比企谷八幡は呪いへ堕ちる。   作:NewSankin

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【16-9】成立

【11月10日 深夜】

 

結衣の迷いのない覚悟を見せつけられ、雪乃は自身の弱さを恥じた。

私が言い出した勝負だ。私が姉を盤面に引きずり出したのに、姉の支配の深さに怯えて引くわけにはいかない。

 

ここで引けば、安全に元の日常へ帰れるかもしれない。

でも、その日常には、もう二度と比企谷八幡は存在しない。彼は永遠に姉の鳥籠の中で、偽りの幸せを与えられながら、兵器としてすり潰されていくだけだ。

 

雪乃は、結衣の横に並び立ち、陽乃を射抜くような冷たく鋭い視線で見据えた。

 

「……私も受けるわ。私たちの人生と未来、すべてベットしてあげる」

 

「ゆきのん……」

 

「由比ヶ浜さんの言う通りよ。比企谷くんは、そんなに簡単にあなたが思い描くような『都合のいい兵器』になんて成り下がらないわ」

 

雪乃は、姉の絶対的な支配に、自分自身の人生という最大級のチップを置いた。

 

「でも、姉さん。確認しておくわ。比企谷くんが踏みとどまったら、あなたは確実に彼から手を引く。私たちの人生にも干渉しない。……その約束は、絶対に守りなさい」

 

「ええ、もちろん。約束は守るわよ」

 

陽乃は、最高のおもちゃを手に入れた子どものように、無邪気に、そして酷薄に微笑んだ。

 

「じゃあ、これで勝負(ゲーム)は成立ね」

 

陽乃はパンッと一度手を叩き、嗜虐的な笑みを浮かべて宣言した。

 

「楽しみだわぁ。比企谷くんが私の可愛い兵器として完成して、あなたたちが私の用意した鳥籠の中で、一生彼を飼い慣らす歯車になる未来。……最高の組織図になりそう」

 

「……行くわよ、由比ヶ浜さん。これ以上、姉さんの戯言を聞く必要はないわ」

 

雪乃は陽乃の言葉を無視して背を向け、結衣とともに部屋の扉へと向かった。

これ以上、姉の狂気に付き合う必要はない。やるべきことは、ただ一つ。

あの黒い結界から出てきた八幡を、絶対に私たちのいる人間側に引き戻すことだけだ。

 

「気をつけて帰ってね〜。あ、明日の朝食、ルームサービス頼んでおいてあげようか?」

 

背後から投げかけられる陽乃のふざけた声を背に、二人は無言でスイートルームを後にした。

バタン、と重厚な扉が閉まる音が、廊下に鈍く響く。

 

扉が閉まった後、陽乃は再び一人きりになったスイートルームで、ワイングラスを手に取り、背後の巨大なモニターへと視線を戻した。

モニターの中では、八幡が紙屋の拠点へと向けて、夜の闇の中を疾走している。

 

「さて、比企谷くん」

 

陽乃は、グラスの縁を指でなぞりながら、愛おしそうに呟いた。

 

「あなたは……どっちを選ぶのかしらね」

 

ホテルのエレベーターを降りていく雪乃と結衣。

屈辱、恐怖、嫌悪。すべての負の感情が二人の胸の中で渦巻いているが、同時に、もう後戻りできない絶対的な覚悟の火が点火されていた。

すべては、八幡が踏みとどまると信じるしかない。私たちの声が、彼に届くと信じるしかない。

 

(負けない。絶対に、彼を取り戻す)

 

ホテルを出る二人の瞳には、陽乃の支配の闇すらも焼き尽くすほどの、強い決意の光が宿っていた。

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