比企谷八幡は呪いへ堕ちる。   作:NewSankin

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【17-4】不快な悪夢と綺麗なナイフ

【11月10日 深夜】

 

夢を見た。

 

ひどく断片的で、吐き気を催すような不快な悪夢だった。

 

視界は常に赤黒く濁っている。

 

目の前に、結界に入って最初に殺したナタを持った大柄な男の顔が浮かぶ。次に、俺の術式によって鎖骨を砕かれ、首の骨を折られて死んでいった燈二の配下たちの顔が次々とフラッシュバックする。そして最後には、驚愕に目を見開いたまま夜の闇を宙に舞う紙屋什路の生首が現れた。

 

彼らの死に顔が万華鏡のようにグルグルと切り替わり、俺の右手に握られたタクティカルナイフから、べっとりと温かい血がひっきりなしに滴り落ちている。

 

そして、その血溜まりの周囲を取り囲むのは、旧市民会館の避難民たちだ。

彼らは俺に向かって深く頭を下げ、感謝の言葉を口にしている。だが、その声はひどく歪んでいた。

 

『人殺し』

『よくも殺してくれたな、人殺し』

 

感謝の動作とは裏腹に、彼らの口から紡がれるのは呪いのような非難の言葉だった。

逆に、足元に転がる紙屋や配下たちの死体が、ニヤニヤと嘲笑うように俺を見上げている。

 

『ありがとう』

『俺たちを殺してくれて、ありがとう』

 

現実と狂気が完全に逆転した、不気味極まりない構図。

激しい頭痛にうなされながら振り返ると、そこには奥の部屋で熱に苦しむ川崎桂花と、無数の医療用の管に繋がれ、あの忌まわしい『命脈蝕印』の黒い斑模様に全身を侵食された妹・小町が並んで横たわっていた。

 

小町が、ゆっくりと首を巡らせて俺を見た。

 

その瞳はひどく虚ろで、まるで初めて見るバケモノに対するような、底知れぬ恐怖と嫌悪の色が浮かんでいた。

 

小町のひび割れた唇が動き、静かな声が脳内に直接響いた。

 

『お兄ちゃん、誰?』

 

 

【11月11日 午前1時前】

 

「っ……!」

 

八幡は、心臓を直接鷲掴みにされたような強烈な悪寒とともに跳ね起きた。激しい動悸。額からはじっとりと脂汗が滲み出ている。荒い呼吸を繰り返しながら、ここが旧市民会館のホールの片隅に置かれた簡易ベッドの上であることを、ゆっくりと認識していく。

避難拠点内は、不気味なほど静まり返っていた。時折、寝苦しそうな寝返りの音や、遠くでかすかな咳が聞こえるだけだ。少し離れた場所で、川崎がケイカの小さな身体に寄り添うようにして、パイプ椅子の上でうとうとと浅い眠りについている。起きているのは、入り口周辺の崩れたバリケードの近くで、ランタンのわずかな明かりを頼りに資料の整理や警戒を続けている牧野だけだった。

ふと視線を横に向けると、枕元の簡易机の上に、俺のタクティカルナイフが置かれていた。刃にこびりついていたはずの紙屋の血や脂は、丁寧に拭き取られ、元の鈍い銀色の輝きを取り戻している。川崎か牧野のどちらかが、俺が眠っている間に綺麗にしてくれたのだろう。

八幡は、その綺麗になったナイフを見つめ、ひどい違和感を覚えた。血は、布で拭えばこんなにも簡単に消えてしまう。殺人の証拠は何も残らない。だが、右手のひらに残る、人の肉と骨を断ち切ったあの生々しい感触だけは、どれだけ洗っても、拭っても、絶対に消えることはない。俺の脳髄に深く、真っ黒に刻み込まれてしまっている。八幡はベッドからゆっくりと身を起こし、音を立てないように牧野の元へと歩み寄った。牧野は八幡の気配に気づき、静かに顔を上げた。

 

「……起きましたか。傷の具合は」

 

「……塞がってはないが、動ける」

 

八幡は牧野の向かいの瓦礫の上に腰を下ろし、ランタンの火を見つめたまま、唐突に、自分の中に溜まっていた毒を吐き出すように告白した。

 

「俺、紙屋を殺して、安心した」

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