比企谷八幡は呪いへ堕ちる。   作:NewSankin

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【12-3】八幡の才能

【11月10日 朝】

 

(……すごい)

 

牧野は、八幡の荒々しい、だが決して破綻しない戦いぶりを見て、強い衝撃を受けていた。

八幡は呪術に関して何も教わっていないはずだ。だというのに。

 

通路を絞り、群れをまとめて受ける。

倒した呪霊の残骸を意図的に残し、後続の足場を悪くして死角を潰す。

そして、自分の痛みを恐怖ではなく「怒り」と「反撃の起点」へと即座に変換する。

 

それらの高度な戦場判断を、この少年はすべて『感覚だけ』でやっているのだ。

粗い。危うい。だが、とてつもない速度で実戦に適応し、伸び続けている。

 

(ここまで戦場に適応できる人間は、そうはいない。しかも彼は今……)

 

牧野は、八幡の血に染まった背中を見た。

これほどの異能と、復讐心という強烈な原動力を持っていながら、彼は今、逃げることなく、赤の他人である病人と子どもたちを守るために『盾』として立っている。

 

(……この子は、死なせちゃいけない。そして、化け物にもしちゃいけない)

 

牧野は強く、そう誓った。

しかし、その牧野の祈りを嘲笑うかのように、八幡の戦線の均衡が崩れ始める。

 

「クソッ……切りがねえぞ……!」

 

八幡は焦燥感を募らせていた。

大胆に戦えている。呪力も、傷を負うたびに溢れてくる。

だが、「呪霊の核(急所)の位置」も、「効率的な祓い方」も知らない八幡の攻撃は、どうしても無駄な手数が多くなってしまうのだ。

 

致命傷を与えきれず、倒せるはずの呪霊に余計な反撃を許し、不必要な傷を負う。

さらに、エントランスの封鎖方法や、背後を守りながらの最適な位置取りのセオリーを知らないため、乱戦の中でどうしても『隙』が生まれてしまう。

 

「ギヒィッ!!」

 

一瞬の隙を突き、小型の呪霊が一匹、八幡の脇をすり抜けてホール内へと侵入しかけた。

 

「……させかよッ!」

 

八幡は無理な体勢から左手を伸ばし、その呪霊の足を掴んで強引に引き戻した。だがその反動で体勢が崩れ、別の呪霊の強烈な体当たりをまともに胸に受けてしまう。

 

(……倒せる。でも、守り切れない)

 

八幡は血を吐きながら、自身の「限界」を悟った。

呪力や感覚だけじゃ足りない。分からないものが多すぎる。

このままじゃ、俺が先に壊れるか、背後を抜かれるかのどちらかだ。

 

八幡の戦線が崩れかけているのを見て、牧野は自身の「切り札」を切ることを決断した。

 

(このままでは、比企谷くんが先に壊れる。だが、彼が倒れれば、この拠点の人間も全員死ぬ)

 

牧野自身には、あの大群を押し返すような強力な戦闘能力はない。

でも、「知識」なら渡せる。

今の彼に決定的に足りないのは、才能や呪力ではなく、戦うための『基礎(セオリー)』なのだ。

 

「比企谷くん! 少しだけ、そのままじっとしてください!」

 

牧野は、簡易結界の維持を放棄し、呪霊の群れが迫る最前線へと自ら飛び出した。

 

「は? おっさん、何考えて……!」

 

「あなたに、『足りないもの』を渡します!」

 

牧野は八幡の背中に強く手を当て、自身の術式を全開で発動させた。

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