アムロの必殺技はコロニー落としなんでしょ 作:匿名
騒がしい音。レバーを叩く音。ボタンの連打音。タバコの煙。
ゲームセンター「トキ」の、いつものコーナーだった。
山田が、レバーをガチャガチャやりながら、笑っていた。
「……山田」
声が出た。
「ごめんな。山田。俺、いつも横で見てるだけで」
山田が、手を止めてこちらを見た。
あの頃のままの顔。
「結局、一度も一緒に遊んでやれなくて。100円、入れればよかったな」
山田が、ふっと笑った。
百円玉が一枚、俺の手のひらに押し込まれた。
「入れろよ」
「……え?」
「1クレ。お前の分。ずっと取っといたんだ」
百円玉が、やけに重かった。
山田が、真っ暗な画面を指差した。
「知ってるか? このゲームにはさ、コンティニューがあるんだよ」
画面が光る。コンティニューの文字が浮かぶ。
俺を呼ぶ誰かの声が、かすかに響いていた。
「そうか……ごめんよ、まだ俺には帰れるところがあるんだ」
山田が、笑った。
あの頃のままの、屈託のない顔で。
「いいんだ。今度は一緒に遊ぼうぜ」
その声が遠くなる。
俺は百円玉を——筐体に入れた。
スタートボタンを押す。
ゲーセンが、山田の姿が、キラキラに溶けていった。
◇ ◆ ◇
目を開けた。
白い天井。消毒液の匂い。
医療用モニターが、静かにビープ音を繰り返している。
「——起きた! 起きたぞ!」
誰かの声が聞こえた。
目を動かすと——アムロがいた。
その隣に、シャリアさん。キャスバルさん。
ラルさんが、腕を組んで壁に背を預けている。
そして——通信モニターの向こうに、シーマさんの顔があった。
『あんた、馬鹿だよ。本当に馬鹿だ』
シーマさんが、笑いながら言った。
目が赤い。
「……俺、生きてるんですか」
キャスバルさんの声は、いつもどおり静かだった。
「コックピットの装甲が奇跡的に持った。テム・レイの設計だ」
「テムさん?」
「お前の機体のコックピットだけ、異常に頑丈だった。まるで——パイロットが無茶をすることを前提に設計されていたかのように」
「……コロニーは」
「止まった」
アムロが、言った。
「あの一撃で、核パルスが停止した。コロニーは——落ちなかった」
落ちなかった。
「こんな嬉しいことはない……」
それだけ言って、涙が溢れた。
わかってくれるよね。
山田にはいつでも会いに行けるから……
◇ ◆ ◇
UC0079年1月4日。
後に「一日戦争」と呼ばれるこの戦闘は、宇宙世紀の歴史を決定的に変えた。
ジオン公国軍は、サイド2・8バンチコロニー「アイランド・イフィッシュ」に核パルス推進装置を取り付け、地球への落下軌道に投入する計画——通称「ブリティッシュ作戦」を発動した。
これを阻止したのは、正規軍ではなかった。
ジオン公国の元士官キャスバル・レム・ダイクンを中心とする非正規武装組織「ロンド・ベル」。わずか5機のモビルスーツと1隻の輸送船。
彼らは、コロニー宙域においてジオン公国軍と交戦しつつ、核パルス推進装置の破壊に成功。コロニーの地球落下を未然に防いだ。
作戦の最終局面で推進装置を直接破壊したのは、ロンド・ベル所属のパイロット「キリコ」——本名不詳。ジオン公国軍の記録にも連邦軍の記録にも、該当する人物は存在しない。
◇ ◆ ◇
ブリティッシュ作戦の失敗は、ザビ家の求心力を根底から崩壊させた。
ギレン・ザビは徹底抗戦を主張したが、デギン・ソド・ザビ公王は開戦翌日に停戦を受諾。
ザビ家は公職から退いた。
ガルマ・ザビ大佐は、作戦中、戦闘を離脱。事実上の戦線放棄であったが、戦後の軍事裁判では「通信障害による指揮系統の混乱」として処理された。
キシリア・ザビは戦後、民間の貿易商に転身。その潤沢な資金源には、マ・クベという人物が関わったとされるが、詳細は不明である。
また、ブリティッシュ作戦において毒ガス散布を担当していたシーマ・ガラハウ海兵隊は、「妨害による遅延」を報告し、事実上ガス散布をサボタージュした。8バンチコロニーの住民は全員無事である。
シーマ・ガラハウ大佐は、戦後、行方不明。
なお、ジオン共和国成立後、エフェメラ・ハントなる女性艦長が輸送船団を率いて活動を始めたとの記録があるが、本件との関連は不明である。
◇ ◆ ◇
UC0079年3月。ジオン共和国、成立。
初代議長:キャスバル・レム・ダイクン。
共和国成立に際し、キャスバルはとある方面から「宇宙世紀憲章」の原本を託された。
憲章には、地球連邦政府が秘匿し続けた一文——宇宙移民の権利に関する条項が記されていた。
そして、ジオン共和国と地球連邦の対等な協定が結ばれた。
◇ ◆ ◇
なお、取材の過程で筆者が最も困惑したのは、当事者たちの証言の食い違いである。
アムロ・レイは、キリコについてこう語った。
「キリコさんは、たぶん僕よりすごいニュータイプです。ただ、その……知識の精度に、かなりムラがあるというか……」
シャリア・ブルは、微笑みながらこう言った。
「彼はニュータイプなどではないよ。それ以上の何かだ」
キャスバル・レム・ダイクンは、こう語った。
「彼は、時を見る力を持っていた。未来のモビルスーツ、未来の戦争——その可能性を断片的に、だが確かに見ていた」
議長はそこで言葉を切り、隣に座る少女の方を見た。
「そういう未来を、私は防ぐ」
褐色の少女は、穏やかに微笑んでいた。
そしてキリコ本人は、インタビューでこう答えた。
「俺はただ、アムロがコロニー落とす悪いやつだと思って止めに来ただけなんですけど、なんか色々あって結局ジオンの方がコロニー落とそうとしてて、でもみんないい人で、友達ができて、っていうか最初からアムロ普通にいい奴だったし、えっと……まあ、よかったです」
カイ・シデン「一日戦争——ロンド・ベルの真実」(UC0085年刊行)より抜粋
——了——