【完結】100トンホシノ先輩の規格外な日常 作:ていん?が〜
アビドス高等学校の食堂は、今やキヴォトス全土の料理人が一度は厨房に立ちたいと願う「聖地」となっていた。
かつての寂れた給食室の面影はどこにもない。そこにあるのは、大型船舶のエンジンルームを思わせる巨大な排気ダクトと、隕石の衝突にも耐えうると豪語される超強化チタン合金製の調理台だ。
理由は単純。生徒会長・小鳥遊ホシノの100トンの肉体を維持するために、毎日トン単位で運び込まれる超一級の食材と、それらを「調理」という名の格闘で捌くための巨大な器具が揃っているからだ。
「うへ〜、今日の日替わりは何かな。おじさん、最近はちょっと脂の乗った大きなエビが恋しいんだよねぇ」
ホシノが食堂の床(厚さ50センチの強化コンクリートに、さらに防振ゴムと鉛を積層した四層構造)をドォン、ドォンと鳴らしながら現れる。
彼女が歩くたびに、食堂の天井に吊るされた照明が振り子のように揺れ、テーブルの上に置かれたコップの水が規則正しく跳ねる。
その後ろには、副会長のシロコとノノミ、会計のセリカ、書記のアヤネが並んで歩いている。
彼女たちはホシノから正確に三メートルの「安全マージン」を確保しており、ホシノが急停止した際の慣性衝撃に備えて、常に重心を低く保つ歩行術を身につけていた。
もはやこの「歩く震源地」に付き添うのは、アビドス生徒会役員たちの日常業務の一部である。
「ホシノ先輩、今日は『クジラ肉の竜田揚げ・アビドス風』と、サイドメニューに特大のエビフライが用意されているそうです。……あ、もちろんホシノ先輩用は、一頭丸ごとのクジラを部位別に切り分けたものですけど」
書記のアヤネが、振動で表示がブレるタブレットを必死に押さえながら告げる。
「クジラ一頭って……。それ、もう給食っていうか、生態系の移動じゃないのよ、アヤネちゃん」
会計のセリカが呆れたようにツッコむ。彼女もまた、ホシノの「質量」がもたらす引力変動で、自分の身体がわずかにホシノ側へ吸い寄せられる感覚をいなしながら歩いていた。
その時だった。
ドォォォォォン!!
食堂の南側の壁が、指向性の高い爆薬によって派手に吹き飛ばされた。瓦礫と煙の中から、四人の不穏な影が現れる。
ゲヘナ学園、美食研究会。
「見つけましたわ! 究極の食材、伝説の『100トン・ミート』を!!」
部長の黒館ハルナが、優雅に、しかし狂気に満ちた目でホシノを見据える。彼女の持つライフルが、ホシノの心臓付近を正確に照準した。
「会長、あれですか? あのピンク色のちっちゃいのが、マンモスをも凌駕する密度を持つという伝説の獲物……。ああ、火を通した瞬間に、どれほどの肉汁が溢れ出すのか想像しただけで……っ」
鰐渕アカリが、巨大なフォークとナイフを構えながら涎を拭う。その隣では、獅子堂イズミが既に自分の頭より大きいチョコ焼きそばパンを一口で飲み込んでいた。
「ん、美食研究会。……アビドスの資産を破壊したテロリスト。……捕まえて、砂に埋める?」
副会長のシロコが即座に無人ドローンを起動させようとするが、ホシノが「待った」をかけた。
「うへ〜、おじさんを『ミート』扱いなんて、ゲヘナの子は相変わらず食欲旺盛だねぇ。でも残念、おじさんは食べても美味しくないよ? 密度が高すぎて、普通のナイフじゃ刃こぼれするし、噛もうとした瞬間に歯が全部粉砕されちゃうと思うな」
「仰っしゃいますわね。密度が高いということは、それだけ旨味が凝縮されているということ! どんなに硬い肉も、調理次第で至高の逸品に変わるのです。イズミさん、テイスティング(試食)をお願いしますわ!」
「お腹空いたーー! いただきまーす!」
イズミが野生の獣のような跳躍で、ホシノに飛びかかった。標的は、ホシノの白く柔らかそうな二の腕。
「いただき――むぐっ!?」
イズミがホシノの腕にガブリと噛み付いた瞬間。
「ガチィィィン!!」という、およそ人体からは出ないはずの、超硬質合金同士が衝突したような重金属音が食堂に響き渡った。
「……あうぅ、は……はが……はがぬけるぅ……」
イズミは涙目になりながら、ホシノの腕を離した。彼女の強靭な歯は一本も欠けていなかったが、ホシノの肌には歯形すらついていない。
それどころか、イズミの噛む力が全て反作用として自分の顎に跳ね返り、彼女の頭全体が火花を散らすような衝撃に襲われていた。
「だから言ったじゃない。おじさんの肌はダイヤモンドより頑固なんだって」
「なんですって……!? ならば、物理的に柔らかくするまでですわ! ジュンコさん、火力を!」
「分かったわよ! 3分でこんがり焼いてあげるんだから! わたしの今日のご飯、邪魔しないでよね!」
赤司ジュンコが二丁拳銃を抜き放ち、ホシノの足元にガトリング弾を叩き込む。銃爪を引くたびに火線が走り、ホシノを包囲する。
しかし、放たれた弾丸はホシノの肌に触れた瞬間に「パウダー状」に粉砕され、ただの鉄の粉となって床に積もっていくだけだった。
「うへ〜、くすぐったいなぁ。あ、セリカちゃん、おじさんの靴が汚れちゃうから後で掃除お願いね」
「自分でやりなさいよ! というか、アンタたち! 人の学校の食堂で何してんのよ!アヤネちゃん、これ弁償させるわよ!」
セリカが怒鳴るが、美食研究会は止まらない。
「こうなったら、究極の調理法ですわ! 爆破による圧力加熱と瞬間燻製!!」
ハルナが大量のC4爆薬を取り出し、ホシノの周囲に設置しようとする。
「……さすがにそれは、おじさんも黙ってられないかな。お昼ごはんのクジラとエビフライが冷めちゃうしねぇ」
ホシノが、ほんの少しだけ腰を落とした。
その予備動作だけで、食堂の照明がショートしたようにバチバチと火花を散らし、周囲の重力分布が明確に歪み始めた。
「みんな、下がってて。おじさん、ちょっと『お片付け』するから」
ホシノが右手を軽く振り抜いた。
拳を作るまでもない、ただの「手払い」だ。
ッ――ゴォォォォォォォォォン!!!
ホシノの腕が空気を圧縮し、超音速の真空破を形成。その衝撃波は食堂を突き抜け、美食研究会の四人を真正面から飲み込んだ。
「あ、あら……あらあらあら……!!」
ハルナたちは悲鳴を上げる暇もなく、自分たちが開けた壁の穴を通って、遥か彼方の砂漠まで一直線に、流星のように弾き飛ばされていった。
「……あ、綺麗に飛んでいきましたね☆」
副会長のノノミが双眼鏡を取り出して空を見上げる。
「ん、場外ホームラン。推定飛距離、4キロメートル。放物線の軌道から見て、砂漠のD地点に埋没」
副会長のシロコが、既に手元の端末で着弾地点の座標を記録していた。
「ふぅ。やれやれ、おじさん、お腹が空きすぎて力が出なかったよ。今のはデコピン以下の、ただの挨拶くらいのつもりだったんだけどなぁ」
「あれでデコピン以下なんですか……? セリカちゃん、これ校庭と壁の修理見積もり、恐ろしいことになりそうだよ」
書記のアヤネが胃を押さえながら、崩壊した壁の修理見積もりを計算し始める。
「あはは! ホシノちゃん、今日も元気だね!」
そこへ、騒ぎを聞きつけたOGのユメがやってきた。
「あ、ユメ先輩。お疲れ様です。……おじさん、またちょっと暴れちゃいました」
「いいのいいの! ゲヘナの子たちも、いい運動になったでしょ。それよりホシノちゃん、クジラ肉とエビフライが焼けたよ! 特注の溶鉱炉型オーブンでじっくり火を通したから、100トンのホシノちゃんでも噛み切れる……かもしれない柔らかさだよ!」
「うへ〜、さすがユメ先輩! 分かってるねぇ」
ホシノは幸せそうに食堂の特等席(床が特殊なチタン合金で補強されている場所)に座り、山のように積まれた、一尾が軽トラほどもあるエビフライを頬張り始めた。
バキッ、ムシャ、ゴクッ。
ホシノが一口食べるたびに、校舎全体に「ドシン、ドシン」と地鳴りのような鼓動が伝わる。
彼女の咀嚼は、周囲の建物の耐震性能をテストしているかのようだった。
「……ねぇ、アヤネちゃん。美食研究会の修理費、ゲヘナに請求できるかよね?」
会計のセリカが帳簿を片手に尋ねる。
「……一応、『小鳥遊ホシノの正当防衛による二次被害』って項目で作っておくよ。たぶん、黒服さんが『素晴らしいデータが取れた』って言って、喜んで全額立て替えてくれると思うけどね……。彼の『研究資料』が増えるだけだから……」
その頃、砂漠の彼方で、ハルナたちは砂に頭から埋まりながらも、砂の中でうっとりとした表情で呟いていた。
「……素晴らしい……。あの密度、あの弾力……。そしてあの圧倒的な破壊エネルギー……。やはりあれこそが、キヴォトス最高の禁断食材ですわ、アカリさん……!」
「はい、会長。今度は、もっと強力な圧力鍋を用意して参りましょう……」
100トンの少女を巡る騒動は、胃袋の限界を知らない。
アビドスの昼下がりは、今日も重厚な咀嚼音と、どこか安らぐ地響きと共に過ぎていく。
【おじさんの「重い」お悩み相談】
うへ〜、読み進めてくれてありがとう。おじさん、嬉しいよ。
でも、まだまだおじさんの『密度』が足りないみたいなんだよねぇ。
「この子と遊んでほしい!」とか「こんな地響きが見たい!」っていうリクエスト、感想欄に置いていってくれないかな?
全部に応えるのはちょっと肩(100トン)が凝っちゃうけど、おじさんの琴線……いや、質量に触れたものは、全力の衝撃波を乗せて形にするよ。
あ、そうそう。評価とかお気に入りとか……そういう『応援の重み』を貰えると、おじさんの筆……じゃなくて質量がもっともっと増えて、さらに凄い地響きが書ける気がするんだ。
みんなの『重すぎる愛(リクエストや評価)』、待ってるね〜。