転生やわらか少女(ドラコ妹)の懸念   作:ryure

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クィディッチが見たい!

 ダイヤ・マルフォイは大変聞き分けが良く、お行儀が良く、人の邪魔になるようなことをしない「いい子」である。

 

 それは高等教育を受けてきた貴族令嬢だからであり、彼女の中身が転生者で見た目よりも人生経験があるからであり……もっとも大きな理由としてはダイヤは名前の通り脆く、名前に反してやわらかい少女だからだった。

 物理的に。

 

 なんとかかんとか運良く一年目……原作でいう「炎のゴブレット」を生き延びたダイヤだったが、今年の「不死鳥の騎士団」ではさすがに死ぬかもと思っている。

 例のあの人や脱獄してくるデスイーターのせいではない。

 確かに生命線のおにいちゃんが脅されるならかなり危険を感じるが、もっと直接的に危険なのは……。

 

「ウィンガーディアム・レビオーサ!」

 

 とてとてと小さな身体にはキツい傾斜の階段をおりていたダイヤは、突然動き出した階段の上に取り残され、あろうことかその軽い身体は遠心力に吹っ飛ばされ、当然のごとく急速に落下した。

 そんな時、慌てず騒がず自分のまとう制服に浮遊魔法をかける……とりあえず即死しなければ助かるのを彼女は知っている。

 

 どんな大怪我を負っても死ななければ大丈夫。ホグワーツにはマダム・ポンフリーと頻発するダイヤの怪我で鍛えられすぎた若き回復術師ドラコがいるのだ。

 

 それから入学時点から何かと気にかけてくれるマクゴナガルも。また、ダイヤもルシウス・マルフォイの娘のため多少はスネイプも気にかけてくれるが、彼の場合本命の息子が毎年命を張って(張らされて)いるのをなんとかしようと必死なのを知っているため頼らないことにしている。

 

「ミス・マルフォイ! 大丈夫ですか!」

「ロコモーター・制服! ……あぁ、どうしましょう。廊下で魔法を使ってしまいましたわ」

 

 浮かんだ制服にロコモーター(移動呪文)。擬似的に浮かんだダイヤは安全な廊下にゆっくりと着地すると、そのまま腰が抜けて座り込んだ。

 血相を変えてやって来たマクゴナガルがハグリッドのパンケーキよりよほど潰れやすいダイヤの身体を検分して、怪我がないのが分かるとほっと息をついた。

 

 なお、ハグリッド謹製パンケーキと比較されたのはだいたい重量が同じだからである。

 

「ごめんなさいマクゴナガル先生……廊下で魔法を使ってしまいました」

「通常であれば減点ですが、あなたの場合この高さから落下すれば手足の骨折ではすみませんからね。もちろん他の生徒でもこのような場合に魔法を使ったからといって減点などしませんよ」

「よかった。ありがとうございます」

 

 マクゴナガルは腰を抜かしてしまっているダイヤを持ち上げようとし……うっかり肋骨を砕いてはいけないので彼女は再びロコモーターされることになった。

 

「それにしても、浮遊呪文は一年生で習う初歩的なものですが、咄嗟に服にかける応用力は素晴らしい。スリザリンに一点」

「わぁ!」

 

 にっこり。

 リトル・フェアリーはゴーストのようにふわふわ浮かびながら笑顔になると、脆すぎ儚すぎるあまり何故かマクゴナガルに呪文で浮かばされていてもなんの疑問もないのでスルーしていたすれ違う生徒たちはほっこりした。

 

「いつか何かのご本で見たのかしら? 昔のホグワーツでは、決闘する時に相手のお洋服に浮遊呪文をかけて相手を拘束するんだって見て、それを思い出してやってみたんです」

「ダイヤ!」

 

 その時、どこからともなく現れたドラコが飛び出してきて華奢な妹に……まるでたんぽぽの綿毛を飛ばさないように保持するくらいの優しさでハグした。

 言わずもがな、安堵の意味である。

 

「先程、ダイヤが階段から落ちたと聞きました。マクゴナガル先生、妹を助けてくださってありがとうございます」

「いえ、彼女は自分で窮地を脱したのですよ。さぁ、迎えが来たなら私はこれで」

 

 ロコモーターが解除され、いつもの定位置、兄の腕の中にちょこんと腰掛けているダイヤが小さく手を振ってマクゴナガル教授を見送る。

 ドラコはほっこり、安堵、それから小さな疑問が湧き上がってきて……とりあえず寮に入ることにした。

 

「合言葉は?」

「『レペロ・マグルタム』!」

「うふふ、いつもね、ホグワーツのマグル避けがこの扉を通る度に少し強くなっているかも? なんてダイヤは想像しているのよ、おにいちゃん」

 

 無邪気な妹を前にして、無事を確信したドラコはようやく心から微笑んだ。

 なお、談話室のど真ん中でやっているわけだが去年一年間もこの調子だったので誰も視線を送りやしない。

 

「それでダイヤ。階段からはどうやって助かったんだい?」

「着ている制服に『ウィンガーディアム・レビオーサ』したのよ。そうしたら浮かべるでしょう?」

「なるほど、ダイヤは賢いな。間違いなく首席になれるぞ」

「先におにいちゃんがなるんでしょ?」

「もちろんだとも」

 

 その手の話題だと頭に浮かぶのは100点満点を平気で突破してくるくせ毛のマグル生まれ、ハーマイオニー・グレンジャーとかいう異端の秀才がいるが、とりあえずドラコは妹の前では威勢を崩さない。

 それが兄という生き物だからである。

 

「そうだ、あのねおにいちゃん。去年は三大魔法学校対抗試合があったから寮対抗クィディッチがなかったわよね。そして……今年はおにいちゃん、シーカーなのよね? ダイヤ、見に行きたいな。でも、ダメなんでしょう?」

「あぁ……ダイヤがあの熱狂の中にいれば潰されてしまう」

「ですわよね……」

 

 ダイヤは聞き分けがいいし、自分の脆さをよく知っている。

 他に、この世界の人間とは「組成が違う」としか言いようがないので前世の世界基準で考えれば病弱でもなければ怪我をしやすい体質な訳でもないのだが、スポーツに熱狂した若者たちの群れに混じって無事でいられるとは思っていない。

 最悪、その強靭な身体から放たれた歓声で鼓膜を破られるし、ちょっとした動作に巻き込まれたら最後、骨が何本か折れる。

 

 しかし、ダイヤは原作ファンの上に虚弱体質にとっては生命線たる溺愛おにいちゃんのことは普通に好きだったのでミーハー心を抑えられない。

 

「あのね、おにいちゃん。今年は無理でも来年は……おにいちゃんがシーカーをしている姿を見たいのよ。でもね、このままのダイヤだときっと観客席に座ったら、みんなが楽しくってちょっと身体を動かしただけできっと大怪我をしてしまうの。だからね、今年のうちに『盾の呪文』を覚えようと思うのよ」

「ダイヤ……」

 

 三年生で盾の呪文。それは厳しいだろう。

 ドラコはわかっていたが口に出さない。兄馬鹿なのでダイヤならやれると思っている気持ちが七割、三割はできなかった場合スネイプ先生あたりに特別授業をお願いしようかなという正攻法への思案である。

 

 なお、「謎のプリンス」でそれどころではなくなることを悲しいかなダイヤは知っているのだが。

 

「来年を楽しみにしててね、おにいちゃん。ダイヤも楽しみにしてるわ」

 

 なお、とてもクィディッチどころではなくなる翌年のドラコは闇の帝王とエンカウントする前に虫の知らせが来てギリギリでダイヤを聖マンゴに「検査入院」させるファインプレーを見せるのだがそれはまた別の話。

 

 その際、肝が座りすぎた母ナルシッサが可愛い娘だけども、体質が弱すぎて子どもをつくれないか作れても母体が死ぬ、その問題を突破できたとしてもダイヤ似の体質の子どもが生まれることを許して嫁がせてくれる家はないだろうから政略結婚的な意味で無価値な娘! そんな出来損ないの娘を闇の帝王に捧げる訳には……。

 という、何一つ嘘をつかない方法でダイヤのスパイ活動神回避をみせ、妻のブラック家の肝の座り方を目にしながら怯えきっているルシウスがいたとかいなかったとか。

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