【11月10日 深夜】
「……なんで、ヒッキーなの?」
結衣が、震える声で問いただした。
「陽乃さんなら、お金も権力もいっぱいあるじゃない! もっと別の、呪術の専門家とか、優秀な大人を雇うことだってできたはずなのに……なんで、ヒッキーをそんな危ない目に遭わせるの!?」
その結衣の真っ直ぐな問いに対し、陽乃は少しだけつまらなそうに肩をすくめた。
「ガハマちゃん、現実を知らないのね。政府の裏側や、ごく一部しか知らない『呪術界』の専門家人材なんて、そう簡単にホイホイと雇えるわけがないのよ。彼らは閉鎖的で、金や権力だけじゃ動かない。コネクションを作るだけで何年、何十億とかかる世界よ。それに、高い金で雇っても、本当に使える保証なんてどこにもない」
「……」
「そんな面倒でコストのかかることを、今からゼロから始めるのは非効率でしょう? だから手っ取り早い『手駒』が必要だったの」
陽乃はソファの背もたれに寄りかかり、モニターの八幡を見つめた。
「その点、比企谷くんは最高だったわ。私は彼の『人となり』をよく知っている。ひねくれていて、でも根は優しくて、一度抱え込んだ責任は絶対に放り出さない。扱いやすさは折り紙付きよ」
まるで、買い付けた商品のスペックを語るような冷たさ。
「もちろん、彼がどんな力に目覚めるかは『ガチャ(運任せ)』だったけど。でも結果はどう? 専門家の評価では最高レアリティ(特級)ではないらしいけど、確実に対戦相手を泥仕合に引きずり込んで破壊する、SSR級の理不尽な力。状況次第では、格上すらも食い殺す可能性を秘めている。こんな異常な適性を持った『無所属の個体』が、私の目の前に転がり込んできたのよ」
陽乃の目が、狂気と支配欲に爛々と輝き始める。
「これ以上の運命があると思う? 私は彼を手に入れた。彼という最強のカードを使って、私は次の世界のルールを支配する。だから、手放す理由なんて一つもないわ」
雪乃と結衣は、陽乃のその狂った執着を聞いて、肌が粟立つような怒りと嫌悪を覚えた。
人を人として見ていない。ただの兵器、便利なカードとしてしか評価していない。
だが、ここで感情的に激昂して叫んでも、姉には届かない。
(……どう奪い返すか。それだけを考えなさい)
雪乃は冷静に深呼吸をし、感情の波を理性で押さえ込んだ。
姉がそこまで八幡に執着し、絶対の自信を持っているというのなら。その「自信」を逆手にとって、ゲームの盤面に引きずり出すしかない。