【幕間連載中】『蒼灰の軌跡』〜届かない光と、全肯定の死神〜   作:こげすずめ

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アカイデアイ①

夜の帳が下りた、クロスベル市。

人通りの絶えた裏通り。少しだけ開けたその一角に、規則正しい風切り音だけが、ぴたり、ぴたりと響いていた。

 

「ふっ……! やあっ!」

 

すっかりアルシュの日課になった、素振りだ。

ティオが一時的に戻ってきていた、あの日から数日。

彼は毎晩、夕食を終えるとこの場所へ足を運び、飽きることなく木剣を振り続けていた。

ランディに教わった、踵で地面を掴む感覚。そして、力の逃がし方。

 

――それは本来、警備隊の正式な剣術なんかではない。

無駄をとことん削ぎ落とし、最短距離で、確実に標的を破壊するためだけの動き。

アルシュ自身もまだ気づいていない、《赤い星座》の――殺戮の流儀。

けれど、そんなことは露ほども知らないアルシュは、ただ純粋に「守れる男になりたい」という一心で、その危うい剣筋を、必死に身体へ刻みつけようと反復を繰り返していた。

 

「――へぇ……。なかなかいい筋、してるじゃん。そこのボク」

 

不意に、背後から声がかかった。アルシュは弾かれたように振り返る。

そこに立っていたのは、街灯の薄暗い光の中でさえ、燃えるように目を引く鮮やかな赤髪の――少女。いや、女性だった。

年の頃は、アルシュより少し上、くらいだろうか。けれど、その身にまとう空気は、これまで出会ってきたどんな大人とも、まるで違っていた。

傍らには、大柄で、岩みたいに無口な男を一人、供として従えている。

彼女の瞳は――まるで、とびきり面白い玩具を見つけた肉食獣みたいに、爛々と輝いていた。

 

「その剣筋さ。すっごく、見覚えがあるんだけど。……ねえ、誰に教わったの?」

 

飄々とした、それでいて、聞いているだけで背筋がぞくりと粟立つような声音。

突然のことに戸惑いながらも、アルシュは木剣を下げ、まっすぐに答えた。

 

「……父さんと。それから、ランディさん、です」

 

『ランディ』。

 

その名前が出た、瞬間だった。

赤髪の女性は、ぱちくりと目を丸くして――次の刹那、腹を抱えて、路地裏じゅうに響き渡るような大声で笑い出した。

 

「アハハハハハッ! やっぱりそうだ! ランディ兄のやつ、こんなとこで一体なにやってんのさ! あーおかしい。あんなに逃げ回ってたクセに、子供にまで『これ』を教えちゃうなんてさぁ……面白すぎるんだけど!」

「え……?」

 

ランディを、知っている? それも――「兄」と、呼んで?

アルシュがわけもわからず呆然と立ち尽くしていると、ひとしきり笑い転げた彼女は、ふっと笑いを止めた。

そして、音もなく、するりとアルシュの目の前まで距離を詰めてくる。

 

「ひっ……」

 

思わず後ずさりしそうになるのを、アルシュは必死に足を踏ん張って堪えた。

彼女の視線が、アルシュの上を滑る。

足の運びから、額に浮かんだ汗、それから――木剣を強く握りしめすぎてできた、手のひらのマメまで。

値踏みするように、じっとりと舐め回すように。

まるで、自分の牙が通る獲物かどうかを、見極めるみたいに。

やがて彼女は、ぱっと花が咲いたような、無邪気で――それでいて、ぞっとするほど凶悪な笑みを浮かべた。

 

「ねえ、ボク。よかったらさ。お姉さんが、剣を教えてあげよっか?」

 

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