ホモ、現代ファンタジー世界にTS転生したので異性愛者です 作:稲光結音
さて、体育の授業が終わった後は社会の授業。
正直あんまり得意ではない。なぜなら、転生前の知識とごっちゃになるから。
それくらいこの世界の常識は変わってしまっている。ダンジョンと職業というものによって。
なんだよキリストの職業が『神の子』だったとか……あ、もちろんEXランクです。
聖書に書かれているような水をワインに、とか石をパンにみたいな事をしてたらしい。
それでまあ政治犯扱いされた彼は磔刑にされ、最後は槍で突かれ――なかった。職業ランクが高すぎてまともな攻撃が通らなかったから。
そうするとロンギヌスの槍とかが存在しないわけで。
こういうところに前世知識との乖離が出てきて困るワケだね。
それでも結局餓死で亡くなったのは歴史の修正力とでもいうべきところなのか。
ちなみにキリストは未だに生きている。そう言うと語弊があるかな。え? 死んだんじゃないの、と。つまるところ、生き返ったのだ。キリストは再び蘇る。
再誕した彼は仏陀と一緒に立川のアパートで暮らしてるとか。
プライバシーの関係で現在の写真とかはないけど、恐らくジョニー・デップに似てるんだろうね。はっはっは。
ウケる。いやあんまりウケない。現実と二次元が混ざりすぎなのよ。聖〇おにいさんじゃないか!
などとツッコミたい気持ちを抑えながら、真面目に授業を受ける。
精神的に披露した社会の授業が終わり、次は楽しい楽しい給食の時間。
鶏肉のカレー風味なんかを味わいながらお米を食べる。うん、美味しい。
給食はバリエーションが豊かで最高だね。これだけの為に転生した事を喜べる。
スープもうまー。え、鶏肉余ってる? 一人おかわりできるって? はーい食べる食べる。
そう言うと、他にも欲しがってた男子達はいたが譲ってくれた。
ちょっと体を見せてサービスしただけでこれだよ。もう女王様と下民の関係がもう出来てしまった。こりゃ学校生活も安泰だね。
五時間目は総合。今日は体育館に移動しての部活紹介だ。ちなみにボクらは部活はやらなくてもいい事になっている。やらなきゃいけないのは職業ランクがFとEの人達だ。
彼らも勿論、戦う事はできる。それでも高ランクの職業持ちには敵わないのが現実だ。だから、部活に入りそれぞれ役割分担をする。
例えば野球なら、甲子園に行ったりとかの試合で人に見せて娯楽として消費されるためにやる。好景気なのでその辺の野良試合でも視聴にはお金を取られるというのは面白いかもしれない。
戦いに明け暮れる高ランク職業様のたまの休暇の選択肢として、彼らは使われる。
格差を感じるね。でも、安全なのも事実だ。
部活をやっている限り……スポーツに従事する限り、戦闘が免除される。無理に戦わなくて良いという選択肢があるのはいい事なのかもしれない。とはいえ、レベルを上げて身体能力を高めさせようとする部活もあるらしいが。
また、完全にサポートに入る部活もある。例えば図書委員と前世で呼ばれたそれは、ここでは文芸部が行う。そこで本の貸し出しや返却、整理整頓なんかをしてみんなの役に立つわけだ。
口さが無い者に言わせれば、低ランク職業なんてのは高ランク職業様の奴隷らしい。まあ、分からなくもない。
だが、仕方のない事なのだ。高ランク職業の人達は雑事に構わずさっさと強くなって、ダンジョンで魔物を狩る事に専念するべきだし、それは一種のノブリス・オブリージュと言える。そうしなければ、ダンジョンから危険なモンスターが溢れてしまう。そういう社会なのだから。
さて、今日は五時間目までで授業終了。となれば放課後やる事は当然。
「さっそくゴブリン狩ってみねえ?」
ダンジョンに潜る事、である。
「ワープストーンももらったし、な」
「実際ゴブリンに殴られて分かりましたけど、敵じゃないですね。ただ後衛の方にいかないようにするのはちょっと精神的に大変かもしれないです」
「ふむ。それなら今日は俺が守谷にスキルを借りよう。ナイフ生成でやってみたい事がある」
とりあえず今日はゴブリン狩りという事らしいので、ボクはスキルツリーの第一章を解放しようと思う。
スキルツリーをなぞっていくと、自己強化スキルの先に魔力吸収量増加のスキルがあったんだよね。これがあれば魔力が溜まるのが早くなるはずだ。だからこっち方面をとりあえず伸ばしたい気持ちがある。
「それじゃボクも新しいスキル覚えるから、渡辺さんの負担にはならない筈だよ。実際にやってみないと分からないけど」
「おお! 何覚えるんだ?」
「身体強化レベル1だね。パッシブスキルってやつ」
それを聞くと、白部くんがふむと納得したように声をあげる。
「なるほど、それはいいかもしれない。うちの後衛は三人。俺、守谷、与謝野くん。
守谷が運動能力を持てば、盾士の渡辺さんはだいぶ楽だろう。弓兵は兵士系の職だから前衛と同じくらいの耐久力や機動力があるはず。そうなれば渡辺さんは俺だけ守ってくれればいい事になる」
ほっとしたように渡辺さんは言う。
「ああ、それは確かに楽です。まともに動く魔物を相手するのに、二人も守るのはもしかしたら難しいかもと思ってました」
「そうだよね。じゃあ覚えちゃおう――魔導天書」
ボクは一冊の本を呼び出すと、自己強化のページを開く。そしてスキルツリーの第一章を解放した。
これで第二章魔法攻撃強化スキルを覚えたら、次の第三章に魔力回復量増加がある。ただ、第二章や第三章を解放するのにどのくらい魔力を本に注ぎこむ必要があるのかまったく分からないのが不安だ。
「よし、それじゃあ出発……の前に」
ボクは腰を落とす。その姿勢に疑問を抱くパーティメンバー。
「どれくらい身体能力が上がったか、確かめてみようと思うんだ」
「なるほど。どうやって?」
「与謝野くんはこの前ボクに抱き着かれるのを嫌がりました。なので今からボクは与謝野くんに抱き着こうとするので避けて貰います」
「え」
「じゃあ、スタート!」
逃げる素振りを見せた彼に、ボクはにゃんまげに飛びつかんばかりの勢いで突撃した。
「うう、いい匂いがする……」
あっさりと追いつかれた与謝野くんは成す術もなく、ボクに抱き着かれていいようにされてしまう。
そしてそれを引き剥がす渡辺さん。
「だから、不潔です! 離れてください!」
ふむ、Dランク弓兵の与謝野くんが抵抗できなくて、Bランクの渡辺さんに敵わない。これはCランク物理職相当の身体能力ってところかな。
ま、レベル1の身体能力強化ならそんなものか。
「おっけー、それじゃみんな行こうか」
何事もなかったかのようにボクは号令をかける。
教室から出て、五人で磯浜最下級ダンジョン前ギルドまで出発した。
到着したギルドで、ボク達は白部くんの話を聞く。ワープストーンをダンジョン許可証に吸い込ませるまではよかったが、その後が分からなかったからだ。
「ギルド内の女神像付近でこの許可証に触れると、職業選択を行った時のようにウインドウが出る。ここには今ワープできる地点の一覧が表示される。だが待って欲しい」
「え」
待って欲しい、その一言を聞くより先に須藤くんが消えてしまった。話を聞くより先にワープしたのだろう。さすがチュートリアルをあんまり聞かない男。
「……ここに帰ってくる必要があるだろう? だからここ、磯浜最下級ダンジョンのワープストーンも貰っておく必要がある訳だ」
「え、須藤くん大丈夫なんですか?」
「たぶん、向こうの方がちょっと上のダンジョンという扱いだし、向こうでワープストーンが貰えるはずだ。在庫が尽きているとか無ければ」
ということでボクら四人はこのギルドのワープストーンを貰って、みんなで一緒に祝町最下級ダンジョンへ瞬間移動した。
ちなみに合流した須藤くんは無事、帰りのワープストーンを貰ってダンジョン許可証に吸収していた。
ちょっとトラブルもあったが、こうしてボク達はゴブリンが出るというダンジョンへ入っていく。
このダンジョンは木々や長めの草むらなんかが点在してて、奇襲されそうな雰囲気がある。
「守谷。今のうちにナイフ生成スキルを貸しておいてくれ」
白部くんのお願いに、ボクは頷き魔導天書を開く。
「おっけー、“貸出”」
「……なるほど。物理職の保持魔力で使えるなら魔法使いの俺はどのくらい使えるのかと思ったが、かなりいけるな。みんな、それぞれにナイフを渡しておく。与謝野はとりあえず十本くらいでいいか」
「ああ、助かる」
与謝野くんは弓で射出する用のナイフを多めに渡されていた。須藤くん、渡辺さんには一本ずつ。
ちなみにギルドで装備のレンタルも忘れていない。ここのギルドもやはり木製の物しか貸してくれなかったが。
さて、さっき保持魔力という言葉が出てきたので説明しておくといわゆるMPである。このMPは魔力を吸い込んだり……つまり呼吸などで微量。魔物を倒した時にその魔力が体内に入った時に大きく回復する。
そしてこの魔力を今までどれだけ吸い込んだかでレベルアップするわけだ。保持魔力の限界を超えてても、それはまあ無駄っちゃ無駄なのだが、レベルアップには支障がない。
逆に、保持魔力の限界まで魔力が溜まって無ければレベルアップしないという訳でもない。
魔力切れなんていうのは順調に魔物を倒していればそうそう起こらない、くらいに覚えていればいい。まあボクは魔導天書に魔力を注いでる関係上、いつも魔力切れギリギリなんだけど。
それはともかく、木々がその辺に生えているという事は、斥候の役割を果たす弓兵がいるうちのパーティには丁度いい。
樹上から与謝野くんがボク達に敵対勢力の発見を伝えてくれる。
「ゴブリン三体。やるか?」
「最初はもう少し少なくてもいい気がするが、こっちには鉄のナイフを持った須藤がいる。いけるだろう」
「へへっ、任せてくれ」
白部くんの許可が出た事で、与謝野くんはゴブリン三体にちょっかいを出す。
「的中。目に当たった。向こうは混乱してる」
二射目が放たれた。
「撃破。残り二体。気付かれた。こっちに向かっている」
「よっしゃ! それじゃこっちも攻め入るか!」
「いや待て、移動は得策じゃない」
須藤くんが首を傾げた。
「え、なんで」
「与謝野くんが木の上に登っているアドバンテージを手放すのは惜しい。それに……やりたい事もある」
そう言うと、白部くんは五本ほどのナイフを生成。宙に浮かせる。
「おお!?」
「ナイフの生成に必要な魔力が軽い。このくらいはお手の物だ」
向かってくるゴブリンに、空飛ぶナイフが向かっていく。
それらすべて一匹のゴブリンに刺さり、魔石となって消滅する。
「威力も充分。実験は成功だな」
「んじゃ、俺も……っと!」
即座にゴブリンに近づいた須藤くんは、その首狙いでナイフを突き刺す。ゴブリン達は棍棒を使う間もなく消滅した。
「へへっ、楽勝!」
楽しげにナイフを弄り回す須藤くんを、白部くんが窘めていた。
「本来なら木の装備で倒さなきゃいけない相手を鉄の武器で倒してるんだ。そりゃそうなる。
地力を上げるのも大事だからな」
「なんだよ白部。レベルならスライム倒すより上がりやすいんだ、この調子でいこうぜ」
しかし、それもあまり効果を成さず。それどころか。
「二層に行った方がよくね? もっと経験値の入りもいいだろたぶん。渡辺さんも暇だろうし」
などと言っている。
「いえ、私が暇なのはいい事なので」
「ふーん。でもいいじゃん、二層行こうぜ」
順調すぎて怖い、とはこういう事を言うのかも。ただ、これが贅沢な悩みなのか地獄への一歩なのか。
その判断は今のボクにはつきそうにない。