君を守っていたかったよ。だから……。
……ああ、なんだか、キーアちゃんの顔も、よく見えなくなってきた。
僕、キーアちゃんが笑ってる姿が、すごく好きで。
ずっと、お日様みたいに笑っていてほしかった。だから、キーアちゃんを怖いものから、全部守りたかったのに。
……父さん、母さんにも、あっちに行ったら怒られるかな。
いやだな。僕、痛いのも我慢して、すっごく頑張ったんだから……許してくれないかな。
お姉ちゃんに、ガレスさんは……今の僕を見て、褒めてくれるかな。
僕、二人が教えてくれたおかげで、キーアちゃんを守り抜けたよ。
二人に「馬鹿な死に方しやがって」って怒られるのは、嫌だな。
僕の頑張りを「戦士だ」って認めてくれて、頭を撫でてくれたの、すごく嬉しかったから……怒られるのは、嫌だな。
……ああ、なんだか、すごく……眠くなってきちゃった。
痛かったはずの右腕も、右肩も、撃たれた足も。もう何も感じない。
ただ、胸の上で僕を抱きしめてくれているキーアちゃんの温もりだけが、心地よかった。
アルシュは、僅かに残った最後の力で、血に染まった唇をゆっくりと動かした。
「ねえ……キーア、ちゃん。……、また今度……一緒に、図書館…………」
その小さな約束の言葉が、最後まで紡がれることはなかった。
ふっと、アルシュの体から完全に力が抜け、夜空を見上げていたその瞳が、ゆっくりと、静かに閉じられる。どこかやりとげたような顔をした少年の身体。
クロスベルの冷たい風が吹き抜ける中。
血に染まった空き地には、動かなくなった少年の亡骸を抱きしめ、名前を呼び続ける少女の、張り裂けるような悲鳴だけが、いつまでもいつまでも響き渡っていた。
まだ続きます。
ここからしばらく重い展開続きますが、救済の話まで書くので。