【完結】100トンホシノ先輩の規格外な日常 作:ていん?が〜
アビドスの復興は、もはやキヴォトス全土の噂となっていた。
かつての砂漠地帯が今や「高密度の富」を生む黄金郷。その中心に鎮座するアビドス生徒会長、小鳥遊ホシノを一目見ようと、他校からの視察団が絶えない。
「うへ〜、アヤネちゃん。おじさん、今日は寝てていいかな? ほら、外は日差しが強くて溶けちゃいそうだよ」
生徒会室の特注強化ソファ(チタン合金芯入り)に沈み込みながら、ホシノが欠伸を漏らす。
その「沈み込み」だけで、超高密度コンクリートの床からメキメキと不穏な音が響いた。
「ダメですよ、ホシノ先輩! 今日はトリニティ総合学園の『ティーパーティー』から、聖園ミカさんが親善訪問に来るんですから!」
書記の奥空アヤネが血相を変えて書類を整理する。その横で、会計の黒見セリカが、三メートルの安全距離を保ちながら「アビドス名物・超重圧饅頭」の箱を慎重に積み上げていた。
「ミカ……。あの『ゴリラ』って噂の?」
副会長の一人、砂狼シロコが銀髪を揺らしながら、窓の外を見つめる。
彼女もまた、ホシノの「質量」による予期せぬ引力変動を警戒し、部屋の隅の補強された位置に陣取っていた。
「シロコちゃん、口が悪いよ。……まあ、おじさんも人のこと言えないくらいの『重み』はあるけどねぇ」
その時、校庭にド派手なピンク色のヘリコプターが着陸した。
中から現れたのは、眩いばかりの光輪を背負った少女、聖園ミカだ。
「やっほ〜☆ アビドスのみんな! 噂の『100トンの生徒会長』に会いに来ちゃった!」
ミカは軽やかな足取りで校庭を横切り、校舎へと入ってくる。
彼女の背後には、護衛の正義実現委員会の一員が数名、震度計を確認しながら緊張した面持ちで控えていた。
生徒会室の扉が開くと同時に、ミカの視線はソファで丸まっているホシノに釘付けになった。
「えっ、あの子? 普通にちっちゃくて可愛いじゃない。本当に100トンもあるの? 冗談でしょ?」
ミカはクスクスと笑いながら歩み寄る。それを見たアビドスの面々が、慌てて彼女の前に立ち塞がった。
「お待ちください。私はアビドス高等学校、生徒会書記の奥空アヤネです。そしてこちらが――」
「会計の黒見セリカよ! アンタ、いくら他校の偉い人だからって、いきなり距離詰めすぎじゃない!?」
「ん、同じく副会長の砂狼シロコ。それと、あっちの穏やかそうなのがもう一人の副会長、十六夜ノノミ」
シロコが指差した先で、ノノミが優雅に会釈する。
「よろしくお願いしますね〜☆ ミカさん」
ミカは目を丸くして、一人一人の顔を見渡した。
「へぇ〜、アヤネちゃんにセリカちゃん、シロコちゃんにノノミちゃん……。みんな可愛いね! でも、私の目的はそっちのピンク髪の子なんだ。ちょっと握手しな――」
「ストーーーップ!!」
セリカが絶叫しながらミカの腕を掴もうとし、シロコに襟首を掴まれて止められた。
「何? 邪魔しないでよ、セリカちゃん。私、力加減には自信あるんだから」
「そっちの心配じゃないの! 触ったら、ミカさんの腕が――いえ、トリニティとの外交問題(物理的崩壊)に発展しちゃうわよ!!」
書記のアヤネも必死に割って入る。
「ミカさん! ホシノ先輩は……その、非常に『密度』が高いんです。不用意に触れると、ミカ様の筋力を持ってしても、反作用で骨が粉々になります!」
「あはは、大げさだなぁ。私だって結構タフだよ?」
ミカはアビドス流のジョークだと思い、ホシノの肩に「ポン」と手を置いた。
バキィィィィィン!!
ミカが触れたのはホシノの肩だったが、砕け散ったのはホシノが座っていたチタン合金ソファのフレームだった。
ホシノの「存在そのものの硬度」が、ミカのわずかな圧力を一切逃さず下方へと受け流し、強固な金属構造を一瞬で圧壊させたのだ。
「……えっ?」
ミカの笑顔が固まる。触れた手のひらから、まるで惑星の核を触ったような、逃げ場のない「密度の拒絶」が伝わってくる。
「うへ〜、ごめんねミカちゃん。おじさんの周り、ちょっと磁場っていうか重力っていうか、色々ややこしいことになっててさ」
ホシノがのっそりと立ち上がる。
その足が床に着いた瞬間、ドォォォォン!! と窓ガラスがビリビリ震える重低音が響いた。
「っ……! なに、このプレッシャー。魔女とか、そういう次元じゃない……。質量そのものが暴力になってる……」
ミカの瞳に、初めて恐怖ではなく「ガチの強者」を見る好奇心が宿った。
「面白いじゃない! ねぇ、ホシノちゃん。ちょっとだけ『手合わせ』してみない? 私、キヴォトスで私より力がある子、見たことないんだよね」
「えぇ〜、面倒くさいよ。おじさん、平和主義なんだってば。……ねぇ、ユメ先輩、なんとか言ってくださいよ」
部屋の隅で、お土産の紅茶を勝手に淹れていたユメが、のほほんと顔を上げた。
「いいじゃない、ホシノちゃん! 若い子同士の交流だよ。あ、でも校舎壊すと黒服さんに怒られちゃうから、中庭でね!」
「ユメ先輩!? 止めてくださいよ!」
アヤネの悲鳴も虚しく、一同は中庭の訓練場へと移動することになった。
中庭の訓練場。アビドスの生徒たちが五メートルの退避距離を保って黒山の人だかりを作っていた。
「トリニティの最終兵器」対「アビドスの動く要塞」。
ミカは愛用のサブマシンガンを構え……るかと思いきや、それを放り投げた。
「銃なんていらないよね。ホシノちゃんも素手でしょ?」
「うへ〜、おじさん、銃を持つと腕の重みで銃身が曲がっちゃうからねぇ」
ホシノは無造作に構える。構えというより、ただ突っ立っているだけだ。
「行くよっ!!」
ミカが地面を蹴った。凄まじい脚力。石畳が爆ぜ、一瞬でホシノの懐に潜り込む。
渾身の右ストレート。かつて巨大な壁を素手で粉砕したその一撃が、ホシノの腹部にめり込む――はずだった。
カァァァァァァァン!!!
戦艦の装甲板を鉄槌で叩いたような、鼓膜を劈く衝撃音が響き渡る。
「…………っ!!」
直後、ミカの表情が苦悶に歪んだ。拳はかろうじて折れなかったものの、ホシノの「100トンの絶対質量」に全速力で衝突した反動が、逃げ場を失ってミカの全身を駆け抜けたのだ。
ミカの体は激しい痙攣のように震え、腕から肩、そして背骨にかけて、経験したことのない激痛が走る。
「痛っ……痛たたた……! なに、これ……お腹じゃないよ、これ。中性子星を殴ったみたいな手応えなんだけど……!」
ミカは激痛に顔をしかめ、自身の震える右腕を左手で必死に抑えた。全身が痺れ、立っているのがやっとの状態だ。
「うへ〜、いいパンチだねぇ。おじさん、ちょっとくすぐったいよ」
ホシノは一歩も動いていない。どころか、ミカの拳が当たった場所の制服すらシワ一つ寄っていない。
「次はこっちの番かな? ……といっても、おじさん、パンチなんて怖くて打てないからさ。ちょっと『デコピン』でいい?」
「デコピン? なめてる――」
ホシノが中指をしならせた。
その指先が空気を弾いた瞬間、ソニックブームが発生した。
ドォォォォォォォォン!!
「あ。……やりすぎた?」
ホシノの指先から放たれた衝撃波だけで、ミカの体は後方の防壁を紙のように容易く突き破り、さらにその先の砂漠まで吹き飛んでいった。
「ミカ様ーーー!!!」
正義実現委員会の叫びが響く。
数分後、砂漠の彼方からボロボロになったミカが戻ってきた。
幸い(?)キヴォトス人としての超人的な頑丈さで無事だったが、その目はぐるぐる回っており、全身の震えはまだ止まっていない。
「……すご……。ねぇ、ホシノちゃん……。今度、トリニティに遊びに来てよ……。大聖堂の床、全部張り替えて待ってるから……」
「あはは、おじさんが行ったらトリニティが沈没しちゃうよ。でも、お菓子をくれるなら考えておくねぇ」
ミカはふらふらしながらも、満足げにヘリへと戻っていった。
どうやら「100トンの友情」が芽生えたらしい。
「ホント、人騒がせな人ね……。アヤネちゃん、報告書、なんて書けばいい?」
会計のセリカが頭を抱える。
「『他校生徒との親睦を深めた結果、砂漠に新しいクレーターが一つ増えました』……でいいんじゃないかな?」
書記のアヤネの死んだような目が、夕日に光った。
「さて、おじさんは疲れたから、今度こそお昼寝だよ。ユメ先輩、膝枕して〜」
「いいよ〜、ホシノちゃん! 重いけど、愛の重さだと思えば平気だね!」
ユメの膝の上に、100トンの頭が乗せられる。
バキッ、とユメの椅子が悲鳴を上げ沈み込んだが、彼女は気にせずホシノの髪をなで続けた。
平和な、あまりにも物理法則を無視したアビドスの午後は、こうして更けていく。
【おじさんの「重い」お悩み相談】
うへ〜、読み進めてくれてありがとう。おじさん、嬉しいよ。
でも、まだまだおじさんの『密度』が足りないみたいなんだよねぇ。
「この子と遊んでほしい!」とか「こんな地響きが見たい!」っていうリクエスト、感想欄に置いていってくれないかな?
全部に応えるのはちょっと肩(100トン)が凝っちゃうけど、おじさんの琴線……いや、質量に触れたものは、全力の衝撃波を乗せて形にするよ。
あ、そうそう。評価とかお気に入りとか……そういう『応援の重み』を貰えると、おじさんの筆……じゃなくて質量がもっともっと増えて、さらに凄い地響きが書ける気がするんだ。
みんなの『重すぎる愛(リクエストや評価)』、待ってるね〜。