皆は温泉が好きか?
私は大好きだ!。
温泉はいいぞ。何か色んな効能があるって部長が言ってた。私は何も覚えてないが、最寄りの温泉に寄ってくれれば、効能を書いた紙が置いてあるから是非チェックしてくれ。
私たち温泉開発部はその名の通り温泉を開発する部だ。街のあちこちに温泉が湧き出るポイントがあると部長が言っていたので。その指示通りに爆破し、温泉が出れば開発し、出なければ逃げる。そんな部だ。
まぁそのお陰でゲヘナでは指名手配されてるんだけどな!そんなことで我々の温泉への情熱を止めることなどできないのだ。
「あそこから温泉が出るぞ!作業始めー!」
「「「温泉のためにィィィ!!」」」
部長の号令一つでわらわらとそこかしらから部員が集まり、掘削が始まる。ここはゲヘナである。何処を爆破しても温泉は出るのだ。
それが、教室であろうとも!熱い湯気が一気に吹き上がった。
教室が真っ白になる。
湯が出たのだ。
「諸君!これより温泉開発を開始する!!」
湧き続けるお湯を見ながら、部長の素晴らしい掛け声が元教室から響く。その声が響くや否や我々は道具を手に手に温泉開発を開始する。
ああ。素晴らしきかなゲヘナよ。
「おい、やめろ! これ以上掘るな!」
我々が掘削を始めると、何処から聞いたのか風紀委員が大挙してやってきた。
私は首をかしげた。
なぜ止めるのだろう。温泉はいいものなのに。
「疲れてるの?」
「違う! 床が抜けるだろ!」
「抜けたら温泉が増えるよ?」
「そういう問題じゃねぇ!」
よく分からない。
温泉が増えるのは良いことなのに。
私は丁寧に説明することにした。
説明すれば、きっと分かってくれる。温泉は良いものだから。
「大丈夫。ここは湧きます。」
「何で!?その自信どっから来るの!?」
「部長が言ってた」
「根拠になってねぇ!!」
おかしい。部長の言葉は絶対なのに。
私はさらに説明を続けた。
「温泉は体にいいんだ。効能がいっぱいある。紙に書いてある」
「その紙どこから持ってきたんだよ!」
「最寄りの温泉。入口に置いてあった」
「それただの観光パンフだろ!!」
風紀委員の人は頭を抱えていた。
でも、まだ説明は終わっていない。
「それに、床が抜けても大丈夫。抜けたら温泉が増えるから」
「増えたら困るんだよ!!」
「なんで?」
「なんでって……教室だぞここ!!」
「教室に温泉があると便利だよ?」
「便利じゃねぇよ!!」
私は本気で不思議だった。
温泉があると便利なのに、どうして分からないのだろう。
仲間が横から口を挟んだ。
「足湯なら授業中でも入れるよ?」
「入らねぇよ!!」
「じゃあ、肩まで浸かる?」
「もっと入らねぇよ!!」
説明すればするほど、相手の顔色が悪くなっていく。
温泉の良さを説明しているだけなのに。
そのとき、部長の声が廊下から響いた。
『掘っていいぞー!』
私は安心した。
部長が許可したなら、もう説明はいらない。
「じゃ、掘りますね!」
「やめろォォォ!!」
ツルハシを振り上げ、穴を広げようとした私に銃弾が刺さる。
とても痛い。
「何で邪魔するんですか?温泉はとてもいいのに」
「くっそ相変わらず、全然会話にならない!」
頭を掻きむしって絶叫している風紀委員の人。可哀そうに温泉が足らないんだ。
もっと掘ってあげねば。
「あ、こら待て!」
「まぁまぁ待ちたまえ」
部長が風紀委員の人をいつもの顔で止めている。今の内に温泉開発だ。
部長が説明をして止め、我々が開発する。いつものパターンだな。
素晴らしき温泉開発。
「あーもう!お前らあいつらを止めろ!これ以上校舎を爆破されてたまるか!!」
しばらく温泉を広げていたら、今日は珍しく風紀委員の人が部長の声を無視してキレたようで我々に突撃してくる。
「ハーッハッハッハッ!。全員撤収!」
部長の声が響き、今回の開発は中止である。残念だ。折角、いいお湯が出たのに。
「部長。今回は残念だったね」
「うむ。全くだ」
部長と副部長が何かを話ているが、それより次の温泉開発のための準備である。爆薬を多めに仕入れなければいけない。
部長が図面を広げて何やら考え込んでいる。次は何処を爆破するつもりか。今から楽しみだ。
「よし、決まりだ。諸君、準備を始めたまえ!」
部長の声が響く。
今日もまた、温泉が増える。
「諸君、今日の地層は固い! だが固い地層ほど良い温泉が眠っている!」
今日も今日とて温泉開発である。部長が図面を持って部員たちに指示を出している。私もせっせと爆薬を仕掛けに走り回っている。
爆薬を仕掛け終えた私達は、いつものように距離を取った。
砂利を踏む音すら、爆発前の静けさを邪魔しないように小さくなる。
「諸君、準備はいいか!」
カスミ部長の声が響く。
その声だけで、空気が一段階熱くなる。
「3──」
息を呑む。
「2──」
誰かの手が震えている。怖いのではなく、興奮だ。
「1──!」
轟音が世界をひっくり返した。
地面が跳ね、熱風が頬を叩き、砂煙が空へ舞い上がる。
耳がキーンと鳴るのに、なぜか心地いい。
そして、湯気が立ちのぼった。
「……出た!」
「温泉だぁぁぁぁ!!」
「部長、今日も当たりです!!」
誰かが叫び、誰かが跳ね、誰かが泣きそうになっている。
私はただ、湯気の匂いを吸い込んだ。
爆薬の残り香と混ざった硫黄の匂いが、胸の奥をじんわり温める。
部長は湯気の向こうで高笑いする。
「ハーッハッハッハッ! 見たか諸君! ゲヘナの大地は今日も我らに恵みを与えてくれた!」
湯気の向こうで、メグ先輩がしゃがみ込み、湯をすくう。
その動きだけが、爆破の世界とは別の時間で流れているようだった。
「いい湯ですね、部長」
その声は、爆破の喧騒をすべて洗い流すように静かだった。
部長が満足そうに頷く。
その瞬間、私の胸の奥にふっと温かいものが灯る。
ああ、この静けさのために爆破してるんだ。
湯気の匂いと、メグ先輩の声と、部長の笑い声。
全部が混ざって、今日の“温泉開発”が完成する。
風紀委員が怒鳴り込んでくるのは、このあとだ。
でも、この一瞬だけは、誰にも邪魔できない。
割としっとり系なんすね部長