「……?どういうことだ?」
メインモニターに映し出された映像を見て、紙屋は微かに眉をひそめた。
そこには、複合施設の地上にある搬入口と、その周辺の暗い路地が映っている。夜の闇の中、赤外線暗視モードに切り替わった緑色の映像。
だが、そこにいるはずの『侵入者』の姿が、どこにも映っていなかったのだ。
「おかしいですね。感知線は確かに反応したはずなんですが… 動物の誤検知ではありません。質量を持った人間が、確実にあのポイントを通過したはずです」
紙屋はキーボードを素早く叩き、搬入口から地下へ通じる階段、通路、そして通気口付近のカメラ映像を次々と切り替えていく。
第一通路。異常なし。
第二通路。異常なし。
第三通路……。
ザザッ……!
切り替えた瞬間、第三通路を映していたカメラの映像が、不自然なノイズとともに一瞬だけ乱れ、すぐに元の静止画のような誰もいない風景に戻った。
「……壊された? いいえ、違いますね。カメラそのものの物理的な破壊なら、映像の供給自体が完全に途絶えるはず。これはいったい……」
紙屋の神経質な顔に、明確な苛立ちの色が浮かんだ。
これは、カメラの視野の完全に「外側(死角)」から、呪力を使った何らかの干渉を受け、配線の信号だけを一時的にショートさせられたような、極めて専門的で緻密な処理だ。
私の監視網の外縁で、確かに私が配置した細工(トラップ)が一つ、また一つと無効化されて消えていっている。それなのに、肝心の「侵入者の姿」が、ただの一度もカメラのフレームに収まらない。
「ハッタリですか? 私を疑心暗鬼にさせるための、つまらない小細工か。それとも、私のカメラの配置と死角を、事前に完全に把握しているとでも……?」
紙屋は自身のこめかみを指でトントンと叩きながら、急速に思考を巡らせた。
あの粗雑で暴力的な八幡という少年に、こんな緻密な真似ができるはずがない。だとすれば、あの三級術師(牧野)が、私の監視の癖を見抜いて彼に指示を出しているのか。
「……見せない、というのなら。しょうがない、こちらも付き合ってあげましょう」
紙屋は、ただ見えない敵に怯えるような三流ではない。彼は即座に、この状況における「最も確実で安全な一手」を選択した。
無理に迎撃に出る必要はない。相手がどんな手品を使おうと、私の本体に辿り着けなければ何の意味もないのだから。
だが、その「最も確実で安全な一手」が自身の首を締めることは今の紙屋は知る由もなかった。