10日間の問い   作:三日月ノア

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9日目 機能停止する世界

 

 

 

 

 

――20XY年3月9日、東京/連邦首都/ニューヨーク

 

 月曜の朝は、世界のどこでもだいたい似た顔をしている。

 駅に向かう足が少しだけ速い。エレベーターの前で、誰もまだ他人に優しくない。コンビニのコーヒーマシンが一台止まるだけで列がゆがむ。そういう、小さい苛立ちの総和で週は始まる。

 その朝、その苛立ちがほとんど見当たらなかった。

 急いでも仕方がないと、全員がどこかで分かっていたからだ。

 

     *

 

 午前七時四十分、東京。

 

 東京証券取引所の建物の前には、報道陣がすでに集まり始めていた。月曜の朝にしては、人の動きが妙に遅い。カメラマンは三脚を立てている。記者は端末を見ている。警備員は立っている。みんな仕事をしているのに、始業前の空気がない。

 八時十二分。

 JPXの短い発表が各社に流れた。現物株式の取引は開始しない。再開時期は未定。秩序ある価格形成が困難であるため。必要な市場機能の維持を優先する。

 言葉は平板だった。

 平板な言葉ほど、テレビで強い。

 

 駅前の大型ビジョンにそのニュースが出た時、通勤の列が一瞬だけ止まった。

 立ち止まって見たのは投資家だけではない。NISAを始めたばかりの会社員も、親に勧められて投信を積み立てていた看護師も、資産運用なんて言葉に興味のなかった大学生も見た。

 市場が閉まる。

 それ自体の意味を正確に説明できる人は多くない。だが、普段は止まらないものが止まると、人はそれだけで嫌な想像をする。

 

 日本橋の小さな証券会社で、朝の点呼が中途半端な形で終わった。

 支店長はスーツの上着を脱がないまま、フロアを見渡す。

 

「顧客からの電話は取ってください。売買注文は受けない。相談だけ受ける。分からないことは分からないで統一します」

 

 若い営業が手を上げた。

「“分からない”って、そのまま言うんですか」

 

「そのまま言う」

 

「でも、それだと怒られます」

 

「今日は、怒られる方がましだ」

 

 支店長は言った。

「余計な確信を売るな。そういう日に見える」

 

 電話はすぐ鳴り始めた。

 退職金を運用している六十代の男性。会社の持ち株会に入っている三十代。子どもの学資の一部を投信に入れていた母親。質問は全部違うようで、だいたい同じだった。

 持っていて大丈夫ですか。

 売れないんですか。

 何が起きてるんですか。

 生活は大丈夫なんですか。

 営業たちはそれぞれの言葉で答えたが、会話の終わりは似ていった。現金が今日必要でなければ慌てないでください。決済は動いています。預金も保険もいきなり消えません。食料と薬をいつもより少しだけ多めに確保してください。明日のことは、また明日話しましょう。

 市場のプロがしている仕事というより、区役所の窓口に近かった。

 

     *

 

 午前八時五分、練馬区。

 

 開店前のスーパーに列ができていた。

 暴動ではない。押し合いもない。年寄りが前にいる。子ども連れもいる。自転車を押した人もいる。みんな、いつもより十分だけ早く来た。十分が積み重なると列になる。

 青果担当の宮下は、搬入口で納品の台車を数えながら顔をしかめた。

 牛乳が少ない。卵も少ない。水は予定の七割。レトルト食品はある。米はある。パンは読めない。物流センターが混乱しているわけではなかった。ただ、昨日の売れ方がおかしいせいで、普段の割り付けが全部ずれている。

 

「店長、ミネラルウォーター、二箱制限でいいですか」

 

「一箱で」

 店長は即答した。

「米も一袋。紙おむつも一つ。揉めたら俺を呼んで」

 

「また今日も動画撮られますよ」

 

「撮らせとけ」

 

 自動ドアの向こうで、客が店内をのぞいている。

 九時ちょうどに開ける。いつもなら、それで終わりだ。今日はそこからが長い。

 開店した瞬間、人が早足になった。走りはしない。そこにまだ恥が残っている。ただ、カートを押す手がみんな少し硬い。ペットボトルの棚で腕が交差する。棚前で立ち止まって成分表示を読む人は、ほとんどいない。

 価値の崩壊だとか文明の序列だとか、そういう言葉を知らない人の方が多い。

 それでも水からなくなるのは、人類の賢さでもあり、貧しさでもあった。

 

 惣菜コーナーで、若い母親がスマホを耳に当てていた。

 

「だから、仕事休めないのは分かるって。ううん、責めてない。とりあえず水は買う。あとカセットボンベあったら買う。薬は昨日の分で足りる。……違う、パニックじゃないの。念のため」

 

 言いながら、彼女は豆腐もかごに入れた。

 豆腐は念のためではなく、今夜の味噌汁のためだろう。そういう混ざり方が、いちばん現実だった。

 

 レジ待ちの列で、前の老人が振り向いた。

 

「お嬢ちゃん、トイレットペーパーはあっちだよ」

 

「あ、ありがとうございます」

 

「前もこういうのあったからねえ」

 老人は言った。

「人は同じことする」

 

 コロナ禍の買い占めを言っているのだと分かった。母親は笑った。笑ったが、手はかごの取っ手から離れなかった。

 

     *

 

 午前八時三十分、首相官邸。

 

 鴨下真帆は、コピー用紙の束を抱えて廊下を小走りしていた。

 エレベーターを待つのが惜しくて階段を使い、二階で一度立ち止まる。息を整える時間はない。資料は新しいのが来るたび古くなる。三時間前の“候補”が、もう午前の空気に合っていない。

 文化庁のリストは一度差し戻した。経産省の“社会実装力パッケージ”も、言い方ごと直させている。外務省は礼式の表を作り始めていた。歓迎文の順番、座席、同時通訳の待機、国旗の配置。真帆はその案を見て、赤ペンで大きく線を引いた。国旗の高さを揃えるかどうかを考える相手ではない。

 だが、そういうことを考える人たちが必要なのも分かっていた。考えないと国家は国家のふりができない。

 

 執務室脇の会議室には、朝から同じ顔が揃っていた。

 城崎首相、官房長官、外相、財務相、経産相、文科相、内閣法制局長官、数人の実務者。昨日より人数は少ない。必要な人だけに絞った結果、逆に逃げ場がなくなっている。

 

「まず確認します」

 

 城崎が言った。

「日本単独で何かを提示する話ではありません。人類全体の問題です。ただ、だからといって何も用意しないのは論外です」

 

 外務省の局長が頷く。

「米側は引き続き、技術と制度の両方の提案を用意しているとのことです」

 

「両方ですか」

 

 城崎は資料から目を上げた。

 声は平らだったが、部屋の何人かはそれだけで背筋を伸ばした。

 

「技術リストが主です」

 局長は言った。

「それに加えて、人類文化の共有という項目も増やしたと」

 

「増やした」

 城崎は繰り返した。

「後から」

 

 誰も返事をしない。

 その沈黙で十分だった。

 

 真帆は手元の資料に目を落とした。昨夜遅く、ワシントンから回ってきた要旨には、エネルギー、材料、医療、推進、AI、食料生産、気候工学、長寿命化技術など、分類だけで十数項目が並んでいた。まとめた人間の努力は分かる。徹夜もしただろう。だが読む側に伝わるのは努力ではない。

 買い物リストだった。

 しかも、自分よりずっと強い相手の家に行く前の。

 

「官邸側の整理を出します」

 

 真帆の上司が合図した。

 彼女は資料を配り、前に出た。視線が集まる。慣れない。三日前まで、ここまで前に立つ仕事ではなかった。

 

「“何を見せるか”ではなく、“どういう相手として会うか”の整理です」

 

 紙を一枚めくる音が重なる。

 

「技術の交換を主軸にすると、対話の形式が最初から破綻します。相手は、少なくとも現時点では、こちらの技術的価値をほとんど認めていない。こちらが技術を求めるほど、非対称だけが強く出ます」

 

 経産省の審議官がすぐに反応した。

「しかし、非対称なのは事実です。そこから目をそらしても仕方がない」

 

「目をそらす話ではありません」

 真帆は言った。

「主題にしない、という話です」

 

「同じでは」

 

「違います」

 

 少しだけ語気が強くなった。

 自分でも分かった。まずい、と思ったが止まらなかった。

 

「向こうが持っていてこちらが持っていないものを数え始めた瞬間、こちらが何者かの説明が全部“不足の一覧”になります。そうなると、会う意味そのものが薄くなる」

 

 城崎がそこで口を挟んだ。

「続けて」

 

 助かったのか、追い込まれたのか、一瞬分からなかった。真帆は息を整える。

 

「交流と言うなら、技術の優劣以外の軸が必要です。文化、歴史、感情の表現、政治的失敗も含めた制度の試行錯誤、老いとケア、災害への対応、都市の雑音。そういうものを、“上手に見える形”ではなく、できるだけ加工を減らした形で出すべきだと考えます」

 

 文科相が眉を動かした。

「失敗も含めるのですか」

 

「含めないと、たぶんすぐばれます」

 真帆は答えた。

「きれいな文化紹介だけを出したら、観光広報になります」

 

 その言い方で、何人かの顔が少しだけ曇った。関係省庁の資料がまさにそうだったからだ。

 城崎は面白がるような顔はしなかった。ただ、机の上のペンを横に置き直した。

 

「私は賛成です」

 

 短く言う。

「日本を売り込むのではない。人間社会の一つとして会う。その方がまだ筋が通る」

 

 外相が慎重に言った。

「ただ、各国がそれぞれ自国の“生の姿”を出し始めると、統一性がなくなります。国際協調のメッセージがばらつく恐れが」

 

「ばらつくでしょうね」

 城崎は言った。

「でも、人類が一枚岩だという嘘を最初に出す方がまずい」

 

 その場にいた誰もが、その通りだと思った顔をしたわけではない。だが反対も出なかった。

 みんな、ここ二日で、壮大な建前がやけに壊れやすいことを学び始めていた。

 

     *

 

 午前九時三十分、連邦首都

 

 ニューヨーク証券取引所は開かなかった。

 ベルは鳴らない。フロアは動いているが、主役のいない舞台みたいに見える。テレビはそれを何度も映した。市場が止まる映像というのは派手ではない。シャッターが閉まるわけでも、炎が上がるわけでもない。ただ、いつも通りに見える建物から、意味だけが抜ける。

 大統領府西棟でも、その映像が流れていた。

 

 来訪まで二十四時間を切ると、警備は人数より角度の仕事になった。

 州兵、連邦保安当局、大統領警護局、ワシントン市警。誰がどこを塞ぐかより、どこから何が飛ぶかの方が問題になる。

 

 歓迎派と拒絶派は、だいたい同じフェンスへ集まる。

 祈る人間と叫ぶ人間は、だいたい同じ広場へ来る。

 その国で、百パーセントの安全は建築できない。

 

 図面には、立入禁止区域より先に射線が引かれていた。

 屋上、水塔、駐車場、遠距離から覗ける窓、河川側の抜け、報道用足場。

 誰も口にはしないが、全員が同じことを考えている。

 彼女が来る時、人間の側で最も人間らしい失敗は、たぶん銃から始まる。

 

 大統領執務室の机の上に、百七十三項目のリストがあった。

 厚手の紙。分類番号。優先順位。短い説明文。推定便益。軍民両用の区分。起草したスタッフは、たぶんこの数日でできる限りまともな仕事をしたのだと思う。

 リードはそれを見ていた。座っている時間がいつもより長い。誰かが入ってきても、すぐには紙から目を上げない。

 

「国防総省からです」

 

 首席補佐官が言った。

「歓迎動線の見直し案。記者の配置。観測機器の再点検。念のための生物学的防護――」

 

「意味がない」

 リードは紙を置かないまま言った。

 

「かもしれません」

 補佐官は訂正しなかった。

「それでも、やらないわけにはいきません」

 

「それは分かってる」

 

 リードはそこで顔を上げた。

 疲れて見えた。だが弱って見せる種類の男ではない。疲れている時ほど、声はむしろ整う。

 

「州知事からの要請は」

 

「州兵の待機継続。生活物資輸送の優先レーン設定。学校閉鎖の判断基準の統一。宗教集会とデモの管理。主にその四つです」

 

「学校は」

 

「州ごとです」

 補佐官が言う。

「ただ、今日だけで自主休校がかなり増えています」

 

 リードは頷いた。

 学校が閉まる。市場が閉まる。軍が閉じられる。衛星が眠る。国家は残っている。だが国家の“いつもの顔”がひとつずつ剥がれていく。

 それでも彼は、別の紙に手を伸ばした。技術リストの要約版。四ページを一ページに縮めたものだ。

 

「これを持っていく」

 

 補佐官は黙った。

 安全保障担当補佐官のレイノルズが、扉のそばから言う。

 

「持っていくこと自体は止めません」

 

「止めないのか」

 

「はい。ただ、それが主文書だと受け取られないようにしたい」

 

「何が違う」

 

「それを最初に出した瞬間、こちらが欲しい側だと固定されます」

 

 リードは少し笑った。

「実際、欲しいだろう」

 

「欲しいです」

 レイノルズは言った。

「ただ、欲しいと見せることと、飢えて見せることは違います」

 

 執務室が静かになった。

 人を怒らせるぎりぎりの言い方だった。だが怒鳴り返されても撤回しない顔をしている。

 リードは一分近く何も言わなかった。窓の外には、刈り込まれた芝がある。そこへ七日目に降りてくる。相手はそれをもう決めている。

 

「君は何を出す」

 

 レイノルズは用意していた紙を机に置いた。

 表紙に大きな題名はない。箇条書きが少しあるだけだ。

 

 language.

 music.

 grief.

 care.

 cities.

 conflict and law.

 faith.

 children.

 

「ふざけてるのか」

 

「違います」

 

「児童書クラブじゃないんだぞ」

 

「承知しています」

 

 レイノルズは言った。

「でも、向こうが欲しがっているのが“文明の内部”なら、たぶんこの辺りです。技術は結果です。制度も結果です。その前にあるものを見せないと、交換にならない」

 

「交換」

 

「向こうの言葉を使うなら、交流です」

 

 リードは紙を手に取った。薄い。薄すぎる。百七十三項目の方はずっしりしている。薄い紙の方が弱く見える。政治ではだいたいそうだ。

 だが、たまに、軽い紙の方が本体のことがある。

 

     *

 

 午前十時二十分、埼玉県戸田市。

 

 物流センターの仕分けラインは動いていた。

 ベルトコンベアは回る。バーコードは読める。トラックの位置情報も取れる。システム障害ではない。そこが厄介だった。

 止まっているのは人の判断の方だ。

 

「この便、前倒しにして」

 現場責任者が言った。

「水と紙類を優先。常温食品はその次」

 

「ドラッグの方からも増便要請来てます」

 

「受けろ」

 

「受けたらスーパー便が遅れます」

 

「じゃあコンビニの深夜便を削る」

 

「削ると本部がうるさいです」

 

「うるさくさせとけ」

 

 責任者の杉本は端末を叩きながら、昨日から同じことを繰り返していた。最適化ソフトは平時には賢い。需要予測、車両配置、積載率、ドライバー拘束時間。何年も積み上げた数字の都合で世界を走らせている。

 だが予測が壊れると、ソフトは急に物分かりの悪い新人になる。

 昨日の売れ方を異常値として弾くか、そのまま学習させるか。今日の増便を一時対応とみなすか、新しい傾向とみなすか。画面は候補をいくつも出すが、最後に押すのは人だ。その人が今、みんな怖がっている。

 

「本部から会議呼びますか」

 

 若い社員が言う。

 杉本は即答した。

 

「呼ばない」

「でも責任が」

 

「責任を分けるための会議やってる暇がない」

 

 彼はラミネートされた避難経路図の裏に、手書きで配送順位を書き始めた。

 一位、水。

 二位、乳児用と高齢者用。

 三位、医薬。

 四位、主食。

 五位、他。

 

 若い社員がそれを見て、少し安心した顔をした。システムより雑だ。雑だが、見れば分かる。人は混乱すると、分かるものに寄る。

 

「センター長、テレビ局から取材が」

 

「断れ」

 

「SNSで“物流止まる”って流れてます」

 

「まだ止まってない」

 杉本は言った。

「止めるな」

 

 彼はその日、昼までに二十回以上同じ言葉を口にした。

 止めるな。

 世界のあちこちで、同じ種類の命令が飛んでいた。半分は、システムに対してではなく、自分自身に向けたものだった。

 

     *

 

 午前十一時、官邸。

 

 真帆の机の上には、各省から上がり直した第二案が積まれていた。

 少しだけ良くなっている。少しだけだ。パンフレット臭さは減ったが、今度は逆に真面目なレポートになりすぎていた。文化庁は“生活に溶け込んだ美意識”という言い方に変え、厚労省は“超高齢社会におけるケアの制度と実践”と題を改めた。経産省は“社会実装力”を引っ込めた代わりに、“故障しながらも運用される社会インフラ”という苦しそうな言葉を持ってきた。

 悪くない。

 悪くないが、やはりまだ“出し物”だ。

 

 真帆は端末の端に表示されたニュースを見た。

 学校の臨時休校。地方銀行の問い合わせ急増。ドラッグストアの棚の空き。宗教団体の祈祷会。アニメ配信サイトで訪問者少女タグが急増。物流現場の混乱。どれも小さい。小さいが、全部が同じ方向へ少しずつ傾いている。

 破局というほどではない。

 それがいちばんまずいのかもしれなかった。破局なら人は腹をくくる。半端な停止は、人をじわじわ摩耗させる。

 

「鴨下さん」

 

 官房副長官補が呼んだ。

「総理が五分で入る。資料、三枚に絞れる?」

 

「三枚」

 

「三枚。多いと読まれない」

 

 真帆は頷いて、紙を抜き始めた。

 一枚目には、何を持って会うかではなく、何を主題にしないかを書く。技術の要求を前に出さない。優越の誇示をしない。人類統一の演技をしない。

 二枚目には、見せるもの。文化ではなく生活。制度ではなく、その制度が必要になった背景。成功より、直してきた履歴。

 三枚目には、質問の案。あなたたちはなぜ交流を求めるのか。政治指導者を重要ではないと判断した理由は何か。技術を渡さないという判断基準は何か。あなたたちにとって“対等”とは何を指すのか。

 

 最後の行を書いた時、少しだけ手が止まった。

 対等。

 書いてしまうと、嫌な単語だった。

 ないものをわざわざ確認する感じがする。

 

 城崎が入ってくる。

 資料を受け取り、立ったまま読み始めた。真帆は視線を落とした。自分の文章を誰かが読んでいる時間は、いくつになっても苦手だ。

 

「これで行きましょう」

 

 読み終えた城崎は、すぐ言った。

「各省資料の分厚い版は後ろにつける。前に出すのはこの三枚だけでいい」

 

 外務省側から小さく異論が出た。

「簡潔すぎませんか」

 

「簡潔でいいんです」

 城崎は答えた。

「相手は、たぶんこちらの厚い資料を読みこなせる。でも、読みこなせる相手に向かって厚くするのは、だいたいこちらが自分を落ち着かせたいだけです」

 

 その言葉に、真帆は少しだけ救われた。

 昨日から机の下に沈んでいた違和感が、やっと言語になった。分厚い資料は準備の証拠になる。証拠になるが、それ以上ではないことがある。

 

     *

 

 午後一時十五分、ニューヨーク。

 

 マンハッタンの薬局では、鎮痛剤の棚より先に哺乳瓶の洗浄液が薄くなっていた。

 理由は誰にも分からない。誰かがSNSで書いたのかもしれない。衛生に敏感になった人が増えたのかもしれない。赤ん坊のいる家は、先に動く。理由はその程度で十分だった。

 店員は棚を埋めながら、レジ横のモニターを見た。

 そこでは“なぜ市場閉鎖が起きたのか”を専門家が説明している。専門家は落ち着いている。チャートも出る。歴史的な前例も引かれる。だが画面の下には、別の速報が常に流れていた。大学の一部授業をオンラインへ。欧州数都市で抗議デモ。ワシントンに各国使節団が集結。訪問者への歓迎か拒絶かで世論分裂。

 全部ほんとうだ。

 全部ほんとうだが、レジに立っている人間が知りたいのは、今日の粉ミルクが明日も買えるかどうかだ。

 

 レジ列の最後尾で、スーツ姿の男が電話していた。

 

「いや、オフィスには行ってる。行ってるけど、やることは少ない。市場閉まってるから。うん。いや、クビって話じゃない。まだ。……まだって言うなって? 分かった、言わない」

 

 その“まだ”が、店内の何人かの耳に残った。

 

     *

 

 午後二時、大統領府西棟。

 

 拡大会議には、いつもより分野の散らばった人間が集められていた。軍、外交、情報、経済に加えて、言語学者、文化人類学者、音楽学者、感染症の専門家、倫理学者。必要かどうか最後まで揉めた顔ぶれだ。

 レイノルズが場を仕切る。

 

「前提を置きます。相手は軍事的に圧倒的優位。技術的にも優位。政治指導者を重要視していない可能性が高い。一方で、交流という単語を使っている。ここから先、何を聞き、何を見せるかを詰めたい」

 

 将軍が先に口を開いた。

「何を聞くべきかなら、脅威評価だ。来訪の範囲。目的。追加個体の有無。兵器化可能技術の管理方針」

 

 感染症の専門家が続く。

「生物学的相互作用の確認も不可欠です。空気、接触、微生物。たとえ相手に悪意がなくても、交差暴露の危険はあります」

 

「相手はその程度の問題は把握しているはずだ」

 CIA側の高官が言う。

「こちらの細かい安全確認を侮辱と受け取るリスクもある」

 

「侮辱より感染の方が困る」

 専門家は引かない。

 

 議論はすぐに縦に割れた。

 安全保障の人間は、知ることを優先する。文化系の人間は、聞き方を問題にする。医療系は接触の条件から入りたい。広報側は映像の印象を気にしている。誰も間違っていない。だからまとまらない。

 

 そこで、後方にいた初老の言語学者が手を挙げた。

 誰も彼の名前をよく知らない。政府の常連ではなく、大学から急に呼ばれた人間だった。

 

「一つだけ」

 

 声が小さく、部屋が静まるまで少し時間がかかった。

 

「こちらはずっと、何を得られるかで話しています。たぶん、それがまずい」

 

 レイノルズが視線で促す。

 

「交流という言葉は便利ですが、雑です」

 学者は言った。

「観光客も使うし、国際機関も使う。姉妹都市も使うし、学術協定にも使う。けれど、本当に交流が成立する時は、相手を道具として使うつもりが少し下がる。今の私たちは、相手を巨大な資源として見すぎています」

 

「そりゃ資源だろう」

 経済担当が言った。

「彼女の文明が持っているものは、現実にそうだ」

 

「持っているものは、です」

 学者は言い直した。

「でも、彼女が“資源そのもの”であるかは別です」

 

 リードは黙って聞いていた。

 珍しいほど口を挟まない。

 

「もう一つ」

 学者は言った。

「対等性がないから交流できない、と考えたくなる。実際その通りかもしれない。ただ、対等性にはいくつか種類があります。軍事的な対等性。技術的な対等性。政治的な対等性。たぶん全部ない。でも、感情や物語の内部に入る時の対等性は、別にあり得る」

 

「意味が曖昧だ」

 将軍が言う。

 

「ええ、曖昧です」

 学者は認めた。

「ただ、向こうが政治指導者を重要視していないというなら、むしろその曖昧な方しか残らない。国家同士の形式ではなく、生き物として何を面白がり、何を嫌がり、何を弔い、どうやって子どもを育てるか。そこなら、上下はあっても、完全な無意味ではないかもしれない」

 

 部屋は静かだった。

 納得したというより、反論しづらい種類の話だった。

 

 リードがそこで初めて口を開く。

 

「つまり、我々は」

 彼は言った。

「金も武器も技術も持っていくな、と」

 

「持っていくなとは言っていません」

 言語学者は答えた。

「それを中心に据えるな、という話です」

 

「中心」

 

 リードはその単語を繰り返し、机上の一ページ資料と、自分の四ページ資料を見比べた。

 中心。政治では、中心をどこに置くかで負け方が変わる。

 

     *

 

 午後三時四十分、東京。

 

 真帆は一度だけ官邸の外に出た。

 取材対応ではない。コピー機の熱気と人の匂いで気分が悪くなって、五分だけ空気を替えに出た。三月の風はまだ少し冷たい。冷たいが、体に入ると頭が戻る。

 正門前には報道陣がいる。歩道の向こうには野次馬もいる。スマホを構える人、ただ立っている人、誰かと通話している人。デモではない。集合でもない。目的の薄い人だかりだった。

 その端の方で、小学生ぐらいの男の子がスケッチブックを膝に乗せていた。母親らしい人が隣にいる。何をしているのかと思ったら、白い翼の少女を描いていた。

 真帆は二秒ほど見て、目をそらした。

 いま一番見たくないものの一つだった。

 

 男の子が母親に聞く。

 

「ほんとに来るの」

 

「来るって言ってるね」

 

「敵なの」

 

「分かんない」

 

「じゃあ、なんでみんな怖いの」

 

 母親はすぐには答えなかった。

 言葉を探しているのが分かる。真帆は歩きながら、それを聞いてしまっている自分が嫌だった。

 母親はようやく言う。

 

「強すぎる人が来ると、怖いの」

 

 男の子は少し考えた。

「学校の六年生みたいな?」

 

「……もっと」

 母親は苦笑した。

「もっと、すごく」

 

 それでだいたい伝わったらしく、男の子はまた絵に戻った。

 真帆は官邸の中へ戻りながら、その会話が妙に残った。

 強すぎる人。

 大人の会議ではもっと複雑な言い方をしている。主権の再編。非対称性。文明間接触の初期プロトコル。どれも間違っていない。間違っていないが、さっきの説明の方がだいぶ近い。

 

     *

 

 午後五時、大統領府。

 

 夕方になっても、執務室の机の上から紙は減らなかった。

 リストの項目数だけは減っている。百七十三が九十六になり、九十六が四十二になり、四十二が十七になった。削るたびに、何かを失った気がする。だが減らさないと、人間の側の欲が見えすぎる。

 リードは十七項目版を閉じた。

 

「ゼロにはできない」

 

 誰に言うでもなく言った。

 

 レイノルズが答える。

「ゼロにする必要はないと思います」

 

「そうか」

 

「はい。ただ、それを“交換条件”として持ち出すのは危険です」

 

 リードは椅子にもたれた。

「私は、ディールのない世界で生きたことがない」

 

 レイノルズは何も言わない。

 それを慰めるのは違うし、訂正するのも違う。

 

「相手が何かを欲しがっている。こちらにも何かがある。そこを繋ぐ。ずっとそれだった」

 

「今回は、あるかもしれません」

 レイノルズは慎重に言った。

「ただ、繋ぐ場所が物ではないだけで」

 

「言葉遊びに聞こえるな」

 

「私もそう思います」

 

 リードは机上のもう一枚の紙を見た。

 language.

 music.

 grief.

 care.

 cities.

 conflict and law.

 faith.

 children.

 相変わらず薄い。しかも、そのどれも大統領令では動かせない種類のものだった。

 

「子ども、というのは何だ」

 

「次世代、教育、育て方、という意味です」

 

「相手はガキみたいな見た目をしてる」

 

「だからではありません」

 

 リードは鼻で笑ったが、完全には否定しなかった。

 窓の外では、報道ヘリの音が遠くで回っている。軍の音ではない。報道の音だ。時代が変わる時に一番しぶといのは、だいたいカメラだ。

 

「歓迎式典はやらない」

 

 彼は言った。

 

「分かりました」

 

「国賓待遇も要らない」

 

「各国がどう受け取るかは別ですが」

 

「別でいい。並べるな。余計な旗も減らせ」

 

「はい」

 

「ただし、みっともなくはするな」

 

「もちろんです」

 

 レイノルズはメモを取った。

 その指示は矛盾しているようで、意外と明確だった。国家としての形は残す。だが形で押し切ろうとしない。たぶん、それしかない。

 

 その夜、リードはもう一度だけ短い映像声明を出した。前日のような大げさな演説ではない。二分半。明日、予定通り来訪があれば受け入れること。市民は大統領府周辺の規制に従うこと。武装した民兵も、歓迎派の私設集会も、歴史の主役になるつもりで近づくなということ。いちばん嫌われる文言だけを残した、実務の声明だった。

 声明の後、大統領府周辺のホテルでは窓際の部屋から先に埋まり、ネットでは「明日、誰かが撃つ」「いや誰も撃てない」の賭けみたいな言葉が流れた。警備側は笑わなかった。笑える話ではない。来訪の前日とは、国家だけでなく、ひとりの妄想にも時間が残っている日だからだ。

 

 リードは少ししてから、十七項目版の紙を引き寄せた。

 上から五つに線を引く。

 無限エネルギー。超光速推進。超高強度材料。根治医療。気候制御。

 残るのはもっと細かいもの、あるいは聞き方次第で逃げ道があるものばかりになる。

 自分で削って、自分で嫌そうな顔をした。

 

「これは」

 

 彼は言った。

「弱く見えるな」

 

「強く見せる必要がありますか」

 

 レイノルズが訊く。

 返事はすぐにはなかった。

 その数秒で十分だった。

 

     *

 

 午後六時二十五分、東京。

 

 官邸の記者会見室では、紙の束よりも、短い原稿の方が恐れられていた。

 長い原稿なら、読み切ればいい。短い原稿は、その行間を記者に読まれる。

 城崎は会見の直前まで、最後の一文を迷っていた。

 

 “平静な対応をお願いします”

 ありきたりだ。

 “必要な物資は確保されています”

 言い切るには怖い。

 “政府は万全の体制です”

 この一週間で一番言ってはいけない種類の嘘だ。

 

 結局、選んだのは別の言い方だった。

 

「買い急がないでください」

 

 会見場に入って最初に、それを言った。

 

「生活に必要な機能は維持されています。決済、医療、物流、公共交通。部分的な混乱はありますが、政府としてはそこを最優先で守ります。一方で、何が起きているのかを、政府が完全に理解していると申し上げることはできません」

 

 記者席が一瞬だけざわつく。

 分からないと言った。首相が。そこだけ切り取ればニュースになる。

 城崎は続けた。

 

「分からないことを分かったふりで埋めると、かえって社会が壊れます。今は、分かっている範囲を正確に共有し、生活側を守ることを優先します」

 

 質問は厳しかった。

 市場閉鎖は経済敗北ではないか。米国への追随ではないか。訪問者に対して日本は何を用意しているのか。安全保障上の対処は。宗教団体や過激派の動きは。パニック買いへの対応は。学校は。

 城崎は、答えられることだけ答えた。答えられないことは答えなかった。その分、記者の顔は不満そうになった。だが、会見を見ていた真帆には、久しぶりにちゃんとした言葉に見えた。

 国家が弱い時は、だいたい雄弁になる。

 今日はそうではなかった。

 

     *

 

 午後八時、連邦首都

 

 日が落ちても、大統領府の窓はまだ明るかった。

 最終の打ち合わせが続いている。歓迎導線。映像公開の範囲。科学チームの待機位置。緊急医療班の距離。宗教者の同席可否。各国との中継形式。決めることはまだ多い。だが、決めても意味があるのか分からない項目ばかりが残っている。

 それでも決める。

 決めることで、人間は自分の仕事を続けられる。

 

 会議がいったん切れたあと、リードは一人になった。

 机の上には二つの紙がある。十七項目版。八語版。どちらも半端だ。どちらもこれだけでは足りない。

 彼はポケットから、昼にしまった一枚を出した。最初の百七十三項目版から、誰かが抜き出してくれた要約だ。角が少し折れている。

 しばらく見てから、ゴミ箱の方へ手を動かし、途中で止めた。

 捨てるのも違う気がした。

 

 扉がノックされる。

 入ってきたのは統合参謀本部議長のウォーカー将軍だった。

 

「呼んだか」

 リードが言う。

 

「いえ。秘書官が、まだ起きているなら見せたいものがあると」

 

 将軍はタブレットを差し出した。

 SNSの切り抜き動画だった。どこかの小学校の教室。授業は中止になり、代わりに担任が子どもたちへ紙を配っている。自由に書いていい、という声。子どもたちは“来る人へ”手紙を書き始める。

 ようこそ。

 どこから来たの。

 地球の食べ物で何が好き。

 ぼくは野球が好き。

 ママが最近ずっとニュース見てる。

 こわいなら、こわいって言っていいよ。

 字のうまい子も、下手な子もいた。絵もある。翼がやたら大きい。

 

 リードは最後まで黙って見た。

 動画が終わる。

 

「誰が送った」

 

「教育省から上がってきたものです。使えるかどうかは別として」

 

「使える、とは」

 

「リストの話ではなく」

 将軍は少し言いよどんだ。

「何を見せるか、という話で」

 

 リードはタブレットを返さなかった。

 画面の静止した教室を見ている。軍人がこんなものを持ってくるのか、と一瞬だけ思って、それももう古い感覚だと分かった。

 軍は止められた。市場も止められた。残るのは、そういうものかもしれなかった。

 

「子どもか」

 

「少なくとも、彼らは取引しようとしていません」

 

 将軍は言った。

 お世辞にも上手い台詞ではなかった。だが執務室では、むしろその不器用さが効いた。

 

 リードはようやくタブレットを机に置いた。

 

「交流には」

 彼は言いかけ、止まる。

 

 将軍は待った。

 催促しない。軍人は沈黙を待てる。

 

「交流には、対等性が必要だと思っていた」

 

 リードは言った。

「少なくとも、私はそういう世界でやってきた。相手にこちらを必要とさせる。それがないなら、会話は成立しない」

 

「はい」

 

「でも、違う種類の対等性があるのかもしれないな」

 

 将軍は返事を急がなかった。

 大統領自身がその言葉を自分のものにするまで、少し時間が要る。

 

「弱さを出すって話じゃない」

 リードは続けた。

「媚びるのとも違う。だが、欲しい物のリストを最初に出すのは、たぶん違う」

 

「そう思います」

 

「思う、か」

 

「はい」

 

 リードは十七項目版を裏返した。

 白い面が上になる。しばらくそれを見てから、ペンを取った。

 大きな字で三行だけ書く。

 

 We came to hear.

 We came to show who we are.

 We ask what exchange means to you.

 

 英語としてうまいかはどうでもよかった。

 スタッフに直させればもっと綺麗になる。だが綺麗にした瞬間、別の紙になる気がした。

 

 窓の外で、報道ヘリがまた旋回した。

 執務室の時計は八時四十三分を指している。東京は火曜の朝だ。こちらはまだ月曜の夜。世界が一つの出来事を中心に回っている時でも、時差だけはそのまま残る。

 

     *

 

 午後十時十分、東京。

 

 真帆が官邸を出ると、空気は朝より冷えていた。

 歩道の人は減っている。報道陣も少し入れ替わった。コンビニの棚にはまだ水が残っていたが、昼より少ない。タクシー乗り場には列がある。列はいつも通りだ。ただ、みんなスマホを見すぎている。

 家へ帰る途中、彼女は近所のドラッグストアに寄った。

 歯磨き粉と洗剤を買うつもりだったのに、店内に入ると水の棚を見てしまう。自分でも嫌になる。残りの本数を数えたあとで、買わずに離れた。

 レジには、絆創膏とベビーフードと栄養ゼリーを持った人が並んでいる。終末ではない。終末ではないから、こういう買い方になる。

 

 帰宅して、靴を脱ぎ、ようやくスマホの個人メッセージを開く。

 母からだった。

 

 水、ある?

 お米まだあるなら無理に買わなくていいよ

 

 それだけだった。

 返信も短くした。

 

 ある。大丈夫。そっちは?

 

 すぐ返ってくる。

 

 こっちも大丈夫

 テレビ見すぎないようにね

 

 真帆は、少しだけ笑った。

 見すぎているのはお互い様だろうと思ったが、打たなかった。キッチンで水を沸かし、インスタントのスープを入れる。静かだ。外から救急車の音が一度だけ通る。いつもの音だった。

 テーブルの上には、今日使った三枚資料の控えがある。

 何を主題にしないか。

 何を見せるか。

 何を訊くか。

 

 彼女は三枚目を見返した。

 最後の問いに、赤字で追加が入っている。総理の手書きだった。

 

 “あなたたちは、なぜわざわざ一人で来るのか”

 

 真帆はその一行を見て、少し背筋が寒くなった。

 そうだ。そこをまだ誰もまともに考えていない。

 一人で来られるから来る、で終わる話なのか。大規模な使節団を不要と判断した理由は、単なる安全保障上の自信なのか。それとも、もっと別の価値観があるのか。

 考えようとして、やめた。

 今日はもう頭が働かない。

 

 窓を開けると、東京の夜気が入る。

 遠くで電車の音がした。インフラはまだ生きている。物流も、病院も、コンビニも、たぶん明日の朝までは持つ。世界は技術的には動いている。

 ただ、人間の側の前提が、少しずつ止まっている。

 

 価格が止まる。

 命令が止まる。

 説明が止まる。

 それでも、レジは打たれるし、電車は来るし、母親は子どもに水を買う。将軍は子どもの手紙の動画を大統領に持っていく。首相は“分からない”と言う。

 機能停止という言葉は、だいたい全部が止まる時に使う。

 でも本当に怖いのは、全部は止まらない時だと、その日になって分かった。

 

 真帆は窓を閉め、机の上の紙を裏返した。

 明日も使う。

 使わない方がいい日が来るのかどうかは、まだ分からない。

 

 

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