東方春秋濫 〜 storm of fleeting.   作:おーたまー

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FINALSTAGE 刻まれたる原風景

 乾いた空に、一滴の雫が落ちた。

 それは雨と呼ぶにはあまりにも重く、袖に触れた瞬間、霊夢は温度ではなく、空気の層が一枚増えたような鈍い重みを感じる。

 

「……雨?」

 

 見上げた空に雲はない。

 それでも、頭上の空間はどこか歪み、無数の点へ分解されていくようにざわめいていた。

 

 やがて、静かに落ち始める。細い雨だった。音もなく、ただ淡々と降る。だが、その静けさの中に不自然な圧があった。

 

 霊夢は直感する。

 これは、ただの雨ではない。

 

「……まさか」

 

 一粒が裂ける。乾いた破裂音。

 割れた粒から極小の黒い礫が跳ね、さらに次の粒も、また次も同じように弾ける。

 やがて、機は熟したと言わんばかりに秋はゆっくりと手を上げる。

 

「──秋幕『秋雨』」

 

 勢いが増し、曇天は濃く、気候は雷雨へと変化する。

 降下するすべてが弾幕となり、触れれば分裂し、避けても別の粒が軌道を塞ぐ。

 空間そのものが粒で満ちていく。

 

「ちっ……!」

 

 霊夢は高度を取ろうとして、すぐに異変を悟る。

 

 体が重い。

 いや、空気が重い。

 

 雨粒に触れた場所から、見えない重力が絡みつく。袖も髪も足先も、接触した箇所がゆっくり沈み込むように引き留められる。

 

 空を飛んでいるはずなのに、泥水の中を進んでいるようだった。

 

「こりゃ驚いたわ」

 

 吐き捨てるようにつぶやく。

 霊力を込めても空間が滑らない。浮けるが速度が出ない。

 その間にも雨は増え続ける。

 

 頬を掠めた粒が裂け、黒弾が肌を打つ。無視しきれぬ程度の鈍い痛覚が視界を歪ませていく。

 

「──穣符『エンドレスハーヴェスト』」

 

 橙の弾が空に並ぶ。

 それらは落ちず、雨粒の隙間に浮かび、熟した果実のように静かに揺れていた。

 

 やがて、重さに耐えきれずに裂ける。中から現れた粒光が雨に触れ、さらに弾け、さらに増える。

 収穫された実が種を零し、弾幕が増殖。空間の密度が、段階を踏んで詰まっていく。

 

「スペルカードは一回ずつでしょ、非常識妖怪!」

 

 霊夢は札を散らし結界を張る。

 だがその表面で雨粒が弾け、弾幕が生まれ、内側へ押し返される。

 安全地帯が存在しない。

 

「……くそっ!」

 

 距離を詰めるしかない。霊夢は強引に前へ出る。速度は出ない。それでも押し切る。

 弾幕が肩を掠め、足に当たり、袖が裂ける。痛みより先に重さが増し、飛行がさらに鈍る。

 それでも進む。

 秋の目前へ辿り着きかけた瞬間。

 秋が静かに手を返した。

 

「──帰郷『落葉帰根』」

 

 その言葉と同時に、周囲の紅葉が反転する。

 舞っていた葉がすべて軌道を変え、地面ではなく秋へと戻り始める。

 戻る途中で葉は弾へ変わり、弧を描いて霊夢の背後へ回り込む。

 

 前だけではない。後ろからも、下からも、弾が帰ってくる。

 山に落ちるはずの葉が、戦場へ還流する。

 退路が閉じる。霊夢の瞳が鋭く細まる。

 だが。

 

(今しかないわねッ!)

 

 雨の配置。弾幕の循環。葉の帰還軌道。ほんの一瞬だけ、中心が空く。

 その刹那、霊夢は印を結ぶ。

 

「霊符『夢想封印』!!」

 

 陰陽玉が展開し、光弾が放たれる。

 雨を貫き、葉弾を裂き、一直線に秋へ収束する。

 必中の霊撃。

 

 空間が閃光に染まる。

 そして。

 

 ──命中した。

 確かに当たった。

 だが秋は揺らがなかった。

 

 光は彼女の輪郭で溶け、霧に撃ち込んだように消える。

 

「……レギュレーション違反だわ」

 

 霊夢の声が低くなる。秋は静かに答える。

 

「この山に蓄えられた秋が尽きない限り──」

 

 雨粒が増え、空が完全に埋まる。

 

「私を倒すことは出来ない」

 

 霊夢の足に、肩に、背に雨粒が滲む。飛行がほぼ止まり、浮くだけで精一杯になる。

 視界のすべてが雨と弾幕。

 逃げ場はない。

 

「“満身創痍”にしてあげるわ、博麗の巫女」

 

 手を下ろした瞬間、雨が同時に弾け、眩い閃光が瞳を照らす。

 瞬間、霊夢は歯を食いしばり、理解した。季節そのものと戦うということがどういうことなのか。

 

(こうなったらあいつが頼みか……)

 

 霊夢は息を吐く。

 肺の奥に溜まっていた重たい空気を、無理やり押し出すように。

 視界は白く霞み、耳鳴りがする。霊力も、体力も、限界に近い。だが、思考だけは冴えていた。

 

(楽園の素敵な巫女ともあろうものが、最後は人任せなんて……サイアクだわ、ほんと)

 

 霊夢は懐へ手を入れ、一枚の札を引き抜いた。古びた紙。だがそこに宿る力は、単なる弾幕用の札とは比べものにならない。

 深く息を吸い、静かに言う。

 

「夢符──」

 

 霊夢は両手で札を挟み、垂直に掲げる。

 指先が、ゆっくりと印を結ぶ。

 

「封魔陣」

 

 その一言で空気が凪いだ。

 札が燃えずに光り、文字が浮き上がる。朱の線が宙に走り、霊夢を中心に巨大な幾何紋様が展開する。直線と円、結界の理を示す古式の陣。

 

 降っていた雨が静止。 粒が空中に固定される。弾ける寸前の黒い礫も、増殖途中の光弾も、帰還途中の葉弾も──すべてが陣の境界に触れた瞬間、力を失い、ただの塵のように霧散した。

 

 音という音が消失する。

 雷鳴も、風の唸りも、弾幕の破裂音もない。

 ただ、乾いた山の空気だけが残っている。

 

「もしかしてまだやる気なの?」

「たり前でしょ。作戦練ろうと思って」

 

 霊夢はゆっくりと手を下ろす。 陣はまだ展開したまま、薄く光り続けている。

 封魔陣は永続しない。 山全体に満ちた“秋”を完全に封じるほどの力はない。すでに陣の外では再び空気がざわめき始めている。止めたはずの季節が、圧をかけて押し返してくる。

 

(長くて数十秒……ってとこか)

 

 霊夢は両手を広げ、今度は防御の印を結ぶ。

 彼女の周囲に、半透明の球状結界が生まれる。陰陽の紋が淡く回転し、霊夢を包み込む。

 外側の空間が、再び軋み始める。

 止まっていた雨粒が震え、封じられていた葉が色を取り戻し、弾幕の兆しが、空のあちこちで灯り始める。

 封魔陣が軋む。光の線がひび割れ、砂のように崩れていく。

 

「案外往生際悪いのね」

「は。大人しくやられるタイプだと思ってた?」

 

 これに秋は何も言わず嘲るように目を細めて笑う。霊夢はこめかみを筋張らせ、無理やり口角を吊り上げることしか出来なかった。

 

 

 ───

 

 

 冥界に広がる弾幕は、既にぎっちりと折り重なっていた。

 桃、淡緑、白、水色の残光。

 弾は流れず、落ちず、ただそこに在り続け、空間の層そのものを増やしていく。

 

「隙間隙間……全然ねえな。密です密です、ってか」

 

 魔理沙は箒を半回転させ、花弾の縁を滑る。

 さっきまであったスペースが、瞬く間に消え失せる。

 削れば埋まり、抜ければ閉じる。まるで空間が自動修復しているように。

 

「ま、弾幕ってのはこういうもんだわな」

 

 帽子を押し上げ、星弾を散らす。散った星が、ほんの一瞬だけ弾幕に呼吸を作る。

 その一瞬に、突っ込んだ。

 花弾の層を横切り、斜めに潜り、急上昇。

 身体をひねり、膝を畳み、弾の縁をすり抜ける。

 

 視界が開ける。

 扇子を閉じて、死人が笑う。

 

「やっと来たわね、魔女の宅急便が」

「早速ハンコ押してもらおうか」

 

 魔理沙は箒を立て、八卦炉を突き出す。

 光が、収束する。

 

恋符(マスター)──」

 

 弾幕の圧力を押し返すように、空気が震える。

 白光が迸る。

 

 花弾の層を貫き、冥界の空を一直線に裂く光柱。

 逃げ場はない、そう思えるほどの近距離。

 

 だが。

 

「惜しいわ」

 

 幽々子は、ほんの僅かだけ体をずらした。衣の端を光が焼き、次の瞬間にはもう光の外へ滑っている。

 舞うように軌道を流し、残光の背後へ回る。

 光が消える頃には、彼女はもう弾幕の外側にいた。

 

「妖夢のようにゃいかないか」

 

 魔理沙は舌打ちし、箒を蹴る。

 その瞬間、視界の縁でもう一人の少女が殺気を放つ。気付いた時には、空気に無数の粒が生じていた。

 

「麗光『うららけし』」

 

 呟く少女の掌から零れた、小さな弾。

 ほとんど塵にも近しい仄かな光。

 そのうちのひとつが魔理沙の胸の前でぴたりと止まり──

 

 瞬間、弾が、膨張した。

 

「!?」

 

 豆粒が、拳大へ。拳が、岩へ。距離に比例して膨れ上がり、逃げ場を押し潰す。

 魔理沙は急降下し、弾の外縁を滑る。だが弾は膨張し続け、背後の空間を埋めていく。

 

 そこへ幽々子が扇子を開いた。放射状の光弾が、均等に、静かに広がる。退路の線上へ、正確に。

 

「ミスったか」

 

 前は膨張弾。後ろは放射弾。横も、上も、閉じていく。

 魔理沙は一度、息を吐いて頷く。

 

「よし、使うか」

 

 帽子のつばを押さえ、呟く。

 

「魔符『スターダストレヴァリエ』」

 

 星が爆ぜる。無数の星弾が周囲へ散り、弾幕の輪郭を削る。膨張弾の膨れ方が乱れ、放射弾の間隔が揺らぐ。

 その隙間へ、間髪入れず八卦炉を突き出す。

 

「んで魔砲──ッ!」

 

 切り札である極大の光柱が、冥界の空を焼き払う。大気を震わし、その余波だけで周囲の弾幕を塵へと変えていく。

 だが。

 

 春の弾が収束し、幽々子の弾が外側から包む。二つの弾幕が組み合わさり、光の壁を作る。

 光柱が、砕けた。破片が花弁のように舞い、消える。

 魔理沙は少し驚いた顔で、煙を上げた八卦炉を見る。

 

「ボム切れ?」

 

 幽々子は悪戯っぽく笑って言う。魔理沙は指先で頭を掻きながら、軽く瞼を閉じる。

 

「残機減らして補充……いややめた」

 

 八卦炉を仕舞う魔理沙を見て、春色の少女が静かに訊ねる。

 

「もういいの?」

「……ま、火遊びする季節じゃないしな」

 

 そう言いつつ魔理沙は箒に寝そべり、真顔で少女を見る。

 

「目的は何だよ」

 

 空気を測る探り針のごとく、静かに場へ差し込まれる。

 問われる少女は振り向き、西行妖を見上げる。

 巨大な桜は風もないのに揺れていた。花弁が落ちるたび、冥界の空気がほんのわずかに温度を持つ。

 その身に宿した記憶が、擦れるように。

 

「春と秋で季節を固定するの」

「固定?」

「ええ。数百年かけて、四季を取り戻す」

 

 使命感というよりも、希うような儚い声音だった。これに魔理沙は眉をひそめる。

 

「なんだそりゃ」

「……忘れて欲しくないの」

 

 冥界の空が、ほんの一瞬だけ静止する。風も、弾も、花弁も。すべてが一拍遅れて動き出す。

 魔理沙は、ゆっくり目を細めて言った。

 

「誰にだよ」

 

 すぐには答えない。

 代わりに、視線が桜の幹をなぞる。そこに刻まれた無数の時間の層を指先で数えるように。

 そして少女は、幹に触れながら静かに頷いた。

 

「大昔、私達がご当地土着神だった頃。仲の良い人間がいた」

 

 振り向き、視線が交差する。微塵も揺らぐことのない、遥かな過去を見つめていた。

 

「その人が言ったの。“美しい四季が、この先も永遠に続きますように”って」

 

 聞いた魔理沙は顔を顰め、帽子をくるくる回しながら、ため息をつく。

 

「もっと高慢な動機だと思ってたが」

「……本当はそうあるべきなのかもしれないけど、元々私達は、その願いを叶える為にこういう存在になったの」

 

 冥界の光が淡く揺れる。西行妖の花弁が一枚、ゆっくりと二人の間に落ちる。

 地面に触れる前にそれを掬い上げ、魔理沙は語り始める。

 

「数百年も季節を固定しちまったら、人間は四季って概念自体忘れる」

 

 春色の少女が顔を上げる。

 

「祭りも、言葉も、習慣も消える。文化から一回消滅する」

 

 魔理沙は指先を捻り、その花弁を光の礫へと変える。

 

「お前が守ろうとしてる思い出も、その人間の願いも」

 

 少女の瞳が揺らぐ。

 

「何の痕跡も残らないな」

 

 ただ、淡々と現実を置いただけのその言葉で、少女の指が、桜の幹に触れたまま止まる。

 

 長い沈黙。

 その間、弾幕の密度が、わずかに緩む。

 冥界の空が、呼吸を思い出したように。

 

「……そうなのかな」

 

 か細く呟く。

 

「そう思ってくれると、こっちとしちゃ助かる」

 

 魔理沙は方眉を下げて口角を吊り上げる。幽々子はその様子を見て、弾幕を霞のように霧散させ、妖夢を抱き起こす。そのまま、何も言わず屋敷の方へと戻っていった。

 

「でも、それなら私は何のために存在しているの」

 

 残りの弾幕も西行妖に吸収され、無音の白玉楼に二人の少女だけが取り残された。

 魔理沙は意に介さず、心底面倒そうに肩をすくめる。

 

「知らんが……まあ、その人間のこと、覚えててやりゃいいんじゃねえの。ほっときゃいつか四季が戻るかもしれんし。ま、大事なのは別にそこじゃないだろってことだよ」

「……」

 

 少女は俯き、数秒ののち、振り向いて西行妖に触れた掌に力を込める。瞬間、冥界の光が一気に膨張する。

 眩い極光が冥界を淡い桃色で塗りつぶし、花弁が、光が、季節の粒子が、すべて渦を巻いて流れ出す。

 黄泉比良坂の向こうへと 、“春”が流星を描いていく──

 

 

 ───

 

 

 封魔陣の亀裂が、ついに限界を迎える。朱の線が一斉に白化し、乾いた音を立てて砕け散る。外で押しとどめていた“秋”が雪崩のように流れ込み、霊夢の結界を叩いた。

 半透明の球体が軋む。陰陽の紋が乱れ、回転が鈍る。

 

「……っ!」

 

 重圧が増す。空間が、重さそのものに変わる。雨はもはや粒ではない。層だ。季節の堆積が、霊夢一人を圧し潰そうとする。

 結界に亀裂が走る。細い線が、蜘蛛の巣のように広がる。

 

(いよいよやばいわ……!)

 

 秋が静かに手を掲げる。山に蓄えられた全ての色が、彼女の背後で渦を巻く。紅、橙、褐色。熟れた実の匂いすら感じられそうな濃密さで、空を埋め尽くす。

 

「秋に呑まれて死ぬなんて、最高でしょう?」

「ざけんじゃないわよッ!」

 

 その瞬間。

 ──風向きが、変わった。

 

 山の向こうから、凄まじい奔流が押し寄せる。冷たいはずの高地の空気が、急に柔らかくなる。芽吹きの匂い。淡い花粉のざらつき。見えない緑、桜の花びらが視界の端をかすめる。

 幻想郷じゅうに氾濫していた秋の色が、揺らいだ。

 

「これは!? うそっ、春、どうして!?」

 

 紅葉の層に、淡桃が混じる。橙の密度を、若葉の光が押し広げる。空の色が二分され、せめぎ合い、そして。

 

 ──弾けた。

 

 春の奔流が、秋の堆積を真正面から撃ち抜く。

 冥界から放たれた“春”が、山に溜め込まれた“秋”と衝突する。散り急ぐ葉が、逆に芽吹く。熟れた実が、若い蕾へと巻き戻る。季節と季節が相殺し、空間の密度が、一瞬だけ、均衡を失った。

 

 霊夢の結界を圧していた重さが、ふっと消える。

 ひび割れていた結界が、わずかに持ち直す。

 

「何やったか知らないけど、でかしたわ魔理沙」

 

 霊夢はにやりと笑い、秋は歯噛みする。山の蓄積は確かに莫大だ。だが今、外部から同格の“季節”が流れ込んでいる。均衡が崩れた以上、無尽蔵ではいられない。

 

 雨粒が弾けない。葉が帰らない。弾幕の循環が、止まる。

 霊夢はゆっくりと結界を解き、遥か上空に浮かぶ。

 さっきまで泥の中を飛んでいた身体が、嘘のように軽やかだった。

 

「季節ごときが、博麗マジック(主人公補正)にかなうわけないでしょ!」

 

 中指を立てながら瞳孔を開く。印も結ばない。呼吸も、霊力の収束もない。

 ただ、そこに在る己自身の能力。

 

「──無想天生」

 

 瞬間、霊夢の輪郭が曖昧になる。

 弾幕が通り抜ける。というよりむしろ、当たるという概念そのものが、そこから消えていた。

 

 紅葉の礫が彼女の身体を貫く。だが触れない。雨粒がすり抜ける。 全ての弾幕が、彼女を“対象”として認識できなくなる。

 存在しながら、干渉されない。

 

 霊夢は静かに歩くように空を進む。一歩。二歩。秋の目前まで。

 秋の瞳が揺れる。

 

「あり、えない……」

「ったく。調子乗ってんじゃないわよ、スカタン」

 

 霊夢は片手を伸ばす。その掌の先で、秋を象る全てがほどけ始める。相殺され、均衡を失った季節は、もはや単独では持続できない。

 紅葉が、くすんだ緑葉へ戻る。雨粒が、ただの水滴へ戻る。山に満ちていた秋の層が、薄まっていく。

 

「あんたらが季節を削ったせいで夏終わった瞬間にクソ寒いし、と思ったら境内は紅葉やイチョウで埋もれるし、山に入ったら蒸し暑いやら凍えるやらで」

 

 均衡を失った空間がびりびりと震える。春と秋がぶつかり合って生じた白い軋みの中で、彼女の声だけが鮮明に響きわたる。

 

「ほんとにいま何月だと──」

 

 秋が何か言いかける──が、目前の殺意の化身が叩き潰す。

 幻想郷において決して怒らせてはならない紅白の悪魔、霊夢の背後に無数の陰陽玉が浮かび上がる。最初は数個。次の瞬間には十。さらに増え、百。視界を埋めるほどの白と紅が、幾何学的な陣列を組んで空を覆う。

 そして……

 

思ってんのよ!!! バカタレ!!!

 

 嵐のような怒号と共に、七色に明滅する極大の竜巻が、山頂の全てを吹き飛ばすのだった。

 

─────────────────────────

 

 

エンディング 季節巡る季節

 

魔理沙 「無事に今回も異変解決。正常な九月が戻ってよかったな霊夢」

 

霊夢 「……そうね」

 

魔理沙 「霊夢、お前……」

 

霊夢 「いや、言いたいことは分かってるわ。でも、思うでしょ? 基本三十度超えてて、切ったら涼しいくらいじゃない。この九月、どこかおかs」

 

魔理沙 「霊夢。温暖化だ。神妙にしろ」

 

??? 「あの〜……」

 

霊夢 「あら。参拝かしら?」

 

四季折節 「いえ、その……その節はご迷惑を……あ、節というのは私のことじゃないんですけど……」

 

霊夢・魔理沙 「「ああ〜……」」

 

魔理沙 「とうとうなったな。そいつが完全体か」

 

霊夢 「覇気ないわね」

 

節 「元々戦うの得意じゃないんです〜」

 

霊夢 「説得力ないわよ」

 

節 「あれだけ季節の力を溜め込めば、誰だってあれくらい」

 

魔理沙 「溜め込めるってのがすごいんじゃないか?」

 

節 「そもそも私は季節を調整するだけで、季節そのものの神じゃないんです。季節なんてあらゆる生命の塊みたいなものですから。もしそんなのがいたら、ほぼ全知全能ですよ」

 

霊夢 「ふうん」

 

節 「妖怪の山と西行妖がすごいんですよ」

 

霊夢 「……あのさ、秋の在庫とかってないの?」

 

節 「え? いや……まあ掻き集めれば少しくらいは……」

 

魔理沙 「お前」

 

霊夢 「異変解決したんだからちょっとくらいいいでしょ」

 

魔理沙 「職権乱用、黒幕、紅白巫女」

 

霊夢 「なんとでも言いなさい。てなわけで、この辺だけいい感じに秋らしくしてくれない? 十月になるまででいいから」

 

節 「人間っていい加減だなあ〜」

 

 END

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