比企谷八幡は呪いへ堕ちる。   作:NewSankin

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【3-2】結衣から八幡への連絡

【11月6日 午後】

大学のラウンジで、八幡は缶コーヒーを握りしめたまま、スマホの画面を睨みつけていた。

午前中の講義の内容など、一文字も頭に入っていなかった。頭の中を占めているのは、今朝の小町の異常な顔色と、あいつが発した「大丈夫」という空虚な言葉だけだ。

 

ブブッ、とスマホが短く震えた。

画面に表示されたのは、由比ヶ浜結衣からのメッセージだった。

 

『ヒッキー、やっはろー。あのさ、小町ちゃん最近どう? なんか体調悪そうだったりしない?』

 

その文面に、八幡の心臓がドクンと嫌な音を立てた。

結衣は、他人の感情の機微や、場の空気を読み取ることに異常なほど長けている。その彼女が、わざわざこんな連絡をしてくるということは、小町の放つ「異常なサイン」を確実にとらえている証拠だった。

 

八幡は少し迷った後、正直に文字を打った。

 

『正直、かなり悪そうに見える。今朝も顔色最悪だった。ただ、受験控えた年頃の妹に過干渉するのもどうかと思って、無理やり休ませられなかった』

 

送信すると、すぐに既読がつき、少し長めのメッセージが返ってきた。

 

『そっか……。なんかね、小町ちゃんのメッセージ、いつもみたいに明るいんだけど、すごく無理してる感じがして。上手く言えないんだけど、ただの風邪とかじゃない、もっと嫌な感じがするの』

『私じゃ上手く聞けないし、小町ちゃんも心配かけまいとして隠しちゃうと思うから』

 

数秒の沈黙の後、最後にもう一件、メッセージが届いた。

 

『小町ちゃんを守ってね。今、小町ちゃんを本当の意味で守れるのは、きっとヒッキーだけだと思うから』

 

「守ってね」

「守れるのはきっとヒッキーだけ」

 

その言葉が、八幡の胸に重く、鋭く突き刺さった。

そうだ。俺は何をためらっていたんだ。過干渉? デリカシー? そんなくだらない世間体や自意識のせいで、あの今にも倒れそうだった妹を見送ってしまったのか。

後悔が胃酸のように込み上げてくる。

 

八幡は立ち上がり、飲みかけの缶コーヒーをゴミ箱に叩き込むように捨てた。

即座に小町の連絡先を開き、メッセージを叩きつける。

 

『今どこだ』

『迎えに行く。一緒に帰るから』

 

数分間、既読がつかず、八幡の焦りが頂点に達しかけた頃、ようやく短い返信が来た。

 

『千葉駅前の〇〇モール。一階のベンチにいる。ごめん、ちょっと動けなくて』

 

「……クソッ」

 

八幡は鞄をひったくり、大学を飛び出した。

動けない。あの意地っ張りの小町が、そう自ら申告してくる時点で、事態は最悪のフェーズに入っている。

俺は何もしなかったわけじゃない。結衣の言葉に背中を押され、ちゃんと妹を守るために、迎えに行くという行動をとった。

だからこそ。だからこそ、この行動が「致命的に遅すぎた」という事実が、後に八幡の心をズタズタに引き裂くことになる。

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