比企谷八幡は呪いへ堕ちる。   作:NewSankin

47 / 55
【11-4】牧野の見立て

【11月10日 朝】

 

「お目覚めですか。少しは痛みが引きましたか?」

 

牧野は穏やかな口調で言いながら、八幡の傍らにしゃがみ込んだ。

 

「……あんたが、手当を?」

 

「ええ。まあ、大したことはできませんが。……あなた、すごいですね」

 

「は?」

 

「いえ、あの怪我と出血量で、ここまで歩いてこられたのが信じられなくて。……君の身体には、不思議な『力』が回っているみたいですね」

 

牧野の言葉に、八幡は警戒して目を細めた。

この男、ただの一般人じゃない。「力(呪力)」の存在を知っている。

 

牧野は八幡の鋭い視線を受け止めながら、内心で深く感嘆し、そして同時に強い危惧を抱いていた。

 

(……すごい才能だ。あんなデタラメな呪力の回し方で、致命傷を先延ばしにして戦い続けてきたなんて。正直、三級術師止まりの私からすれば、羨ましいくらいの器だ)

 

だが、だからこそ危うい。

この少年は、呪術の基礎知識も指導者も持たないまま、ただ己の命を削るような執念と、むき出しの生存本能だけでこの戦場を生き抜いてきたのだろう。

このまま血みどろの最前線だけで育ってしまえば、彼は確実に「人間」として壊れてしまう。

でも、彼の目にはまだ、川崎さんや避難民を気遣うような、人間らしい「迷い」の理性が残っている。

 

「……褒めるなよ。気持ち悪い」

 

「褒めているんじゃありません。……心配しているんです」

 

牧野の真っ直ぐな言葉に、八幡は居心地の悪さを隠すように、少しだけ目を逸らした。

 

牧野が他の避難民の様子を見に立ち去った後、八幡と川崎の間に、少しだけ気まずい沈黙が落ちた。

 

「……お前、看護師にでもなったのかよ」

 

「まだ大学生。……でも、ここじゃそれで十分すぎるくらいだよ。他に動ける大人が、牧野さんしかいないんだから」

 

川崎は、荒れた自分の両手を見つめながら、自嘲気味に笑った。

 

「……無理してるだろ」

 

「そっくりそのまま返すわ。あんたこそ、何背負い込んであんなボロボロになってんのよ」

 

互いに言葉は短く、刺々しい。だが、高校時代から変わらないそのぶっきらぼうなやり取りの根底には、「状況が最悪である」という痛切な共有認識があった。

 

「ゴホッ、ケホッ……!」

 

少し離れた場所で、ケイカが苦しそうに激しく咳き込む。

川崎は弾かれたように立ち上がり、妹の元へと駆け寄って背中をさすり始めた。その必死な姿を見て、八幡の表情が暗く曇る。

小町に重なるからじゃない。大切な日常の残骸を「守る側のしんどさ」が、痛いほど理解できたからだ。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。