藤原妹紅は、頭を抱えていた。
「朝は四本足、昼は二本足、夜は三本足の生き物って何でしょう?」
勿論ながら、こんな答えの見え透いたなぞなぞにではない。
「うぅ~……えぁ~……ヒント!」
「ダメダメ! ほら、頑張って!」
道神馴子と名乗った道祖神が出してきたこの使い古された、古典的な謎かけに答えようと橘が全力で粘っているからである。
十五分間も。
流石に、何の進展もない掛け合いに妹紅は苛々してきた。
「ちょっと、
「わかってるよ! でももうちょっとでわかるの!」
「ほらほら、早く答えてくださ~い!」
橘は意地っ張りである。「ヒント!」と言っておいて「もうすぐわかる!」とはこれ如何に。或いは、その矛盾すらも判らないくらいに熱中しているのか、それとも幼すぎるのか。背中に羽をつければ、妖精だと言っても十二分に皆を騙せそうだ。
ほんの少し、時を遡る。
橘から正体を教えてもらってから歩き続けること十分弱。不貞腐れていた橘の機嫌をどうにか直した頃に洞窟を潜ると、俄かに巨大な金色の正四角錐が眼前に聳え立った。祭壇というのはこれだろう。見慣れない形ではあるが、兎に角大きい。
「……でかいな」
「わぁ、ピラミッドだ! 何でここにあるんだろ?」
一方の橘は、どうやら、この奇妙な形の構造物に見覚えがあるらしい。その奇妙な構造物そのものに驚く様子はなく、どちらかというと感動して虹色の目を輝かせていた。
「……ピラミッドって何なの?」
「エジプトにある、王様の大きなお墓だよ~! ちっちゃいのもいっぱいあるけど、一番大きいクフ王のピラミッドはこ~んなに大きいんだよ! ここのよりずっと!」
短い両腕を精一杯に広げて身振り手振りでピラミッドの大きさを説明してくれた。橘曰く、日本のどのお墓よりも大きいとのことだ*1。
「あとね、エジプトでは日本とおんなじで太陽の神のラーが一番偉い神様なんだよ! それでね、あっちでは世界遺産っていうすごいものにもなってるんだって!」
大雑把ではあるが、やけに詳しい橘である。あまり興味はないので妹紅が適当に相槌を打っていても、滞ることなく口が回って、一つまた一つと知識の奔流は支流を得て勢いを増していく。
「エジプトにはナイル川っていう大きな川が流れてて、その川が暴れないように”ナイロメーター”っていうのがあったんだよ! ラーはすっごい堅物なんだけど、お嫁さんのハトホルと話してる時はちょっとデレデレしててウザいんだよね~、
「おおいストップストップ、何しれっと
「ただの旅行だけど?」
「えぇ……」
「それよりね! あっちの煉瓦は――」
偶にレベルの違う話が紛れ込んでいるので上手いこと受け流せなかったりするのだが、詮索しても橘は軽く流して先に進もうとしてしまう。どうみても些事でないことを些事で片付ける所には、僅かながら橘の神としての片鱗が垣間見えた。それ以外の所に全くその様子が見当たらないから余計にクローズアップされて感じられる。
というか、橘は外の世界のみならず、波濤万里のその先の異国にも行ったことがあるのだろうか。或いは、異邦の妖怪である吸血鬼のことも知っているかもしれない。
妹紅は興味本位で訊いてみた。
「ねえ、吸血鬼って知ってる?」
「
「……橘、紅魔館行っちゃだめだぞ」
「?」
とんでもない答えが返ってきた。しっかりと、妹紅が知らない情報もおまけについている。それも、見下しているというよりは、辞書の注釈のように、ただ事実を言っているだけという口調だ。
――いや吸血鬼って相当強力な種族じゃなかったか? あの姉妹、特にプライドが高そうな姉の耳に入ったら……想像したくもない。
いや、案外見てみたいかもしれない。最強格の吸血鬼と原初の神だとどちらが勝つのだろう?
「……いや、流石にレミリアか」
「さっきからもこさん何の話してるの?」
「何でもないよ」
そこで漸く、話が一段落した。喋りたがりで矢継ぎ早に話す橘に会話の主導権を握らせていては終わらない。丁度いい塩梅だということにして、橘に中に入ろうと促すことにした。
「橘、物知りなのは判ったから、早くピラミッドに入らない? 帰りが遅くなるよ?」
「はーい! ……入口どこ?」
「ま、それくらいは探せば――」
「おや、人間が二人? 背の高い方は奇妙な気配だけど……」
――そして、今に至る。
ああでもないこうでもないと難しい顔の橘を呆れ顔で眺める妹紅は小さく溜め息を一つ吐いて、「これが神様は無理があるよな」と改めて思った。
前に宴会で会った洩矢諏訪子は、比較的幼い見た目でも言動の端々に”神様っぽさ”が(神奈子と対等に話していて、早苗に敬語を使われていたのもあるだろうが)それなりに感じられた。
レミリアなんかも幼い見た目と行動に反して、伊達に500年以上生きている訳ではないようで、老獪で精神も成熟しているという。
しかし橘はというと、ちょっと知見は広そうだが頭が切れる訳でもなく見た目に反して老成している訳でもなさそうで、その仕草と態度は人懐こい幼児にしか思えないもの。神様だからとあまり威張ったりはせず、橘が敬えとも言わないので有難く妹紅も自分の気が楽なように接しているが、抑々子供相手に敬えと言われても上手く出来ない自信がある。
そんなお子様橘がこのまま延々頭を捻っても恐らく埒が開かない(それに、妹紅も答えを知っているから答えられるが、最初聞いた時は答えが分からなかったので橘に正解できるとも思わなかった)ので、橘に臍を曲げられても仕方がないと割り切って妹紅は橘に代わって馴子の問いに答えた。
「橘、悪いけどちょっと長い。答えは”人間”だよ」
「あ、ひどい! ぼくもあと少しで正解できたのに!」
橘がむくれて小さな手でぽかすか叩いてくる。癇癪を起こしていても、ちんまりした身体と整った顔立ちと仕草の幼気さが災いして全く怖くない橘を「ごめんって。あとでお菓子買ったげるから」と適当に宥めてやりながら、無駄極まる時間に飽き飽きしていた妹紅は漸く進めるとほっとしていた。
「残念!」
「はい?」
――不正解な筈がない。
面食らって馴子の方をじろっと見つつ、異議を唱えた。
「いやいや、有名な話だろうよ。赤子が四つん這い、大人が立って歩いて、老人が杖と合わせて三本足って奴じゃないのか?」
「そうなの? でも私は知らないわね。答えは、”そういう妖怪”よ」
「何だそりゃ!」
そんな妖怪いてたまるか――まあいるかもしれないが――そんなものが、謎かけの答えとして納得できよう筈がない。
第一、あまりにも答えが指すものが曖昧模糊に過ぎる。
馴子は二本の杖のうち”?”のように湾曲した形状の一本を手にぱしぱしと当てるように振りながら、心底不思議そうに言葉を返す。杖が手に当たる度にちょっと首をもたげるように曲がるその動きが妹紅の神経を逆撫でしてくる。苛つきすぎて、かなり過敏になっているようだ。
「前に来た巫女も同じことを言っていたんだけれど、そんなに私の用意した答えが不服?」
「不服だよ! お前”1足す1はな~んだ?”系のなぞなぞに”粘土を足したら一個になるから1”とか答えるタイプだろ!」
「へ~、そうなんだ!」
「今の間違ってるというか捻くれた答えだから橘は憶えちゃダメだからな!」
待ち惚けの苛立ちに馴子の言葉が加わって若干キレ気味に妹紅が捲し立て、橘が変に知識を吸収しようとしたのを即座に遮る。先の十五分間の様子に鑑みるに、橘は本当に”1+1=1”で理解しかねない。加減乗除も出来ない原初の生命神など冗談にもならないし、真っ平御免である。
橘の真っ白すぎる脳内キャンバスを守ることには成功したらしく、橘は「じゃあ1+1って何なんだろ? 普通に2かなぁ?」と取り敢えず四則演算の絶対則は手放さずにいてくれた。「将来騙されないだろうか? いやそれ以前に今まで騙されてこなかったのか?」という心の底からの心配が沸き上がる。
されど、もう一方のストレスの元は妹紅をまだ解放してくれなかった。
「おーい、お姉さん大丈夫かな? 何はともあれ、不正解! そんな訳で、お前らはここで死ぬ運命にある!」
「何でそうなる!」
突拍子もないこと甚だしい。本日二度目の弾幕勝負が始まる気配がする。抗議したい気持ちでいっぱいだが、既に馴子はにやりと笑って、ふわりと宙に浮かび上がろうとしていた。
「ああもう、これだからこういう頭おかしい奴相手にするのは嫌なんだよ……」
そうぼやき、嫌々ながら妹紅も炎を纏って弾幕勝負に備えた。そして、隣にいる橘に逃げるよう――いない?
「――!? 橘、どこ――」
「きゃあ!? どっから出てきたの!? ちょっと、足引っ張んないで!」
橘はどこだと辺りを見回そうとした妹紅だったが、馴子の悲鳴がすぐに橘の居場所を教えてくれた。
橘は、いつの間にか馴子の足下に移動していて、小さな身体で馴子の左足に抱き着いてどうにか馴子を地上に留めようとしていた。精一杯に踏ん張って、橘自身も半分くらい足が浮いているのに回した腕を解く気配はない。
「……やっぱ、はっや……」
妹紅は改めて、橘の”神速”の出鱈目っぷりを思い知った。音もなければ、残像すら残らない。天狗すらも置いてけぼりにするその速度は、妹紅の目から見れば瞬間移動と何ら違わぬ神の御業だ。何度見ても思わず驚かされるが、見るのは初めてではないのですぐに吃驚を吞み込み、意識を馴子に戻す。
ちょっとウザかった馴子があたふたしているのを見て妹紅が若干の溜飲を下ろしていると、橘が大きな声で馴子に答えた。
「やだ! ぼくまだなぞなぞ間違ってないもん! もう一回!」
「「……え?」」
奇しくも、同じ長さの沈黙の後に、綺麗に二人の声が重なった。
馴子が、困惑しつつ橘に問い掛ける。
「……もしかして、謎かけもう一問出してほしいだけ?」
「うん! 間違ったのはもこさんでしょ? ぼくはまだ!」
妹紅は拍子抜けしてしまった。確かに橘の理屈は(若干屁理屈だろうが)通ってはいると思う。でも、そこまでたかが謎解き一つに執着するのか?
負けず嫌いで幼くて、何とも可愛らしい橘である。
思わず妹紅は苦笑してしまった。穢れなき無垢な目の前の幼子に、ちょっと輝夜や自分に似たものを感じられたのである。妹紅自身も負けず嫌いな自覚はあるので、まだ負けてないという気持ちはよく共感できるものだ。
「だってさ。馴子、新しいやつ出してやったら?」
「……いや⋯⋯まあ、いいですけど……」
「やったぁ!」
橘が快哉を叫ぶと同時に馴子の足を離してやると、渋い表情の馴子はそのまま軽くふわふわと宙に浮いたまま、何やら腕を組んでウンウン唸り始めた。
その様子に、どうしたのだろうと妹紅が訝しんでいると、数十秒して馴子が少し困った顔で妹紅の方に寄って来て、妹紅にこそこそと助けを求めてきた。
「えっと、もこさん……?」
「妹紅だ、もこ”う”」
「あ、妹紅さん、ちょっと助けてほしいんですけど……何かいい謎かけありません?」
「……お前レパートリー一個しかないのか?」
馴子が、恥ずかしそうに頷いた。
馴子が言うには、抑々今まで此処に来た人間が霊夢と魔理沙以外にいなかったのだと。その時は先程出してきた謎かけ一回で終わったので二の矢を使うこともなかったし、自我を得たのも最近だったので偶々
妹紅も呆れるばかりだが、馴子に頼られてもそんなに気の利いた謎かけなんて思いつかない。精々が慧音が言っていた鶴亀算か俵積算だが、さっき妹紅が提示した馬鹿みたいな例え話を真に受けるくらいだし、橘には難しすぎるだろうか。
二人で知恵を絞っていると、気の短い橘はむっと頬を膨らませながら早く早くと催促してきた。待たせるのは得意なのに、待つのは大嫌いらしい。
それを宥め賺して、妹紅と馴子がちょっと待ってねと断って思考時間を延ばすこと三度。
恐らく二分も延長していないが、とうとう、橘に限界が来たらしい。今更ながら、感情の振れ幅が大きいというか、まさに子供っぽいというか。肩を怒らせて、地団駄を踏みながら橘が叫んだ。
「もう! 遅すぎるよ! じゃあ、ぼくから問題出すから、なれこさんが答えて! それでいい!?」
「えっ、別にいいけど……」
「それ趣旨変わってないか……?」
大人二人が困惑するのを他所に、橘は出すクイズを吟味し始めた。
馴子が通せんぼする気が失せているらしい以上、もう正直この茶番には全く意味がないのだが、例によって態々橘の機嫌を損ねたいわけではないので妹紅は異議申し立てはせずに橘を待つ。橘の自身に関する説明を聞くに、「しんどいからやりたくないけど、本気になれば誰だって消せる」という物騒な存在だと聞こえたので本気で怒らせたくはないのが半分、単に面倒なのが半分だ。
取り敢えず馴子に「橘の謎かけが簡単でも、即答したら拗ねるからちょっと悩んでやってくれよ」と忠告しておく。馴子がこくりと承知するのを確認してから、妹紅は橘に視線を戻した。
待つこと一分、橘はいい問題を思い出したようでぱっと顔を輝かせた。
「準備できた~! じゃあ、問題! ”悪徳代官とかけまして、
「……ヤバい、ガチのやつだった」
「……今作ったの?」
「もちろん! あ、”幕府の敵”とかナシね! それただの”共通点”だから!」
まさかの正統派。妹紅も馴子もどちらも、「橘だし精々引っかけクイズかそこらだろう」と思っていたものだから、完全に不意打ちを喰らい、互いに顔を見合わせて本気で考え始めた。
「妹紅さん、抑々尊攘派って何でしたっけ……?」
「幕末に幕府を倒して天皇を助けて蕃敵を追い出す的な勢力だったと思うけど……」
あと一人いれば文殊の知恵も思い浮かぼうものだが、生憎ここには二人しかいない。しかもどちらも(何故か馴子も)こういうのは不得手だ。妹紅としては「お前はこういうの専門みたいだし瞬殺してくれないかな?」「というか何で私まで一緒になって考えてんだ?」と、先刻馴子に自ら伝えた忠告の内容も忘れて心中で愚痴を吐くが、それをした所でいい知恵が浮かぶ訳でもない。それに一度考え始めたせいで、妹紅も負けず嫌いが発動していたので、自分で答えを出したいとちょっと粘る気を起こしてしまっていた。
「悪徳代官とか水戸黄門様しか思い浮かばない……」
「水戸黄門様って、徳川光圀のことだっけ?」
「はい、確か」
まあ、だから何だという話で、数分間考え倦ねた末、他愛もない連想ゲームの果てに、二人は降参することにした。
「橘、もう降参! さっぱり判らん!」
「私ももう無理! 答え教えて!」
乞われる橘は、とっても満足気である。えへんと胸を張り、得意満面で応えた。
「ふふふっ、ちょっと難しかった? ぼくが頑張って考えたもん、当たり前だよね!」
鼻高々の橘は、そこから三十秒ほどえらく勿体ぶって、漸く正解を妹紅達に教えてくれた。
「正解は……”どちらもあおい文様に震え上がるでしょう”、でした!」
「……おー!」
「……判るかい!」
馴子は素直に感嘆の声を漏らし、妹紅は顔を顰めて吐き捨てた。
”葵”と”青い”ということらしい。確かに水戸黄門の印籠に刻まれているのは三つ葉葵だし、新撰組の隊服は青色*2だ。
水戸黄門の話をするなら、抑々徳川光圀は御三家の御隠居だ。町中を身分を隠して行脚したりなんてするわけがない(暗殺されようものなら一大事だ)。したとしても水戸の外に出ることはまずないだろう。それに彼は『大日本史』の編纂で大変忙しいはず。因みに、学問に感銘を受ける前の若い頃は非行の目立つ不良少年でそういうこともあったかもしれない、と言いたいが、無宿人を斬り殺したことがあるくらいにはやんちゃだったので勧善懲悪の物語の主人公にはなれないだろう。
新撰組については、件の隊服が一番のフィクション要素の一つだろう。実際に浅葱色のダンダラ羽織は新撰組の隊服だった*3のだが、血痕が飛ぶと非常に洗うのが面倒だったからか、黒ずくめの隊服を着ることの方が圧倒的に多かったそうな。
全くもって風情もへったくれもない上に読者諸賢の煌びやかな歴史観――江戸時代観をぶち壊すようなことを書いてしまったが、所詮これが正史というものである。
ただ、ご安心召されよ。幻想郷においては、紛い物の幻想こそが真実である。
水戸黄門様は権威を笠に着つつ助さんと角さんに命じて悪徳代官を懲らしめるし、新撰組も悪目立ちする恰好いい浅葱色の隊服を翻して白刃の下に朝敵を屠るのだ。
しかし馴子は橘の謎かけに大変感銘を受けたようで、橘を褒めそやしている。
その溢美に、橘も気をよくして踏ん反り返って胸を張っていた。
「橘くん、頭良いんだね! 私にもその謎かけの作り方、教えてくれない?」
「いいよ~! ねずっちさんほどは上手くできないけど、なれこさんにも教えてあげる!」
橘が調子に乗っても拗ねられるよりは実害はないので横槍を入れたりはしないが、橘の構ってムーブが過剰になるので馴子には少しセーブしてほしいものである。
橘も、謎かけを当意即妙に作れるくらいに頭が回るならもう少し振る舞いを正してほしいが……やはり、”頭が良い”というのは千差万別なのだろうか。
そんな妹紅の無言の祈りは通じず、本来の謎かけに魅入られた馴子は橘を持ち上げ、橘は更に得意になっていく。
流石に、橘が目的を見失う前に、と声を掛けることにした。
「……橘、もうそろそろ行かないか?」
「え~?」
「私ももう少し教えを乞いたいんですけど!」
「おいチミ! お宅が置いた謎かけジャンキーどうにかしてくれ!」
無限ループを切り上げようと掛けた声に渋い反応を返され、妹紅は今は結界を調べているだろうチミに愚痴を吐いた。当然チミから反応がある筈もないので、頭を掻きながら巧い方便を捻り出す。
「……じゃあ、今は橘先生が馴子に宿題を出したらどうだ? 帰って来るまでに謎かけ一つ作っておいて、橘先生が帰って来たら発表するとかさ」
「……先生……!」
「あ、それいいですね!」
慧音に頼まれて子守を度々するうちに、竹林で迷子を保護するたびに磨いてきた”子供を乗せる術”の面目躍如だ。正直帰って来たまたここを訪れるなんて面倒すぎるが、終わりの見えない足止めを食うよりは後回しの方が遥かにマシだ、と考えての提案だ。少し不安はあったが、目論見通り”先生”という言葉が橘の琴線に触れたらしく、橘はぱあっと一瞬曇った表情を晴れさせた。馴子も賛同してくれたので、漸くこの場から動けそうである。
……それに、橘のことなので案外、馴子との約束を忘れてくれるかもしれない。早く博麗神社に帰らなければいけないらしいのにしょっちゅうそれを忘れて道草を食うという一貫性の無さだ、面倒が少なくなるかも、という胸中は、そっと留めておく。
「じゃあ……なれこさん、行ってきてもいい?」
「妹紅さんがそう言ってるんだし、その方がいいんじゃない? しっかり宿題しておきますから、先生?」
「……! ――うん!」
漸く空気を読んでくれたらしい馴子の言葉で、橘が漸く軽い癖に重たい腰を上げてくれた。妹紅もちょっとした達成感と疲労感に、ほうと溜息を吐いた。
橘と共にピラミッドに向かって歩き出しつつ、軽く振り返って馴子に道を尋ねる。
「よし、それじゃ、出発するか。馴子、神殿の一番奥ってどう行けばいい?」
「入り口は四つあるんですけど、どこからでも同じ場所に通じてるそうなので、一番近い、南側から入ったらいいと思います。そこからは直進すればいいと思いますよ!」
「サンキュ、漸く道祖神らしいことしてくれたな」
「……確かに」
馴子が同意して苦笑するのを見遣ってから軽く手を振って、妹紅はそのまま浅間浄穢山内へと歩を進める。橘もひょこひょこ小さな足で妹紅に着いていき、入り口の直前で馴子を振り返って「楽しみにしてるからね~!」と大きく手を振り、馴子が手を振り返したのを見てピラミッドの中へと消えて行った。
「……さて、橘くんが帰って来るまでどれくらいか判んないけど、考えよっかな……でも、橘くんみたいな速さで作れるかな? やっぱり、あの子、あの感じで頭良いのかしらね。人間って、やっぱり凄いみたい」
そしてその場には、一人知恵を捻り続ける道祖神が残った。悩む声が、度々静寂を打っては消えていく。
「うーん……あ、”フグとかけまして鉄砲と説きます。その心は?”なんていいかも!」
謎かけのシーン、最初は”ゴキブリとかけまして政治家と説きます。その心は、どちらも新聞で叩かれるでしょう”という自作の謎かけを使おうかと思っていたんですけど、一応調べてみると偉大な先人方が既に作っていらしたようで、それをコピペするのはなぁ……と思い、急ピッチで新しい謎かけを作成しました。下手糞な謎掛けですが、どうぞ御寛恕下さい。
さて、かなり引っ張りましたが、次回からは漸く阿梨夜との邂逅編です。