なんてことのない気候だった。暑くもなければ寒くもない、朝の時間帯を少し過ぎてお昼にしてはまだ早すぎる時間帯、ことヘスティア・ファミリアのホーム『竈火の館』はキラキラと輝いていた。それはそうだ、さっきまで関係者一同が汗水垂らして謎のハイテンション状態で掃除をしていたのだから
「バケツはどこだぁーー!!雑巾絞る用のバケツはぁーーー!!」
「西から東は完了完璧!後は南です早くーーー!!」
「おい何も天井まで掃除しなくても」
「今さらですヴェルフ殿!もう止められません!」
「身、身を!掃除が終わったらすぐに身を清めなくては!」
「何故身を清める何を考えている春姫ーーー!」
「そういいながらリューさんもお風呂セット用意してるじゃないですか!」
「ごめんなさい恥を承知で言うけど私も入らせてーー!」
「エイナ、、、、」
「リ、リヴェリア!?どうして泣きそうな顔してるの!?」
「高貴なお方を間接的に泣かせてぇぇぇ!あのバカむ、、、、スコォ」
「ティオナ!何その大荷物!!?」
「ん?未来のアルゴノゥトくんとリコへのお土産だけど」
「なんで他派閥のホームを掃除してんだ俺等はぁ!!?てかなんでフレイヤの連中までここにいんだ!!」
「みなさーーーん頑張ってーーーなんだかんだ気になってここに来たツンデレ狼さんに負けないでーーー!」
「はーーい♡頑張りま~~す♡」
「ヘイズ!手を動かしなさい!」
「ヘディン!俺のマントに糸くずとか付いてないよなぁ!?」
「勝手にくたばれ」
「「「「あの勇者はどこだよ掃除しろや!」」」」
「、、、、」(黙々と高い所を拭いているオッタル)
「すごいぞ主神!あのロキ・ファミリアとフレイヤ・ファミリアが雑でも協力できておる!」
「オラリオの悲願がこんなくだらないことで、、、、」
その後、なぜか身を清めようとした女たちが女湯に殺到して一部が破損して命がブチ切れる事件があったが残酷なレベル差であっさり鎮圧された。
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ホームの玄関前で『話し合い』のメンバーが横並びで待っていた
ヘスティア・ロキ・ヘファイストス
フィン・リヴェリア・ガレス
リリルカ
シル・ヘディン・ヘグニ
そして残りのメンバーは竈火の館の部屋という部屋に待機している。その一部屋一部屋に眼晶(オルクス)を設置した状態で
そしてこれはあとから決まったことだが、この話がウラノスの耳に入り、ウラノスのそばにも眼晶が設置され、フェルズが直接確認するために、ヘスティア・ファミリアメンバーが待機している部屋に訪れていた
【悪いないきなり、しかしこんな重大事案を無視することはできない】
「だろうな」
ヴェルフが部屋の窓から『彼ら』が来るのを待ちながら、フェルズの声に答えた。正直ヴェルフも直接話したかった、色々聞きたいこともあった。しかし順番を譲って後からゆっくり聞くことを選んだのだ。なんせ事が事なのだから
ちなみにヘルメス・ファミリアも本当は来るはずだったが、子供達がヘルメスに対して尋常じゃない殺意を持っていることを知っていたので見送りとなった。来たのは事情を知るアイシャと昨夜解放されたアスフィの2人だけ
眼晶(オルクス)はロキ・ファミリアにも設置されたが、未来のベルを一目見たいとレフィーヤ達が竈火の館に襲来、フレイヤ・ファミリアは敵意を向けたが、なんか知らんけどただならぬ雰囲気のレフィーヤに近づくのを躊躇した
そして
「来たぞ」
「「「!」」」
ホームの玄関の扉が開けられた。コツコツと歩いてくる一団は、全員が血の繋がった家族であり、オラリオの未来とも呼ぶべき人材たち、父親が先頭に立ちその後ろを子供達が続いていく。
全員の格好が変わっていた。この世界に来た『狼血』のメンバーが情報収集の合間に作った『お揃いの手作りコスチューム』常日頃から父親のグッズを制作・創作・布教・販売する彼らからすれば赤子の手をひねるより簡単だったと胸を張って豪語するだろう。
白い生地を中心にまるで制服のような軍服のような形、青の刺繍はヘスティアの青い紐と関連付けているようで、何処か既視感を感じる。格好に背丈の長さ以上の違いはないが、オルガは上着を着崩していたり、コントラスがネクタイをしていたりと個々の個性を感じるのは、着ている彼らの個性が強大すぎるから、そして先頭に立つ父親だけは、白い格好に加えて肩にフリューゲル作の金色のロングコートを袖を通さずにかけているロマン仕様をしていた。(ベルは最初『張り切りすぎ』と断ったが、子供達のぜひこれをと頭を下げられてお願いされたから断れなかった)見る人によっては『清廉なる騎士団』やら『王族の凱旋』に見える光景だった
その花道は花弁が待ってるわけではないのにまるで祝福の花が見えてしまうのではないかと思うくらい綺羅びやかに見えた。きっと彼ら彼女らの容姿が整っているのもあるだろうが、その幻覚の中心は間違いなく先頭を歩く父親の影響力によるもの。
凛々しく和やかな童顔で垂れ耳兎を彷彿とさせる髪型をしながらも身長が通常よりも高く感じるほどの貫禄が彼にはあった。
その瞳は自信に満ち溢れているように思えて、同一人物なのに、子供の彼とはとても違って見えた。優柔不断とは対極の空気を醸し出しながら、彼は道を歩いていく。
後ろの子供たちは何処かワクワクしたような顔をしていた。それは目の前の父の背中がかっこいいからなのか、これからのことについての話し合いが楽しみだからか、その両方か
それが未来のベル・クラネルだった
その彼を始めてみた者は様々な反応を示した。単純に驚いたもの、解釈が不一致のもの、大きくなったなと感嘆にふけるもの、憎らしい目で舌打ちするもの
ホームにいる全員が部屋の窓からその姿を目撃した。一旦距離を置かないとすぐに未来のベルは囲まれて話し合いどころではなくなるからだ。
ベルたちがホームの扉の前に、つまりヘスティアたちの目の前にたどり着いた
そして
「すいません、誰か今の僕を部屋に寝かせてもらえませんか?」
グルグル巻にして運ばれていた本来の眠っているベルを他のものに託して(『狼血』のメンバーは【あぁ】と残念そうに腕を伸ばしていた)ベルは自分の胸に手を当てて、先ずは自己の紹介から始めた
「未来の世界から来た、ベル・クラネルです。どうぞよろしく」
「ベルくぅーーーーーーーん!!!」
トパパァァァァァン!!
それは大粒の涙、ヘスティアはこの時点で感極まった。自分の愛する眷属が貫禄があって更に雰囲気は可愛いままのベルがヘスティアの心と涙腺を刺激して滝のような涙を流している
「こんなにぃ!こんなに立派になって!」
「神様とは一度会ってるでしょ?」
「だからってあの時は衝撃で脳内がぐちゃぐちゃだったからぁ!!」
「あはは」
ヘスティアが号泣しながら、ベルの胸に飛び込んで服をつかみガックンガックンと身体を揺らす、ベルは服が濡れることも気にせず好きにやらせていた。
「「「「「「おはようございます!!帝王(カイザー)!!!」」」」」」
ビシィ!と音がするように子供達16人が一斉にヘディンに向かって90度ピッタリに頭を下げた。ヘディンは新しい子供達も同じなのかと辟易した
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「ほんじゃ、話し合いを始めるでぇ〜」
「ベルくんベルくん!呼んでみてくれ『ティア』って!」
「だめです」
「なんでぇぇー!!」
「おいそろそろ落ち着けドチビ!」
応接室に通され、全員が用意されたピカピカの椅子に座る。みんなが何故こんなに椅子が綺麗なのか首を傾げていた
そして主に四人が前に出てヘスティア達の前に座った。父親のベル、長兄のアコーディオ、参謀のシュバル、そして『狼血』のコントラス、これがこのメンバーの『会議上手い勢』の人選、残りはその後ろに座っていた。
「そっちの『翡翠の目』をしたヒューマンは初めてやんなぁ!名前は!?」
ロキがまるで眼晶の向こうにいる受付嬢に聞こえるように大きな声でその答えを待った。絶対勘づいている
「始めまして、別世界のロキ様、私はコントラス・クラネル、ほかの兄弟のように冒険者ではありません」
メガネをかけてネクタイをしている品のある青年は
「エイナ・チュールが産んだ最初の子供です」
「がはぁ!!」
「お姉ちゃーーーーん!!」
「エイナさーーーーん!!」
もう死んだ
なんとなくこうなるであろうとは予想していたが、眼晶の奥にいるエイナは口から血を吐いた後、気合で起き上がった
「なら俺も、知ってると思う奴もいるだろうが、レフィーヤ・ウィリディスの最初の子供そして長兄のアコーディオだ」
「うぐぐ!!」
(長兄?)
(長兄?)
(長兄って言った?)
(長兄ってことはつまり、、、)
(誰よりも早く生まれたということ)
(つまり千の妖精が?)
(貴女ですか〜)
細かいことを知らなかったメンバーがその事実に驚く、これからどんなびっくりとんでも発言がぶち撒けられるかわからない、ひたすらに心臓に悪い
「なら私からいいか?」
リヴェリアが挙手をして立ち上がり、ベルの目の前に近づいた。
そして
「この度はアイズを貰ってくれて誠に感謝する」
頭を下げて礼を言った。エルフ辺りが止めようとしたが、さすがにこの状況で水を差すのは野暮なのでその場に留まった
「いえ、こちらこそ、アイズさんに選んでもらえて光栄ですよ」
「、、、アイズだけではないのは、、正直不満だが」
「はい」
本来、アイズだけを選んで欲しかったのだろう、しかしそれはアイズが産んだ二人以外の子供達を否定する発言に他ならない、ゆえに直接言葉にはしなかった。しかしリヴェリアの気持ちは至極真っ当なもの、アイズが蔑ろにされていないか、丁寧に扱われているか、なんてことのない無償の愛による親心だった
「迷惑をかけることもありますが、全身全霊で大事にしていますよ。ほかの皆も」
「、、、、、そうか」
(((((((((んん)))))))))
眼晶の奥から身を捩るような声がそろえて聞こえていた。遠回しに自分が大事にされていると言われた女たちの歓喜の一欠片だった
「すまないあと一つだけ個人的なことを、、、アイズの息子だな」
「ん?僕?」
リヴェリアが視線を合わせたのは、新しく来た子供の一人でありアイズの長男アニカ、リヴェリアはどうしても話をしておきたかった。何故なら彼の纏う雰囲気は今のアイズにそっくりで、アイズのように無茶をしていないか心配だったのだ。背が高く鍛えられた肉体派のガタイもその理由でもあるのだろう。
「無茶な訓練はしていないか?食事はちゃんととっているか?スキルや魔法による最低限の勉学は先達から教わっているか?」
アイズはとにかく暴走した。強くなるためにただひたすらに、身体が剣になるのではないかと思われるほどに、眼晶を通して見ていたアイズはリヴェリアの言葉による羞恥に襲われ同時に自分の息子であるアニカがそうなっているのではと今初めて思った。
「ウ~ン、無茶は、、まぁそこそこでしてる、、かな、、ご飯は取ってるよ、オッタル先輩がたくさん食べて身体が大きくなったって聞いたから同じくらい食べてる、食べるの好きだから、勉強は、、、帝王(カイザー)に教わってる。、、、、頭はあんまり良くないからよく叱られる」
「それで、頭を使うのが他の兄弟任せになるのがそいつの短所だな」
「集中力はあるんですよ〜一日食事とるのを忘れてパパのウェディングドレスドールの綿詰めをしてたこともあったし」
「メロ兄さん!アスタ!」
「そうか」
話を聞く限りアイズほどの無茶はしていないらしい。リヴェリアは安堵して椅子に戻った。なんかウェディングなんたらとよくわからない単語が出てきたが無視した
「なら僕からもいいかな」
「ヘスティア、そろそろ会議を」
「碌な質問やないやろ絶対」
ヘスティアが挙手してヘファイストスとロキが個人的な質問は後でと言おうとしたが
「いや、ホントに大事なことだ」
ヘスティアは真剣な目をしていた。それもまるで剣を抜いて敵軍に突撃する兵士のような目つきで圧を放つほどに、そしてその圧が眼晶越しでも伝わるほどに
他のものが口を閉ざした
眼晶越しの者たちも無音になる
子供達は何だ?と目を細くする
ベルだけが『予想』していた
「ふぅ~、、、まぁ、、、この際、複数の女性と伴侶になったことは仕方ない、、、そんなに可愛くてベルくんに似ている子供達が産まれてくれたなら間違いなく最高の未来だろうね、、、でもね、、、これだけはどうしても今聴いておきたいんだ、先に聞いておきたいんだ、この可能性を頭に浮かんだ時からずっと」
そしてヘスティアは俯いていた視線をベルに合わせた
「ベルくん、子供達の前でこんな質問するのはあまりにも礼儀知らずで不純で下衆で頭が悪いと思う、、、けど、だとしても!これだけは!これだけは!確認しておきたいんだ!!」
ヘスティアが椅子から立ち上がりそして
君は食われたのか!?
静寂、かつてないほどの静寂、何をやっているんだ何を言っているんだと誰もが思った
けどヘスティアの言おうとしていることもわかる。なんせあの貞操観念人類最強のベルがハーレムを築いているのだから
正直、その可能性は高いと考えていたのはヘスティアだけではない、むしろ考えていたもののほうが多い
だって世界一わかりやすい『立ち位置餌確定』なベルなのだから
「違います」
「「「「「!」」」」」
その質問にベルは即答した
一部が深い息を吐き、良かったと表情に出す。一部がそうなのかと意外そうな顔をする。一部が『また失敗』したのかとため息をつく
「ん?」
たがその答えにハテナを浮かべる者がいた
「どうかしましたか、アイシャ様?」
「いや、食われてないってことは、、、」
その時
「むしろ逆なんです」
「え?」
「「「「「「「「「え?」」」」」」」」」
ベルは一切表情を変えることなくその言葉を口にした
娶った人たちは全員、同意を得た後に
僕の方から押し倒しました
!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!
それを聞いていた全員が超超超巨大爆発(ジャッジメントビッグバン)に巻き込まれる幻覚を見るほどの衝撃を受けた
「「「「「「「「「なに!?」」」」」」」」」
「「「「「「「「馬鹿な!?」」」」」」」」
「「「「「「「「ごがはぁ!!」」」」」」」
あるものは信じられないものを見る目で眼晶を見た
ある者はベルの言葉と自分の耳を疑った
ある女たちは予測範囲外の答えに石化した
ある女たちは喜怒哀楽が溶結して死んだ
ヘスティアが石化してヘディンが目を点にしてフィンが椅子からずり落ちそうになりロキがソファーごとひっくり返った
「たくさんの女性を娶ることはその人達の人生を背負って背負われるということ、だから僕の生き方についてきてくれる人たちに対する誠意、、というのは大袈裟ですね、、、でもそこだけは命がけでこだわりました。」
ベルの方から押し倒してくれた未来に女たちは心臓の鼓動が収まらない。腰砕けになり立つことすらままならない
「男ですから」
その時のベルの顔は、あまりにも堂々としていて、あまりにも大きくて、あまりにも後光が眩しかった
ベルは『少年』から『英雄』になったのだから
か か か かぁ
きゃきゃきゃきゃっこいい!!!
くぁくぁくぁくぁ
話を聞いていた男性陣が心を一つにした
女たちは両手で顔を覆った
ベルと近しく友達であるヴェルフとヘグニの目から大粒の涙があふれた
「「でっかくなってぇ(号泣)!!!」」
ヴェルフの号泣にドン引きしたフェルズは過去の自分の言葉を振り返った
英雄色を好む、愚者は色を拒めず
でも、今は、、、、