【完結】100トンホシノ先輩の規格外な日常   作:ていん?が〜

14 / 30
第14話:おじさんの美食は、超圧縮の隠し味

「うへ〜、みんな見てよこれ。ゲヘナの自治区に、深海産の巨大車海老を使ったエビフライ専門店がオープンしたんだってさ。おじさん、これを見た瞬間に胃袋がキュンとしちゃったよぉ〜」

 

 アビドス高等学校、生徒会室。ホシノが差し出したタブレットには、黄金色に輝く、まるで鈍器のような太さのエビフライが山盛りに映し出されていた。

 

 「ん、ホシノ先輩。……ゲヘナへの遠征、軍事的リスクが高い。……移動による路面破壊の賠償金、およびゲヘナ風紀委員会との物理的接触。ん、慎重な判断が必要」

 

 副会長のシロコが、既に防弾仕様のサイクリングウェアに袖を通しながら、冷静に(しかしやる気満々で)告げる。彼女はホシノから二メートルの安全距離を保ち、地図上で「ホシノが通っても地盤沈下で全壊しないルート」を検索し始めていた。

 

 「ちょっと先輩! ゲヘナなんて、ただでさえ物騒なところなのに! 先輩が歩いたら、それこそ宣戦布告と間違われて全面戦争になっちゃうわよ!ねぇ、アヤネちゃん!」

 

 「だね、セリカちゃん……。でも、ホシノ先輩の食欲は一度火がつくと、物理的な制止が効かないから。……分かりました。ゲヘナ当局には既に『移動性大規模災害』としての通過申請を出しておきます。……あ、受理されました。返信には『街が消えないことを祈る』とだけ書かれていますね」

 

 書記のアヤネが胃を押さえながら、ノートPCを叩く。こうして、アビドスが誇る「100トンの歩く要塞」による、美食のための強行軍が決定した。

 

 

 

 

 

 ゲヘナ学園、中央自治街区。

 そこには、かつて見たこともないような「厳戒態勢」が敷かれていた。

 

 「全員、直ちに地下シェルターへ避難しなさい! 窓ガラスには防振テープを貼り、重い家具からは離れること! これは演習ではない、繰り返す、これは演習ではない!」

 

 ゲヘナ風紀委員会の一般委員たちが、拡声器を手に必死の形相で叫んでいる。

 街の目抜き通りには、緊急用の免震ジャッキが数百本単位で設置され、路面には戦車の履帯を保護するための超強化ゴムマットが何重にも敷き詰められていた。

 

 「来ます! 境界線突破! 震動波、第1波感知!!」

 

 

 ドォォォォォン……!

 

 

 遠く地平線の彼方から、心臓を直接揺さぶるような重低音が響いてくる。

 一歩ごとに、ゲヘナの由緒ある古いビルが「ミシミシ」と悲鳴を上げ、街中の防犯アラートが一斉に鳴り響いた。

 

 「うへ〜、ゲヘナの街も歓迎ムードだねぇ。おじさん、ちょっと照れちゃうよ」

 

 ホシノが鼻歌混じりに、エビフライの看板を目指して歩みを進める。彼女が足を下ろすたびに、厚さ数メートルの強化マットが飴細工のように平らになり、その下の地盤が数十センチ沈み込む。

 

 「歓迎じゃなくて、最大級の警戒よ、先輩! ほら、あっちでアコさんが白目を剥いて倒れてるじゃない!」

 

 セリカが指差した先では、行政官の天雨アコが、震動で倒壊した銅像の下敷きになりかけながら、震える手で「損害賠償請求書」を書き溜めていた。

 

 

 

 ようやく辿り着いた、エビフライ専門店『海老の神秘』。

 

 店の前には、なぜか見覚えのある四人の少女たちが立っていた。

 ゲヘナが誇る歩く食欲、美食研究会である。

 

 「あら、あらあらあら……。これは奇遇ですわね、アビドスの『100トン・ミート』……いえ、小鳥遊ホシノさん」

 

 部長の黒館ハルナが、優雅に日傘を回しながら会釈する。

 

 「ハルナちゃんたちもお昼ごはん? おじさんと一緒だねぇ。あいにく、今日のおじさんは食材じゃないよ?」

 

 「分かっておりますわ。今日は、この店の店主が心血を注いだという『深海エビ』を堪能しに来たのです。……さあ、参りましょう。究極の美食の前では、所属も質量も些細な問題ですわ」

 

 美食研究会とアビドス生徒会という、キヴォトスで最も混ぜてはいけない二組が同時に店内に足を踏み入れた。

 

 

 ズゥゥゥゥゥン!!

 

 

 「ひぃぃぃぃぃぃっ!? じ、地震!? それとも爆破テロですかぁ!?」

 

 ホシノが店内の「特注・耐荷重仕様」のはずの椅子に腰掛けた瞬間、店長がカウンターの奥で悲鳴を上げた。

 店内のグラスが全て共鳴して割れ、壁のメニュー札がパラパラと剥がれ落ちる。

 

 「ごめんね店長さん。おじさん、座る時にちょっと重力が仕事しすぎちゃってさ。気にせず、一番大きいエビフライを10人前、お願いね」

 

 「じ、10人前……!? あ、はい! ただいまぁ!!」

 

 恐怖で顔を真っ青にした店長が、震える手で超巨大な海老を油の中に投入する。

 その横では、アヤネとセリカが「店内の什器補修費、および精神的苦痛への慰謝料」と書かれた札束をカウンターに積み上げていた。

 

 「うへ〜、これだよこれ。サクサクの衣の中に、プリップリの身が詰まってる…。このために生きてるようなもんだよぉ」

 

 ホシノは、自分の一口で、一般人の頭ほどの大きさがあるエビフライを幸せそうに頬張った。

 彼女が咀嚼するたびに、店全体が「ガチッ、ガチッ」という金属音のような音を立てて揺れる。100トンの噛み合わせは、もはや工業用粉砕機に近い。

 

 一方、その隣でエビフライを口に運んでいたハルナの表情が、次第に険しくなっていった。

 

 「……納得いきませんわ。この味……。」

 

 「えっ、会長? 美味しいよ、これ!」

 

 イズミが顔中にタルタルソースを塗りたくりながら言うが、ハルナは静かにフォークを置いた。

 

 「いいえ、イズミさん。素材は最高です。ですが、作り手の心に『濁り』がある。……そう、先ほどからずっと、この店長さんの魂は『恐怖』に支配されている。死を恐れながら揚げたエビフライなど、美食の名を汚す冒涜ですわ!」

 

 「ちょ、ちょっとハルナさん!? 何を――」

 

 アヤネが言い終わる前にハルナがどこからともなく、起爆装置のついた特殊爆弾を取り出し、店の中央に放り投げた。

 

 「美食の追求に妥協は許されません。この不浄な空間ごと、一度浄化する必要がありますわ!」

 

 「店長、逃げてーー!!」

 

 セリカが叫ぶ。爆弾のタイマーが非情にも「00:01」を指したその瞬間――。

 

 

 ひょい、と。

 

 ホシノが左手で持っていたエビフライを口に放り込み、空いた右手で、飛んできた爆弾を何の気なしにキャッチした。

 

 「うへ〜、ハルナちゃん。おじさん、まだ食べてる途中なんだけどなぁ」

 

 ホシノは爆弾を両手の掌の中に、宝物を包み込むように優しく、しかし絶対的な質量で封じ込めた。

 

 

 ポフッ。

 

 ホシノの指の間から、わずかに白い煙が「ぷしゅー」と漏れ出した。それだけだった。

 

 

 100トンの肉体が放つ絶対的な圧力の中で、爆弾の爆発エネルギーは膨張することすら許されず、物理的に圧縮されて消滅したのだ。

 

 「……消えた? 私の特製爆弾が、爆発の余波すら残さず圧縮消滅したというのですか……?」

 

 ハルナが驚愕に目を見開く。

 

 「おじさん、この店気に入っちゃったからさ。壊されるのは困るんだよねぇ。……ね、ハルナちゃん?」

 

 ホシノがのんびりと、しかし底知れない質量を感じさせる眼差しでハルナたちを見た。

 その瞬間、美食研究会の四人は「野生の勘」で、これ以上ここに留まるのは生命維持の観点から不可能だと悟った。

 

 「……くっ、今日のところは撤退ですわ! 行きますわよ、皆さん!」

 

 ハルナたちは脱兎のごとく店を飛び出し、瞬く間に市街地の地平線の彼方へと消えていった。

 

 「あーあ、あの子たち、行っちゃったねぇ。……あ、お会計まだだったみたいだよぉ?」

 

 ホシノは最後のエビフライを飲み込むと、逃げていったハルナたちのテーブルを見つめた。

 

 「もう、ホントに人騒がせなんだから! アヤネちゃん、美食研究会の分も計算しといて!」

 

 「分かってるよ、セリカちゃん。……店長さん、大丈夫ですか? はい、これが今回の全額のお支払いです。……あ、美食研究会の分と、ついでに店内のリフォーム代も上乗せしておきましたから」

 

 アヤネが札束をカウンターに置くと、店長は腰を抜かしたまま「あ、ありがとうございますぅ……」と涙ながらに頭を下げた。

 

 「うへ〜、お腹いっぱい。おじさん、もう動けないよぉ。シロコちゃん、運んで〜」

 

 「ん、ホシノ先輩。……無理。……先輩を運んだら、私の脚の骨が地面に突き刺さる。ん、アビドスまで自力で歩いて。……ダイエットにちょうどいい」

 

 「えぇ〜、ケチだなぁ。ユメ先輩、肩揉んでくださいよぉ」

 

 「いいよ〜、ホシノちゃん! 美味しいもの食べられてよかったね!」

 

 100トンの少女が再び歩き出すたびに、ゲヘナの街には「ドォン、ドォン」という重厚な地響きが戻ってきた。

 背後では、エビフライ専門店の店主が、手に入れた莫大な補修費で「最強のシェルター店舗」を作る決意を固めていた。

 

 美食の道は険しく、そして何より「重い」。

 アビドスの夕暮れは、今日も一歩ごとに地形を変えながら、平和に(?)更けていくのだった。




【おじさんの「重い」お悩み相談】

 うへ〜、読み進めてくれてありがとう。おじさん、嬉しいよ。
でも、まだまだおじさんの『密度』が足りないみたいなんだよねぇ。

「この子と遊んでほしい!」とか「こんな地響きが見たい!」っていうリクエスト、感想欄に置いていってくれないかな?

 全部に応えるのはちょっと肩(100トン)が凝っちゃうけど、おじさんの琴線……いや、質量に触れたものは、全力の衝撃波を乗せて形にするよ。

 あ、そうそう。評価とかお気に入りとか……そういう『応援の重み』を貰えると、おじさんの筆……じゃなくて質量がもっともっと増えて、さらに凄い地響きが書ける気がするんだ。

 みんなの『重すぎる愛(リクエストや評価)』、待ってるね〜。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。