比企谷八幡は呪いへ堕ちる。   作:NewSankin

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【7-2】死滅回遊の参加

【11月8日 朝】

 

『それじゃ、総則(ルール)発表しまーす! 長いけど聞いてね!』

 

コガネは空中でパタパタと羽ばたきながら、機械的な正確さと、ギャル特有の軽薄さを入り交じらせて朗読を始めた。

 

『一つ! 泳者は術式覚醒後、十九日以内に任意の結界(コロニー)にて、死滅回游への参加を宣誓しなきゃダメ!

二つ! それに違反した泳者からは、術式を剥奪しまーす! ちなみにこれ、実質的に死ぬからマジ気をつけて!

三つ! 非泳者は、結界に侵入した時点で泳者になっちゃうからよろしく!

四つ! 泳者は、他泳者の生命を絶つことで点(ポイント)をゲットできるっしょ!』

 

「……最悪だな」

 

八幡はギリッと奥歯を噛み締めた。

他泳者の生命を絶つ。要するに、殺し合いだ。この結界の中では、殺すことが正当なルールとしてシステム化されている。

 

『五つ! 点ってのは命の価値ね! 原則、術師は5点、非術師は1点!

六つ! 自分の点以外の100得点を消費して管理者(ゲームマスター)と交渉すれば、死滅回游に総則を1つ追加できちゃう!

七つ! 管理者は、ゲームが永遠に続かなくなるようなルール以外は、絶対それ認めなきゃいけないんだよね!

八つ! 参加、または点ゲットから十九日以内に得点の変動がないと……これまた術式剥奪でーす!』

 

「ふざけんな」

 

『アタシに言われても困るし! 規定に従ってもらうしかないんで!』

 

コガネは悪びれる様子もなく、パタパタと飛び回っている。

八幡は、家入の言葉の本当の重さをここでようやく理解した。これはただの捜索じゃない。殺すか殺されるかを強制される、逃げ場のない狂気の遊戯だ。

 

『……ってことで、ルール説明おわり! 参加意思の確認、いきまーす!』

 

「……ここから先は、あなた一人よ」

 

コガネの説明が終わると同時に、少し離れた位置に立っていた陽乃が、静かな声で告げた。

結界の中に入れば、非術師である陽乃も強制的にプレイヤーとして巻き込まれる。彼女がこれ以上、八幡に同行することはあり得ない。

 

「だから、もう一度だけ言うわ。……絶対に、死なないで」

 

陽乃の瞳の奥には、八幡の身を案じる優しさなど一切ない。ただ、自分が手塩にかけて送り出す最高の「兵器」を失いたくないという、強烈な執着だけが冷たく燃えている。

 

「死体になって戻られても、投資の回収ができなくて困るの」

 

「……」

 

八幡は、陽乃のその歪んだ期待を真っ向から受け止め、ただ前だけを見た。

 

「小町を助ける」

 

「ええ」

 

「燈二を殺す」

 

「そう。なら、這ってでも生きて帰ってきなさい。あなたの働きに期待しているわ」

 

これが、陽乃との第一段階の関係の区切りだった。

ここから先は、誰の庇護もない。たった一人で、呪いと悪意のるつぼに飛び込むのだ。

八幡は陽乃から完全に視線を外し、目の前の黒いドームを見据えた。

 

『それじゃ、泳者候補! 死滅回游への参加意思を確認するっしょ!』

 

コガネが、八幡の顔の前に迫る。

結界の中に入れば、もう二度と、あの日々には戻れない。

だが、迷いは一ミリもなかった。

無菌室で痩せ細り、黒い呪印に命を削られている小町の顔が脳裏に焼き付いている限り、俺の足が止まることなどあり得ないのだ。

 

「……ああ」

 

八幡は、ひどく静かで、どす黒い感情を込めて答えた。

 

「入る。……最初から、そのつもりだ」

 

『宣誓、受理したっしょ! それじゃ、いってらっしゃーい!』

 

コガネが空中でピカッと光った。

その瞬間、八幡が漆黒の結界の膜に足を踏み入れると同時に、世界がぐにゃりと歪んだ。

空間そのものが裏返るような強烈な浮遊感。ランダムな転送。結界の向こう側が、急に八幡の肉体を飲み込んだ。

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