貞操逆転世界で勇者パーティーの雑用やってます   作:恋狸

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風邪引きました。
短めです。


受け継ぐ呪い

 ──魔装騎士、レド。

 

 彼は三百年前の大戦を平定した英雄だった。

 純白の鎧を身に纏い、決して悪を許さず、殺生を好まない。

 

 その鎧には血の一滴も触れることは無い。

 部族間の争いから全てを巻き込み世界大戦へと発展した大戦争を、レドは誰一人として殺害することなく三万の軍勢を気絶させた。

 

 ()()()()大戦を鎮め、その後は話し合いによって、三十年続いたヴィヴァリアンの戦いは静かに終わりを告げた。

 

 魔装騎士レド。

 ひと読んで純白の騎士。

 

 彼はあまりにも英雄だった。英雄すぎた。

 彼は人間の善意を信じすぎた。

 

 人間の中には、悪意に満ち満ちた世界こそが幸福だという性悪説を体現したような者がいることを──レドは一つも想定していなかった。

 

「……なんとも、信じ難き」

 

 悪意はレドの妻と息子を殺した。

 下手人は、レドによって命を救われた者の一人だった。

 

「私はただ、皆が幸福であるよう願っていただけだ……」

 

 彼の思う幸福が、皆にとっての幸福であるとは限らない。

 生まれ持った"善意"という名の傲慢は、彼に仇なす"悪意"となった。

 

「ああ。なんとも信じ難き。許し難き。──願わくば、私亡き後もこの鎧が、何人(なんぴと)の悪意を滅することを」

 

 

 魔装騎士レド。

 其の鎧は死後、呪物へと転じた。

 

 《魔装騎士》の職業を持つ者に取り憑き、声を封じる。

 善行をしなければ、耐え難い頭痛に襲われる。

 その善行に応じて、所有者は徐々に呪いから解放される。

 

 嗚呼、勿論──善行とは、魔装騎士レドの価値観によるものである。

 

 

◇◇◇

 

 ──呪いのように……否、呪いが脳内に響く。

 

《汝、其の悪を滅せ。あの少年を盗みを働いた》

 

 呪いは魔装騎士レドの価値観を引き継ぎ、悪意に対する報復を彼以上のものにした。

 

 悪を滅せよ。

 

 ──すなわち、悪意のある者を全員殺せという意味である。

 

(嫌だよ。確かにあの男の子は盗みを働いたかもしれない。でも彼が盗んだのはこの街で圧政を敷いている貴族の宝。そんなヤツのために行動するなんて私はイヤ)

 

《ならばどちらも滅せよ》

 

(むちゃくちゃ言うよね、あなたも)

 

《滅せよ滅せよ滅せよ滅せよ》

 

(……っ、いったいなぁ……! ふふ、そろそろ諦めたほうが良いよ。歴代の所持者がどうであれ、私は私の主義を曲げない。痛めつけても、夢見が悪くても、この力を使う矛先は私自身で決めるから)

 

《…………滅せよ》

 

 

 ──第42代《魔装騎士》ファウ。

 彼女は歴代の魔装保有者と比べても、並々外れた精神力を有していた。その強さは鎧の干渉すらも痛苦に感じぬほどに。

 

 《魔装騎士》という職業を授かる条件は、当代において最も強き心を持っていることだ。それは善であっても悪であっても、自身の心の奥深くに根付いている強い主義があれば、条件は満たされる。

 

 だがしかし、歴代の《魔装騎士》は誰もが鎧の干渉に打ち勝つことができずに、皆鎧の言う通りに殺戮をする"善意の代行者"へと成り果てた。

 

 そして鎧の呪いから解放された時──

 

 ──自身のこれまでの"善行"を振り返り、皆自死を選んだ。

 

 

 しかしファウだけは違った。

 彼女は()()()()()()()という主義を掲げ、己の正道を曲げることは唯の一つとして無かった。どれだけ鎧が頭痛を引き起こそうと、眠る度に悪夢を見せようと、自分の道を貫いてみせた。

 

 ゆえに彼女は《魔装騎士》を授かってから八年が経過した今も、鎧の呪いから解き放たれていない。

 基本的にファウと鎧の意見は食い違うものの、稀に強大な悪意に対して意見が一致することもある。

 

 数少ない意見の一致により、ファウの呪いは少しばかりか抑えられ、ごく少ない時間であれば兜を外せる程度にはなっていた。

 

(私は守るんだ。守りきってみせるんだ。この意志さえあれば、絶対に私は鎧の干渉に屈することはない)

 

◇◇◇

 

《魔王を滅せよ》

 

(まあそれは賛成、かな。魔物の被害は多い。結局は元を叩くのが一番だよね)

 

《…………》

 

(ふふ、本当に意見が一致したら何も言わないよね。確かに歴代の所持者が鎧の言いなりになる気持ちは少し分かる)

 

 こうしてファウは当代の《勇者》を授かったカレンのパーティーに加入することになった。

 彼女の役目は"タンク"。魔物の攻撃を受け止め、仲間を()()大切な役目だ。彼女自身の主義にも反していない。

 

 彼女は放浪の旅で見知らぬ人間を悪意から守っていた。

 それはレドとは違い、相手の気持ちをしっかり考えた上での守護だ。彼女は人を守るという主義を掲げていたが、誰もが危険から守ってほしいと願うわけではないことを明確に理解していた。

 

 そんな彼女は初めて仲間を得た。

 呪いのせいで喋れなくても、姿を晒すことができなくとも、カレンとユウリはファウを笑顔で受け入れ、絆を育むことができた。

 

 それは例え、ユウリが心の声を読むことができなかったとしてもそうだろう、と自信を持って言えるほどに、ファウは二人を信頼していた。

 

 

────

 

 

「お願いします!! 俺をパーティーに入れてください!! 戦闘はできませんが、料理洗濯その他諸々の雑用全てを引き受けます!!!」

「ハァ?」

 

 旅をして数年、変な男の人が現れた。

 曰く、戦う力は持っていないが雑用で貢献すると。

 

(この人がパーティーに入るなら……うん、守らないと)

 

 こうしてファウは男を、仲間として見るのではなく、庇護の対象として扱うことにした。

 

 

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