比企谷八幡は呪いへ堕ちる。   作:NewSankin

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【12-1】避難所防衛戦

【11月10日 朝】

 

ドンッ……!!

愛知コロニー内部、旧市民会館の分厚いエントランスの扉が、外側から激しく打ち鳴らされた。

 

ミシッ、と蝶番が悲鳴を上げ、ドア枠のコンクリートから細かい粉塵がパラパラと零れ落ちる。

ただの人間が体当たりした程度で出る音や重さではない。扉の向こう側に、圧倒的な質量の「何か」が密集しているのが、肌を刺すような悪寒として伝わってくる。

 

「……来ます」

 

牧野が顔面を蒼白にしながら、低く呟いた。

 

次の瞬間。

 

バァンッ!! という破裂音と共に、重厚な両開きの扉が内側へと吹き飛んだ。

 

「ヒィィッ……!」

 

「キャアアアアッ!」

 

ホールに避難していた一般人たちが、恐怖に顔を歪めて悲鳴を上げる。

吹き飛んだ扉の向こう、白み始めた朝の光を背にして、どす黒いヘドロのような姿をした『病喰(やまいぐい)系』の下級呪霊の群れが、雪崩を打ってホール内へとなだれ込んできた。

 

膨れ上がった腐った肺のような巨大な胴体。不釣り合いなほど痩せ細った手足。

それらが、ゲホッ、ゴホッという、人間の苦痛に満ちた咳のような不気味な鳴き声を上げながら、床を這いずり、壁を伝って押し寄せてくる。

腐臭と、ひどく熱を帯びた濁った呪力の圧が、一気に避難拠点の空気を「死」へと傾かせた。

 

(……ただの自然発生じゃねえ)

 

八幡は、群れの最後尾の虚空に、見覚えのある極細の呪力線が張り巡らされ、切断されている痕跡を見た。紙屋の仕掛けた『誘導罠』の残滓だ。

誰かが意図的に、このおぞましい群れを、この拠点へとけしかけたのだ。

 

八幡は血糊のついたナイフを逆手に構え、吹き飛んだ入り口の正面へと歩み出ようとした。

 

「比企谷くん、ダメです!」

 

牧野が、八幡の血に染まった肩を掴んで必死に引き止めようとする。

 

「あなたは下がって! まだ動ける状態じゃない!」

 

牧野は八幡を後ろへ突き飛ばすようにして前に出ると、即座に背後の避難民たちへ向かって声を張り上げた。

 

「動ける人は一番奥の部屋へ! 子どもと重病人を優先して下げてください! 扉から離れて!」

 

牧野の身体から、微弱だが確かな呪力が立ち上る。彼は自身の呪力を薄い膜のように展開し、入り口付近の空間に『簡易的な結界(足止め)』を構築しようと試みた。

決して強固な盾ではない。呪霊の群れに触れられれば、数秒で破られてしまうような薄い膜。それでも、彼は自分が盾になることを一秒もためらわなかった。

 

その牧野の指示に呼応するように、川崎が弾かれたように動き出した。

 

「立てる人、こっち来て! 荷物は置いてって! ケイちゃん、あたしから絶対に離れないでね!」

 

川崎は、熱に浮かされるケイカの小さな手を強く引きながら、自力で動けない重病人の車椅子を必死の形相で押し始めた。

彼女の手は恐怖で小刻みに震えている。それでも、その足は絶対に止まらない。

 

(……お前ら)

 

八幡はその光景を見て、息を呑んだ。

自分は今まで、一人で戦っている気になっていた。一人で地獄を背負って、一人で汚れ役を引き受けているつもりだった。

だが違う。この絶望的な拠点には、自分以外にも「逃げずに踏ん張っている人間」が確かにいるのだ。

 

「ぼさっと見てないで、動けるなら手伝ってよ、比企谷……っ!」

 

重病人の肩を担ぎながら、川崎が血走った目で八幡を見て叫ぶ。その声には、不良ぶった虚勢は消え失せ、必死で縋るような響きが混ざっていた。

その声に、八幡の中でくすぶっていた黒い呪力が、爆発的な熱量を持って跳ね上がった。

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