【完結】100トンホシノ先輩の規格外な日常   作:ていん?が〜

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別作品のアル社長とは毛色の違うコメディ作品です。
アル社長と同じく毎日18時05分に投稿します。


第1話:おじさんのステップは、マグニチュード3

 アビドス高等学校の朝は、規則正しい「振動」から始まる。

 

 校門近くのカフェで優雅にコーヒーを飲んでいた市民たちは、カップの表面に細かな波紋が立つのを見て、時計を見ずともそれが「彼女」の登校時間であることを悟る。

 

「うへ〜、今日もいい天気だねぇ。おじさん、歩いてるだけでお腹が空いちゃったよ」

 

 ピンク色の髪をなびかせ、眠たげな目を擦りながら歩道を進む少女、小鳥遊ホシノ。その足が地面に触れるたび、ドォン、ドォンと重低音が響き、アスファルトにはうっすらとクレーターのような足跡が刻まれる。

 

 

彼女の体重は現在、ジャスト100トン。

 

 

一歩踏み出すごとに、中型戦車がプレス機にかけられたような圧力が大地を襲う。

 

「おはよ、ホシノ先輩。今日も絶好の強奪……じゃなくて、登校日和」

 

 背後から軽快に駆け寄ってきたのは、砂狼シロコだ。

 彼女はホシノの横に並ぶが、決してその体に触れようとはせず、正確に二メートルの「安全距離」を保っている。

 かつて、親愛の情を込めて肩を叩こうとした者が、反作用だけで粉砕骨折しかけた歴史を熟知しているからだ。

 

「ん、シロコちゃんもおはよ〜。相変わらず元気だねぇ。若いって素晴らしいよ、ホント」

 

「ホシノ先輩もまだ17歳。おじさんじゃない。……それより先輩、今日のステップ、少し重い? 0.5ミリくらい、地面の沈み込みが深い気がする」

 

「あちゃー、バレた? 昨日、ノノミちゃんがくれた高級クッキーが美味しくてさぁ。つい食べ過ぎちゃったかな。おじさんの成長期、まだ続いてるみたいなんだよね」

 

 ホシノが笑いながら頭を掻くと、その腕が空気を切り裂く音だけで「ヒュンッ」という暴風が巻き起こる。

 

 

 

 二人が校門をくぐると、そこにはかつての廃校寸前の面影など微塵もない、豪華絢爛な校舎がそびえ立っていた。

 ゲマトリアの黒服が「ホシノの毛髪一本につき1億クレジット」という狂ったレートで借金を清算し、さらに研究費として投資し続けた結果、アビドスは今やキヴォトスで最も予算を持つマンモス校の一つとなっていた。

 

「あ! ホシノ先輩、シロコ先輩! おはようございます!」

 

 校舎の入り口で、一年生の黒見セリカと奥空アヤネが待っていた。

 

「セリカちゃん、アヤネちゃんもおはよ〜。朝からシャキッとしてて偉いねぇ」

 

 セリカは勢いよく駆け寄り、「ちょっと、生徒会長なんですから、シャキッとしてください!」とホシノの肩を叩こうとする。

 

 

「――っ! セリカ、止まれ!」

 

 

 シロコが神速のタックルでセリカを突き飛ばした。

 セリカは派手に地面を転がり、「痛い! 何するんですかシロコ先輩!」と憤慨する。

 

 

「……死ぬぞ。ホシノ先輩に迂闊に触れるのは、走行中の列車に素手で挑むより無謀」

 

 

真顔で告げるシロコの言葉に、セリカは入学初日の恐怖を思い出し、顔を青くして震え上がった。

 

「あ、あはは……。ごめんなさい、つい。ホシノ先輩があまりに普通に歩いてるから……」

 

「いいんだよセリカちゃん。おじさんは気にしてないからね。でも、シロコちゃんの言う通り、おじさんの体はちょっと『頑固』だから。君たちの柔らかい手が壊れちゃうのは、おじさんも悲しいしねぇ」

 

 ホシノはのんびりと笑いながら、生徒会室へと向かう。

 廊下は特別仕様の強化合金で補強されているが、それでも彼女が歩くたびに「ギギギ……」と悲鳴を上げる。

 

 生徒会室の扉を開けると、そこには既に十六夜ノノミがティーセットを準備していた。彼女もシロコ同様、ホシノが座る予定のソファから数メートル離れた位置で優雅に会釈する。

 

「あ、ホシノ先輩。おはようございます〜☆ 今日も100トン級の可愛さですね!」

 

「うへ〜、ノノミちゃん。その挨拶、物理的に重いから勘弁してよ。……おや、先客がいるね?」

 

 そこには、礼儀正しくソファに座り、ノノミが淹れた最高級の紅茶を嗜んでいる黒いスーツの男――黒服がいた。

 彼はホシノが入室した瞬間にカップを置き、居住まいを正した。

 

「おやおや、素晴らしい。今日の貴女の質量密度、昨日よりも0.02%向上していますね。まさに神秘の極致……。あぁ、触れたい。その高密度の細胞を顕微鏡で覗きたい……!」

 

「黒服さん、朝から相変わらずだねぇ。おじさんの体、そんなに珍しい? どこにでもある100トンの女子高生だと思うんだけど」

 

「どこにもありませんよ、そんな存在!! 貴女が歩くたびにこの地区の地価が振動係数で変動するんです。素晴らしい、実に素晴らしい投資対象だ!」

 

 黒服は興奮して立ち上がるが、ホシノが「よっこいしょ」とソファに座った瞬間、部屋全体が震度4の縦揺れに見舞われた。

 

「わわわっ! ホシノ先輩、座る時はゆっくり、っていつも言ってるじゃないですか!」

 

 アヤネが眼鏡を必死に押さえながら、三メートル離れたデスクから叫ぶ。

 

「ごめんごめん、つい重力に従っちゃってさ。……あ、そうだ。今日はユメ先輩が来る日だったっけ?」

 

その言葉が終わるか終わらないかのうちに、生徒会室のドアが勢いよく開いた。

 

「ホシノちゃ〜〜ん! 遊びに来たよ〜!」

 

現れたのは、アビドスのOGであり、かつての生徒会長、梔子ユメだ。彼女は卒業後も頻繁にこうして母校を訪れている。

 

「あ、ユメ先輩。おはようございます。今日も相変わらずお元気そうで」

 

 ホシノが少しだけ居住まいを正し、敬語で挨拶する。彼女が唯一、頭の上がらない存在だ。

 

「もう、相変わらずホシノちゃんは可愛いねぇ! よーし、よしよし!」

 

 ユメは躊躇なくホシノに近づき、その頭をなで回した。

 

 黒服やシロコたちが「ヒッ……!」と息を呑む。100トンの質量を持つホシノの頭部は、文字通り金剛石以上の硬度を持っている。

 普通の人間が触れれば、摩擦だけで指の皮が持っていかれる。

 

 だが、ユメは平然と笑っていた。

 

「えへへ、ホシノちゃんの髪、今日もツヤツヤだね!」

 

「ユメ先輩……。おじさん、もう子供じゃないんですから」

 

 ホシノは照れくさそうに笑う。その光景は、物理法則を無視した奇跡のように見えた。

 

「それより、今日は観光客の入りはどうですか?」

 

「絶好調だよ! 『歩くパワースポット・100トン女子高生』を見ようって、カイザーシティからもバスが出てるんだから。ホシノちゃんが歩くだけでアビドスにお金が落ちるんだよ? すごいよねぇ」

 

「おじさん、いつから見世物になったのかなぁ……」

 

 ホシノは遠い目をしながら、ノノミが淹れてくれたお茶を啜った。

 ちなみに、ホシノが使う湯呑みは特注の超高密度セラミック製。市販の磁器だと、彼女が指でつまんだ瞬間に分子レベルで崩壊してしまうからだ。

 

 その時、学校の警報が鳴り響いた。

 モニターに映し出されたのは、アビドスの繁栄を妬んで襲来したヘルメット団の大群だ。その数、およそ2000。戦車も数両確認できる。

 

「大変です! 敵襲です! 迎撃体制を――」

 

 アヤネが慌てて指示を出そうとするが、ホシノは「ふぁあ〜」と大きなあくびをして立ち上がった。

 

「いいよいいよ、アヤネちゃん。おじさん、ちょっと運動してくる。最近、足腰に肉がついちゃった気がするからねぇ」

 

「ホシノ先輩、一人で大丈夫?」

 

 シロコが尋ねるが、その声に緊張感はない。

 

「ん、大丈夫。今日は銃、置いていくから。……重いもんね、あれ」

 

 ホシノは手ぶらで外に出た。

 

 

 

 校門前では、ヘルメット団が叫んでいる。

 

「おい! あのピンク髪が出てきたぞ! 構えろ! 撃てえぇぇ!!」

 

 一斉射撃。数千発の銃弾がホシノに降り注ぐ。

 だが、次の瞬間、ヘルメット団は己の目を疑った。

 

 ホシノに当たった銃弾は、火花を散らすことすらなく、まるでガラス細工がコンクリートに叩きつけられたかのように「パリンッ」と粉々に砕け散ったのだ。

 

「うへ〜、ちょっとチクチクするねぇ。痒いところに手が届かない感じかな?」

 

 ホシノはゆっくりと歩を進める。

 一歩。

 

 

 ドォォォォン!!

 

 

 

 地響きだけで、先頭のバイク部隊が転倒する。

 

「な、なんだあの重圧は!? 攻撃が効かないぞ! 巡航ミサイルをぶち込め!」

 

 発射されたミサイルがホシノの胸元に直撃する。

 大爆発。

 

 爆煙が晴れた後、そこには服に少し煤がついた程度のホシノが、相変わらず眠たげな顔で立っていた。

 

「あーあ、制服汚れちゃった。ノノミちゃんに怒られちゃうなぁ。……じゃあ、おじさんも『ステップ』踏んじゃおうかな」

 

 ホシノはその場で、軽く、本当に軽く、小指の先ほどの力加減で地面を蹴った。

 彼女にとっての「軽いステップ」。

 

 だが、100トンの質量が物理法則に従って生み出すエネルギーは、局所的な大地震と同義だった。

 

 

 ズゥゥゥゥゥゥン!!!

 

 アビドス全域を襲う激震。

 

 

 ヘルメット団は空中に跳ね上げられ、戦車は地割れに飲み込まれた。

 爆風などではない。ただの「足踏み」による振動波だけで、敵軍は全滅した。

 

「ふぅ。いい運動になったねぇ。さて、帰ってお昼寝しよっと」

 

 ホシノは鼻歌混じりに校舎へ戻っていく。

 その背中を見送りながら、黒服は狂ったようにノートに数値を書き殴っていた。

 

「素晴らしい……! 今の一踏みで放出されたエネルギー、戦術核数個分に相当しますよ! 素晴らしい、小鳥遊ホシノさん! 貴女こそがアビドスの、いやキヴォトスの不動の重心だ!」

 

「黒服さん、うるさい。……ホシノ先輩、おかえり。お昼ごはん、エビフライの特盛り用意してある」

 

 シロコがそう言うと、ホシノは目を輝かせた。

 

「うへ〜、さすがシロコちゃん! 分かってるねぇ。おじさん、お腹ペコペコだよ」

 

 100トンの体格を維持するためには、相応のカロリーが必要だ。

 アビドスの食堂には、彼女専用の「100キロ単位」で提供されるメニューが並んでいる。

 

 こうして、アビドスの平和は今日も守られた。

 一人の「重すぎる」少女の、軽やかなステップによって。

 

「あ、ホシノちゃん! また足跡で道路に穴開けたでしょ! 後で一緒に埋め立てるよ!」

 

「えぇ〜、ユメ先輩、おじさんお昼寝したいんだけどなぁ……」

 

 巨大な富と、圧倒的な武力と、そして何より「重い」愛に包まれて。

 アビドス生徒会長、小鳥遊ホシノの日常は、まだ始まったばかりである。




【おじさんの「重い」お悩み相談】

 うへ〜、第1話からおじさんの『質量』に付き合ってくれてありがとう。
でも、まだまだおじさんの『密度』が足りないみたいなんだよねぇ。

「この子と遊んでほしい!」とか「こんな地響きが見たい!」っていうリクエスト、感想欄に置いていってくれないかな?

 全部に応えるのはちょっと肩(100トン)が凝っちゃうけど、おじさんの琴線……いや、質量に触れたものは、全力の衝撃波を乗せて形にするよ。

 あ、そうそう。評価とかお気に入りとか……そういう『応援の重み』を貰えると、おじさんの筆……じゃなくて質量がもっともっと増えて、さらに凄い地響きが書ける気がするんだ。

 みんなの『重すぎる愛(リクエストや評価)』、待ってるね〜。
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