比企谷八幡は呪いへ堕ちる。   作:NewSankin

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【3-6】撤収する燈二

【11月6日 夜】

 

自分の信奉者たちが一瞬にして皆殺しにされたというのに、燈二に焦りや怒りの色は微塵もなかった。

彼は血の海で痙攣し、意識を失いかけている八幡を見下ろし、口角を上げて小さく笑みをこぼした。

 

「……殺すには惜しい。いい兄ですね。あなたが絶望で完全に壊れていく顔が、楽しみになってきた」

 

燈二は踵を返す。

彼が逃げるわけではない。ただ、今日はもう十分に「味わった」から帰るのだ。圧倒的な強者の余裕だった。

 

「妹さんの顔も、また見に行きます。追うなら愛知へどうぞ」

 

立ち去る背中越しに、底冷えのする声が広場に響く。

 

「もっとも、その子が持てば、の話ですが」

 

燈二の気配が、パニックの喧騒と暗闇の中に、水に溶けるようにして完全に消えていった。

 

「……こ、まち……!」

 

八幡は、朦朧とする意識と、全身の骨が軋む激痛に耐えながら、血まみれの身体を引きずるようにして、小町の元へ這い寄った。

小町は仰向けのまま、虫の息で、浅く短い呼吸を繰り返している。口の端からは血が溢れ続け、全身を這い回る真っ黒な呪印が、彼女の命を文字通り削り取っていた。

 

『どうして!小町なんだ!……』

 

抱き起こした妹の身体は、信じられないほど軽かった。

腕は枯れ枝のように細く、体温は氷のように冷たい。もう、健康な女子高生の身体ではなかった。

 

「……お、兄……ちゃん……」

 

「喋るな。大丈夫だ、すぐ救急車を……」

 

「寒い……」

 

小町の焦点の合わない目が、虚空を彷徨い、やがて八幡の血まみれの顔を微かに捉えた。

 

「……ごめん、ね……お兄ちゃん……」

 

「謝んな。謝るな、小町!」

 

八幡は、小町の冷え切った手を、自分の血まみれの両手で強く握りしめた。

俺は結局、一番大切な妹を、目の前で理不尽に壊されるのを止めることができなかった。

 

「絶対……絶対に、なんとかするからな……!」

 

血塗れの広場で、八幡の悲痛な叫びだけが虚しく響き渡る。

 

『あの男、絶対に殺してやる!……』

 

八幡自身気づいていなかったが、八幡の術式『傷在転嫁』はデフォルトで反転術式が備わっているが、八幡本人が強弱を調整することはできない。怪我が大きいほど治癒力は強くはなるが、絶対に『完治』まではしないし、他人に対して反転術式を行使することはできない。

 

この術式は八幡を死ぬに死ねなくして、苦しみを長くする。

 

遠くから近づいてくる救急車の無機質なサイレンの音は、絶望の淵に取り残された今の八幡にとって、何の救いにも聞こえなかった。

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