『蒼灰の軌跡』〜届かない光と、全肯定の死神〜   作:こげすずめ

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地下道③

「バニングス! このデカブツは俺とティータで引き受ける! てめぇらはその仮面野郎を叩け!」

 

「分かりました! 気をつけて、アガットさん!」

 

「はいっ! オーバルギア、出力最大でいきます!」

 

アガットさんが大剣を構えて吠え、ティータさんが機敏な動きでオーバルギアに乗り込む。

 

ロイドさんとワジさんは、周囲に展開した無人機械兵器の弾幕を掻い潜りながら、僕の元へと一直線に向かってくるだろう。

 

盤面の動きを瞬時に整理しながら、僕は巨大な魔煌機兵の背後へと飛び込んだ。

機兵の背面に懸架させていた予備の銃器。

万が一、僕自身がこれらと連動して動く羽目になるなら、手札は多いに越したことはないと事前に準備していたものだ。

僕はそこからサブマシンガンを引っこ抜き、機械兵器を掻い潜って迫ろうとする二人に向け、容赦のないフルオートの弾幕をばら撒いた。

 

「くっ、武器を変えた……!?」

「おっと。次から次へと、本当に手品師みたいな手札の多さだね!」

 

先ほどまでの導力銃から獲物が変わったことに判断が遅れたのか。

ロイドさんとワジさんは武器で弾丸を弾きながら、たまらず後方へと飛び退いた。

僕はその隙を見逃さず、左手の戦術オーブメントを操作して、機械兵器たちに間髪入れず二人との距離を詰めさせる。

 

まともに真正面から彼らとやり合えば、個々に撃破されて終わるだろう。

だからこそ――かつて、ティオさんに叩き込まれた直感的な情報処理の技術を使う。

ノバルティス博士に頼み込み、無理やり僕のオーブメントと脳をリンクさせて組み込んだ『無人兵器の並列遠隔操作(マルチタスク)』に、思考の大部分を割り振る。

 

巨大な魔煌機兵もそうだ。

ある程度は自律AIで動くが、僕自身がオーブメントを介して全体に戦術指示を出し、盤面を完全に支配しなければ、特務支援課という規格外の集団に勝機はない。

 

「チィッ! なんだこのふざけた出力と装甲の硬さは!」

「アガットさん、無理しないで! わたしが盾に――きゃあっ!?」

 

エリュシオンの未来の技術で作られた新型の魔煌機兵は、自律状態であっても凄まじい戦闘力を誇り、

アガットさんの大剣とティータさんの機体を力で完全に圧倒していた。

 

ロイドさんとワジさんに対しても、僕が精密に操る機械兵器が執拗に取り付き、サブマシンガンの援護射撃と合わせて完全に足止めしている。

 

「ダメだ、連携の隙間が全く見当たらない……!」

「まるで、僕らの動きを全部知っている相手と戦っているみたいだね」

 

ロイドさんが焦りの声を上げ、ワジさんが鋭い観察眼で僕の戦術を分析する。

 

「ならば、後方からアーツで打開を――!」

 

二人の後方で、ティオさんが魔導杖を構え、強力なアーツの駆動に入ろうとした。

 

――だが、遅い。

 

「させない」

 

僕は一瞬だけサブマシンガンから左手の導力銃に持ち替え、彼女の杖の先、アーツの『起点』となる空間を正確に撃ち抜いて駆動を強制解除させた。

 

「っ……!? アーツの駆動(タイミング)が、完全に読まれている……!?」

 

ティオさんが信じられないものを見るように、大きく目を見開く。

 

業を煮やしたのか、ワジさんがロイドさんに向かって声を上げた。

 

「ロイド、こっちの相手は少し任せたよ!」

「ワジ!? 無茶はするなよ!」

 

言うが早いか、ワジさんは無人機械兵器の弾幕を流麗なステップで掻い潜り、一直線に僕の元へと突っ込んできた。

 

(来るか……!)

 

仮面の裏で、僕の口の端は勝手に吊り上がり、好戦的な笑みの形を作っていた。

 

僕は腰に提げていたスモーク弾のピンを弾き飛ばし、

そのまま足元の地面へと落として後方へ飛び退く。

 

パンッ!と甲高い破裂音と共に、一瞬にして僕がいた位置に濃密な煙幕が立ち上がった。

 

視界を奪われたはずの煙の中。

そこへ突っ込んでくるワジさんの頭部を正確に狙い、僕は死角から強烈な蹴り込みを放つ。

 

――ガシィッ!

 

だが、煙の中にありながら、僕の蹴りは彼の交差させた両腕によってがっしりと受け止められていた。

 

「……なんとなく、そう来るんじゃないかと思ったよ」

 

涼しい顔で呟くワジさん。

彼はそのまま煙を突き破って僕の懐へと距離を詰め、

流れるような動作で嵐のような拳打を放ってきた。

 

(嘘でしょ……!)

 

僕は仮面の裏で信じられないといった表情を浮かべながら、なんとかその高速の連撃を捌いていく。

 

この距離では長物は邪魔になる。

僕は右手のサブマシンガンを地面に放り投げ、自らも拳を握り込んで、ワジさんの動きに合わせたゼロ距離での体術の応酬に応じた。

 

パパパパンッ!と、互いの拳と腕が目にも留まらぬ速さで交錯し、打撃音が響く。

なんとかその猛攻を凌ぎきり、一瞬の隙を突いて左手の導力銃で威嚇の射撃を放つと、ワジさんも無理はせず後方へと飛び退いた。

 

「なるほどね」

 

着地と同時に、ワジさんがどこか納得したような、

それでいて底知れない笑みを浮かべて呟いた。

 

「僕らの動きを知り尽くしているのもそうだけど……そもそも、君の動きの『基本』が、僕らなのか」

 

「――ッ」

 

仮面の向こうで、ドッと嫌な冷や汗が噴き出した。

 

確かに、僕の体術は、彼が特務支援課にいた頃、

他の人たちの教えを受けてた際に気まぐれに彼が基礎を仕込んでくれたものがベースになっている。

 

とはいえ、ほんの数合のやり取りで、そこまで的確に看破されるなんて予想もしていなかった。

やはり、この人たちは鋭すぎる。

 

(これ以上、ペースを握らせるわけにはいかない……!)

 

僕は軽く深呼吸をして乱れた息を整えると、左手の戦術オーブメントを強く叩いた。

魔煌機兵の自律AIに割り込み、直接コマンドを叩き込む。

 

「――薙ぎ払え!」

 

僕の指示を受け、魔煌機兵が巨大な機体を駆動させ、手にした大剣で大きく円を描くように薙ぎ払った。

アガットさんとティータさんだけでなく、ワジさんやロイドさんをも巻き込む、広範囲の大質量攻撃。

 

「くっ……!」

「っとと!」

 

特務支援課の全員が咄嗟に防御態勢を取り、その凄まじい衝撃によって大きく後方へと押し流される。

再び、僕と彼らとの間に十数メートルの距離が開いた。

僕は仕切り直しのつもりで、先ほど地面に放り投げていたサブマシンガンを拾い上げ、再び両手の銃を構えて彼らを見据えた。

 

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