【完結】100トンホシノ先輩の規格外な日常   作:ていん?が〜

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第10話:おじさんの指先は、コントローラーの墓場

 アビドス高等学校の生徒会室。

 

 かつては廃墟同然だったこの場所も、今や黒服の惜しみない投資とホシノの「存在感」によって、キヴォトスで最も堅牢かつ豪華な一室へと生まれ変わっていた。床は超高密度コンクリートで補強され、壁には特殊な防震材が埋め込まれている。

 

 そんな部屋の中に、不釣り合いな電子音が響き渡っていた。

 

 「うへ〜、おじさんこういうハイテクな機械は疎いんだけどなぁ。でも、ミレニアムのモモイちゃんたちが『アビドス専用に特別補強した最新型』だって言い張って置いていったし、ちょっと触ってみようかな」

 

 ホシノは特注の強化ソファに「よっこいしょ」と腰を下ろした。その瞬間、ソファの脚が床に数ミリめり込み、室内の空気が「ドスン」と震える。

 彼女が手に取ったのは、ゲーム開発部が心血を注いで開発した、対ホシノ用デバイス――通称『タングステン・マスター』である。

 

 「ホシノ先輩、準備完了。……ソフトは対戦格闘ゲーム『スレイヤー・モンキーⅣ』。ん、相手は私。手加減は無用。真っ向から叩き潰す」

 

 副会長のシロコが、ホシノから正確に3メートルの距離を保ち、自分用のコントローラーを構える。彼女の足元には衝撃吸収マットが敷き詰められていた。

 ホシノが放つ「無意識の衝撃」に巻き込まれて人生のゲームオーバーになるのを防ぐための、アビドス生徒会共通の防衛策だ。

 

 「あはは、シロコ先輩、また無茶なこと始めて……。ホシノ先輩、そのコントローラー、一個で数百万クレジットもする限定品なんですからね! 壊しちゃダメですからね! だよね、アヤネちゃん!」

 

 会計のセリカが、ハラハラした様子でモニターを見守る。

 

 「そうだね、セリカちゃん。……でも、モモイさんたちの執念を感じるよ。見て、あのコントローラー、厚みが5センチもあって、外装は戦車のハッチと同じ装甲板でできているみたい。もはや電子機器というより、超小型の金庫だね」

 

 書記のアヤネが眼鏡の位置を直し、手元の端末で室内の振動係数をモニタリングしながら戦慄していた。

 

 「よし、おじさん行くよ〜。えいっ」

 

 カウントダウンと共に試合が開始された。ホシノは画面上のキャラクターを右へ動かそうと、親指を方向キーに添え、ごく自然に、羽毛を撫でるような力加減で押し込んだ。

 

 

 メキョッ。

 

 鈍く、重苦しい金属の破壊音が室内に響いた。

 

 

 「……あ。……やっちゃった?」

 

 ホシノが眠たげな目を丸くして手元を見る。

 

 最高強度のタングステン合金。本来ならば小型船舶のスクリューや戦車の弾芯に使われるはずのその金属が、ホシノの親指の指圧に耐えきれず、まるで粘土細工のようにひしゃげていた。

 ボタンは内部の基板を貫通し、さらにコントローラー背面の鋼鉄プレートまで突き抜けて、ホシノの膝の上に転がり落ちている。

 

 モニターの中のキャラクターは、一瞬だけ光速に近いステップを踏んだかと思うと、そのまま真っ暗な画面に「SYSTEM ERROR」の文字を吐き出してフリーズした。

 

 「ん、ホシノ先輩の勝ち。……物理的な干渉によって、ハードウェアの演算能力を物理的に停止させた。判定、機体損壊によるテクニカルノックアウト」

 

 シロコが静かに自分のコントローラーを置く。彼女のキャラクターはまだ体力ゲージが満タンだったが、肝心の本体側が、ホシノの指圧から発生した微細な「指向性衝撃波」によって、内部チップのはんだが全て剥離してしまっていた。

 

 「ちょっとぉぉぉ!! だから言ったじゃないですか!! ホシノ先輩、自分の指先のスペックを自覚してください! 指先一つで時速200キロのピッチングマシンと同じ衝撃が発生してるんですよ!?」

 

 セリカが頭を抱えて絶叫する。

 

 「うへ〜、ごめんごめん。おじさん、これでも朝露を壊さないくらいの慎重さで動かしたつもりだったんだけどなぁ。100トンの体重を支えながら日常を送っているこの指先は、どうやら繊細なデジタル娯楽には向いてないみたいだねぇ」

 

 ホシノは申し訳なさそうに、ひしゃげた合金の塊を机に置いた。それだけで、机に小さなクレーターができる。

 

 「あはは! ホシノちゃん、また壊しちゃったの? だったら、ゲーム機の外側に、もっともっと厚いクッションを何重にも巻けばいいんじゃないかな?」

 

 どこからともなく、ひょっこりとユメが姿を現した。彼女は楽しそうに、ホシノが壊したタングステンの残骸を覗き込む。

 

 「ユメ先輩……。そんなことしたら、今度は物理的に指がボタンまで届きませんよ……。第一、クッションを介しても、ホシノ先輩の圧力はそのまま透過して精密機械を粉砕します」

 

 アヤネが冷徹に、かつ絶望的な事実を告げる。しかし、ホシノはまだ諦めていなかった。

 

 「うへ〜、まだ予備のコントローラーはあるよね? よし、次はもっと気をつけて……。今度は人差し指一本だけを使って、そぉっと、そぉっと……触れるか触れないか、空気の振動だけで操作する感じで……」

 

 ホシノが慎重に、新しいコントローラーへ手を伸ばした。彼女の神経は研ぎ澄まされ、周囲の空気さえも緊張で凝固したかのようだった。

 

 だが、その極限の集中が、予期せぬ事態を招く。

 ホシノが腕を動かした際、彼女の制服の袖が、ほんの数ミリ、机の角を掠めた。

 

 

 ドゴォォォォォン!!

 

 

 ただの衣類の擦過音。本来なら「シュッ」という音で済むはずの事象が、100トンの質量を持つ物体が動いた際の慣性エネルギーを伴うことで、超音速のソニックブームへと変貌した。

 

 爆圧が室内を吹き抜け、生徒会室の防弾窓ガラスが、内側からの圧力に耐えきれず全て外側へと粉々に弾け飛んだ。校庭にいた生徒たちが「テロか!?」と武器を構える。

 

 「…………うへへ。おじさん、やっぱりゲームは向いてないみたい。文明の利器は、おじさんにはまだ早すぎたかなぁ。やっぱりお昼寝が一番だよ」

 

 ホシノは早々にコントローラーを放棄し、自分の重みで床に深くめり込んだ「お昼寝用特等席」のクッションへと、ゆっくり(震度2程度)と体を沈めた。

 

 「ん、ホシノ先輩。……英断。ゲームより、睡眠。……お昼寝ゲームなら、私も参加する。……ルールは、先に深い眠りに落ちた方が勝ち。賞品は、次回のエビフライ増量権」

 

 シロコがホシノの衝撃半径から外れた位置に寝袋を広げ、慣れた手つきで潜り込む。

 

 「もーー!! 二人とも全然反省してないじゃない! アヤネちゃん、窓の修理費、またあの黒服の人に請求書送っておいて! 『生徒会長の余暇活動に伴う設備摩耗費』って名目で!」

 

 「了解、セリカちゃん。……もう、宛先は登録済みだよ。月額予算として計上しておいたから、大丈夫」

 

 アヤネが死んだ魚のような目でキーボードを叩く。彼女にとって、ホシノの日常が引き起こす天災レベルの被害は、もはや「避けられない固定資産税」のようなものだった。

 

 アビドスの午後は、割れた窓から入り込む熱い砂漠の風と、100トンの少女が放つ、大地を揺るがすような安らかな寝息と共に、のんびりと過ぎていくのだった。




【おじさんの「重い」お悩み相談】

 うへ〜、読み進めてくれてありがとう。おじさん、嬉しいよ。
でも、まだまだおじさんの『密度』が足りないみたいなんだよねぇ。

「この子と遊んでほしい!」とか「こんな地響きが見たい!」っていうリクエスト、感想欄に置いていってくれないかな?

 全部に応えるのはちょっと肩(100トン)が凝っちゃうけど、おじさんの琴線……いや、質量に触れたものは、全力の衝撃波を乗せて形にするよ。

 あ、そうそう。評価とかお気に入りとか……そういう『応援の重み』を貰えると、おじさんの筆……じゃなくて質量がもっともっと増えて、さらに凄い地響きが書ける気がするんだ。

 みんなの『重すぎる愛(リクエストや評価)』、待ってるね〜。
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