『蒼灰の軌跡』〜届かない光と、全肯定の死神〜   作:こげすずめ

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地下道①

クロスベル市からウルスラ医科大学へと続く、整備された長大な地下路線。

現在は統一国による都市封鎖の余波で完全に運休となっており、静まり返った暗いトンネルの中を、二つの影が猛スピードで駆け抜けていた。

 

一人は、身の丈ほどもある巨大な剣を背負ったリベール出身のA級遊撃士、アガット・クロスナー。

もう一人は、自作の重装甲搭乗兵器『オーバルギア』に乗り込んだ天才少女、ティータ・ラッセルだ。

 

「ティータ、大丈夫か!」

「はい、大丈夫です!」

 

アガットの呼びかけに、ティータがコックピットから力強く応じる。

 

「よし、このまま病院まで抜けるぞ!」

 

アガットがそう叫んで前を向いた、その直後だった。

背後の暗闇から、鋭い銃撃が二人の背中を狙って放たれた。

 

「ちぃっ……!」

 

咄嗟の判断で、アガットは背に負った大剣を抜き放ち、それを盾代わりにしてティータを庇う。

火花が散り、重い衝撃が腕に走った。

 

(追手か……!)

 

薄暗い視界の先には、かろうじて動く人影が見える。

アガットは迎撃よりも離脱を優先し、ティータに急ぐよう促して地下路線をさらに奥へと駆け抜けた。

背後からの射撃を大剣で弾き、掻い潜りながら、他ルートと繋がる分岐点付近まで差し掛かった時だ。

 

――不自然に空間が揺らいだ。

 

アガットたちの目の前に、ステルス状態(光学迷彩)で潜んでいたのか、

見慣れぬ形状の浮遊する機械兵器が突如として姿を現したのだ。

それは無機質な駆動音と共に、二人に対して容赦のない弾幕をばら撒いてきた。

 

「くそっ、次から次へと!」

 

二人はそれぞれ大剣と装甲でその弾幕を防ぐ。

アガットは即座に反撃に転じ、地を蹴って一気に懐へと飛び込むと、渾身の力で大剣を叩きつけようとした。

 

だが――。

 

まるで、アガットがそう動くことを完全に『読んでいた』かのように。

機械兵器は飛び込まれるコンマ数秒前に、滑るような機動で距離を取り、大剣の致死の軌道を完璧に回避してみせた。

 

「あぁ……?」

 

想定していなかった異様な回避挙動に、百戦錬磨のアガットですら、一瞬だけ動きが止まる。

そして、その絶好のタイミングを図っていたかのように。

暗がりから、一人の追跡者が姿を現した。

 

片手で戦術オーブメントと思われる端末を操作し、

もう片方の手で導力銃(オーバルガン)をこちらに真っ直ぐ向けている、顔の下半分を仮面で隠したコート姿の男。

 

「ティータ・ラッセルさんに、アガット・クロスナーさんですね」

 

男は、息一つ乱れていない平坦な声で口を開いた。

 

「手荒な真似はいたしません。どうか、街に戻っていただけませんか」

 

「……銃を構えながら言うセリフじゃねえな」

 

アガットが低く唸るように返すと、仮面の男は「ふふ」と小さく苦笑を漏らした。

 

「その通りですね。……ですが、大人しく戻っていただけるなら、エリカ博士のこともこちらで最大限に配慮させていただきますよ」

 

「お母さん……っ!」

 

遠く離れた母の名を出され、ティータが悲痛な声を上げる。

 

「てめぇ……ふざけんじゃねぇぞ!」

 

家族を交渉材料に使うようなやり口に、アガットは激しい怒りを爆発させ、男に向けて大剣を構え直した。

 

「アガットさん、わたしも――!」

 

ティータがオーバルギアを駆動させ、アガットの援護に入ろうと動き出した、まさにその瞬間だった。

仮面の男は、アガットから視線を一切外すことなく。

ノータイムで、手に持った導力銃の銃口だけを僅かに逸らし、ティータの機体に向けて数発の射撃を放ったのだ。

 

「――っ!?」

 

あまりに自然で、殺気すら伴わない流れるような動作。

一瞬だけ反応が遅れたアガットだったが、無理やり身体をねじ込み、大剣の腹でティータへの射撃を強引に弾き落とした。

 

「できれば、動かないでもらえますか」

 

仮面の男は、銃口から白煙を燻らせながら静かに言った。

 

「……それ(オーバルギア)の相手は、僕もかなりキツそうなので」

 

(……こいつ)

 

アガットの背筋に冷たい汗が伝う。

今の射線、明らかに生身のティータには当たらないよう、

機体の足元や装甲の厚い部分を狙った『牽制』だった。

だが同時に、この男はティータが少しでも加勢に動けば、

躊躇なく急所を狙ってくる冷徹さを持っていると確信させた。

 

「ティータ。……お前は手ェ出すな」

 

アガットは低い声でティータに言い含めると、彼女を背に庇うようにして、再び仮面の男の前に立った。

 

男もまた、その凄まじい闘気を受け止めるように、オーブメントを懐にしまい込んだ。

そして代わりに、刃こぼれを誘う特殊な短剣『ソードブレイカー』を抜き放ち、

導力銃と交差させるようにして、アガットの構えにピタリと合わせたのだった。

 

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